106. 子供に対しても容赦ない妖精
「もう少しで、合流出来ますぞ!」
ドワーフのオッサンが、塩太郎達に伝える
カキン!カキン!
前方から、剣激の音が聞こえるてくる。
近付くと、5人パーティーで戦ってるようで、しかも戦ってるのは、子供の侍装束の者だけだったりする。
「ほらどうした? キク! お前の力は、そんなものか!」
しかも、女の子。年齢は10歳前後。完全にスパルタである。
「チェーストーー!」
ズダダダダダダーーン!!
ちっちゃい少女は、薩摩示現流お得意の上段蜻蛉の構えからの一撃で、SSS級と思われる魔物を真っ二つに斬り裂いた。
「こいつは驚いたな……10歳程度、しかも女でこの威力かよ……日本に居たら達人の域に達してるぞ……まあ、魔力が無い世界で、今の威力を出せるとも思えねーがな」
そう。この世界の剣術は、剣術の技術と、魔力の強さ、魔力操作も加算される。
魔力を巧みに使う事により、子供でも筋力を補い、大人を越える力を出せるのである。
チビッ子剣士は、刀に付いた血糊を払い、刀を鞘にしまう。
「団長! 『犬の肉球』のメンバーをお連れしたぞ!」
ドワーフのオッサンが、30代ぐらいの黒髪の剣士に話し掛ける。
薄暗いダンジョン暮らしの筈なのだが、何故か日焼けしており、南国薩摩の末裔らしくお目目パッチリ二重で顔の彫りが深くて、体格もよく二枚目の顔立ちである。しかも、塩太郎と同じく木刀しか持っていない。
「おお! これはシャンティー殿! 会うのは2回目ですな!」
まさかの会うの2回目。
まあ、『犬の肉球』自体が、活動停止中で、南の大陸には滅多に行く事無かったので、しょうがないのだけど。
「久しぶりね! クダシ! 今日はエリスポーションの納品のついでに、頼みがあって来たのよ!」
シャンティーは無遠慮に、その場にエリスポーションの入った魔法の鞄を取り出し、クダシにそのまま手渡す。
「これは、わざわざどうも……」
クダシは、いきなり魔法の鞄を渡されて、少し困っている。
「分かってると思うけど、さっさと、エリスポーションを他の魔法の鞄と入れ替え、私の魔法の鞄は返して頂戴ね!
私のは、モッコリーナに作ってもらった、どんなに大きな物でも無制限に入る特別製なんだから!」
シャンティーは、偉そうに命令する。
「承知しました!」
ハラ・クダシは、いそいそとシャンティーの鞄からエリスポーションを取り出し、自分の魔法の鞄の中に入れ替える。
もう、そこには剣聖の威厳など、これっぽっちもない。
まあ、代々、腹黒シャンティーと関係がある『鷹の爪』の団長なので、シャンティーの扱い方は、歴代団長から色々伝わっているのだろう。
「お父様、この方々達は誰ですか?」
引き気味で見てた、ハラ・クダシと同じく、目鼻立ちがハッキリして、目がクリクリしてるハラ・キクが質問する。
「ああ、まだキクは、『犬の肉球』の皆さんの事を知らなかったな……『犬の肉球』と、『鷹の爪』は古い盟友なんだよ」
「『犬の肉球』? ガブリエル姫様の『犬の尻尾』じゃなくて?」
知らなかったとはいえ、ハラ・キクは、シャンティーの前で、絶対に言ってはいけない禁句を言ってしまう。
「キク! ちょっと黙りなさい! 『犬の肉球』と『犬の尻尾』は、別の冒険者パーティーです!
最強の一角に君臨してるアン殿のお父上、ドワーフ王ドラクエル様も、昔、所属していた冒険者パーティーで、350年前ぐらいまでは、『犬の尻尾』より、『犬の肉球』の方が有名だったんだからね!」
ハラ・クダシは必死だ。どうやら、シャンティーに、『犬の尻尾』と絡めて、『犬の肉球』をディスってはいけないと知っているようだ。
「そうなんだ!アン様のお父様が所属してた冒険者パーティーなら、とても強かったんですね!」
聞き分けの良いキクは、父親の必死の説明に納得する。
しかし、
「アンタ、さっき、聞き捨てならないこと言ったわね?
『犬の肉球』は、今でも強いのよ!過去形で話さないでくれる?
そして、今からアンタのお父さんを、ウチのアタッカーが、私の代わりに、ギッタンギッタンにやっつけるから、よ~く見ときなさいな!」
シャンティーは、子供の戯言に対しても、容赦なく圧を掛ける。
まあ、塩太郎と剣聖ハラ・クダシが戦うのは既定路線だったんだけどね。
「お父様は、誰にも負けないもん!」
「アラ? ハラ・クダシは、まだハラダ・ハナが10歳の時に負けて剣神の称号を奪われた筈だったけど、違ったかしら?
それから、前のベルゼブブ討伐レイドでも、異界の悪魔サルガタナスにも負けてるわよね?」
腹黒シャンティーは、子供に対しても容赦ない。
「それは……ハナ姫様は剣姫だからしょうがないんです!
それと、異界の悪魔サルガタナスは、ハラダ家、ハラ家が排出した歴代の剣神が挑んでも勝てなかった大物です!
お父様が勝てなくても、仕方が無いんです!」
なんか、ハラ・クダシが膝を付いてダメージを受けている。
多分、ハラ・クダシ的には、自分が負けたのを人前であまり話して欲しくないのだろう。
「そうなの。仕方が無いのね。そしたらウチの新たなアタッカー。ハラダ家、ハラ家のようなバッタモンの侍じゃなくて、異世界からガブリエルが呼び寄せた本物現役に負けちゃっても、仕方が無いわよね!」
腹黒シャンティーはフワフワと飛び上がり、子供のハラ・キクの顔を、高い位置から見下して、大人気なくニヤリと笑った。




