殺される度にスキルを得る《全自動・技巧取得》は追放を経て最強へと至る〜無限ループから脱出した俺は、全てを奪った家族へ復讐を誓う。今更後悔しても、魔王様と祖国への攻撃を始めてしまいました〜
「兄さん、これであなたともお別れだ」
王位継承権とは厄介なものだ。
通常、上から順に次期国王になる可能性が高い。
ルイトは第二王子。つまり、二番目に国王になる可能性の高い男だ。
しかし今ルイトは地下牢獄にいる。第三王子である弟、エンムによって監禁されたからだ。
どこかで薬を盛られたか。分からないが、ともかくルイトは今、とても悲惨な状況に陥っていた。
「兄さんはスキルもないんだからさ。やっぱり、国王の座につくのは《真珠の剣聖》を持つ僕が相応しい」
「……俺は一言も国王になるなんて言っていないぞ」
「だが、第二王子という肩書は変えられない。それじゃあね、お兄さん」
エンムは斧を持ち上げ、うつ伏せになっているルイトに何度も振り下ろした。
――――――――――――――――――――
スキル《全自動・技巧取得》が覚醒しました
――――――――――――――――――――
この文字列が、ルイトにとって『初めての死』を体験した最後の景色だった。
◆
「なんで生きているんだよ」
ルイトは自室のベッドにて目覚める。
自分の手を見ながら、体を震わせて一人悩んでいた。
確かに自分は、弟に殺されたはずだ。
でもどうして生きている。
それに最後に見た……あの文字列はなんだ。
ルイトはスキルを女神から授けられなかった不遇な少年だ。
しかし、あの文字列はスキルを取得したことを知らせる間違いのないものだった。
試しにステータスをオープンしてみると、
――――――――――
ルイト・アンダーソン
所持スキル
《全自動・技巧取得》
――――――――――
「俺、本当にスキルを持ってる……」
だが、このスキルの詳細は不明だった。
いくらタップしても説明が開かれることはない。
「ってか今いつだ」
ルイトは慌てて部屋から飛び出し、近くを掃除していたメイドに声をかける。
「ええと、十一月十日ですが……」
「一ヶ月前……だと!?」
ルイトがエンムに殺されたのは十二月十日。間違いない、一ヶ月前に戻っている。
状況は整理できないが、ともかく生き残れたのだ。
初めてのループをルイトは喜んだ。
だって、未来は見えているんだもの。あの惨劇を回避することができるはずなのだ。
「どうしてですか……? お父様?」
「お前を売国の罪で処刑する。いいから処刑台に立て」
民衆たちが見守る中、広場に設置された処刑台にルイトは立たされていた。
ルイトは反抗するが、すぐに兵士たちによって取り押さえられ処刑台に固定される。
「売国って、俺はなにもしていませんよ……?」
「黙れ。お前が国家の情報を隣国に流したのは分かっている。民衆の前で死に、そして反省しろ。永久にな」
「待ってくださいよ! おとうさ――」
――――――――――――――――
《全自動・技巧取得》の効果により
《鋼の剣聖》を取得しました
――――――――――――――――
◆
それから、ルイトは自分の父親も敵だということを知った。
どうやらルイトを疎ましく思っていたようなのだ。
スキルを持っていない王子は恥さらしだと。
それじゃあ一回目で弟に殺されたのはなんだったんだ。
「ではルイト。お前は私の実験台になってもらう。私が発現した《聖なる調合》がいかに優れたスキルかを父上に見せるために」
「……これを飲めばいいんですか」
また地下牢獄にいた。
だが、今回は弟であるエンムではない。
第一王子であるタタリだった。
タタリが持っているスキル《聖なる調合》は、どんなポーションをも生み出せる万能スキル。
そして、今回ルイトに飲まそうとしているのは劇薬だった。
自分のスキルの有効性を父上に見せるために、弟を殺そうとしているのだ。
「スキルを持っていないお前に価値なんてない。なんなら王族の恥さらしだ。だからね、ルイトくん。君は最期に国家の役に立ってもらうよ?」
ルイトはその頃には『殺され慣れていた』。
何度も一ヶ月をループし、何度も殺された。
どれだけ抗っても、自分が死ぬ事実は揺るがない。
ルイトは何も言わず、劇薬を口にした。
喉を焼き払い、内蔵を溶かす。
――――――――――――――――
《全自動・技巧取得》の効果により
《無限錬成》を取得しました
――――――――――――――――
◆
いくらループしたのだろうか。
ルイトには分からないでいた。
否、分かりたくなかった。
自分はどれだけ努力しても、誰かに殺される。
死は絶対であり、それを免れることはできない。
《全自動・技巧取得》は大体、どんなスキルかは分かった。
殺される度に何か一つ、スキルを取得する。
その代わり、一ヶ月過去に戻る。
そして、また殺される。
スキルは通常、一人一個までと決まっている。
まるでチートだ。
しかし、ルイトはスキルを発動できないでいた。
なぜかロックが掛かっているのだ。
それじゃあ宝の持ち腐れである。
さて、今回は家族の誰に殺されるのだろうか。
どんな殺され方をするのだろうか。
ルイトは無表情のまま、廊下を歩く。
すると、背後からバタバタと足音が聞こえてきた。
振り返ると、一人のメイドがいた。
「国王様がお呼びです! 今すぐに王の間へお願いします!」
「……分かった」
今回はやけに早かったな。
さて、売国という理由で二十回ほど殺されたが今回はどんな理由で殺されるのだろう。
部屋に向かうと、父親――国王が玉座に座っていた。
両隣には第一王子と第三王子の姿がある。
「どんな御用でしょうか」
「お前を、我が一族から追放処分とする」
「つ、追放ですか……!」
追放。つまり、ルイトは王族から抜けることになる。
この、負の連鎖から脱出することになる。
「ふん。だらしない弟とやっとお別れか。清々しい気分だ」
「兄さん、ぷぷぷ……! さようなら」
追放……追放……追放……。
追放だ!
「あ、あは。あはははははははははははははははははははは!!!!」
なんて最高の気分なんだ。
ルイトは何百回と殺されてきた。
それから解放される。
つまりもう、ループしなくていいのだ。
「頭がついにおかしくなったか。兵士たちよ、早くこの男をつまみ出せ!」
国王の一声により、ルイトは兵士たちに肩を捕まれ外に放り出される。
それでもなお、ルイトは笑っていた。
外は雨。
雨に打たれながらも、空に向かって笑い続けていた。
「解放された! 俺はとうとう、このループから解放された!!」
その刹那、脳裏にこんな文字列が浮かぶ。
――――――――――――――――
条件・『追放』を確認
全スキルのロックが解除されました
――――――――――――――――
「……復讐してやる」
王宮を眺めながら、ルイトは呟く。
「俺は、この国へ復讐してやる」
その日、少年は祖国を滅ぼすことにした。
◆
ルイトはまず、魔族を味方につけることにした。
理由は単純で、人間が嫌いだからだ。
人間なんて、誰も信用できない。
信用していた父親には殺され、兄からも殺され、弟からも殺され。
民衆はその処刑を楽しんで。
人間なんて、腐りきっている。
なら、人間ではない魔族側になればいい。
「《空間転移》」
幾重もの死を経験し、いくつものスキルを手にしているルイトは魔界へ転移する。
人間界とは違い、薄暗く、そして禍々しい雰囲気を孕んでいる。
「あそこが魔王城か……だけど、様子がおかしいな」
明らかに何者かに攻め入られたような形跡が遠くからでも分かる。
……勇者か。
随分前から、勇者がとうとう魔境を超えたと言う話を聞いていた。
魔境とは人間界と魔界をつなぐ境界のようなもの。
なら、今頃魔王城は大変なことになっているかもな。
ルイトはもう一度《空間転移》を発動し、魔王城内部に入る。
内部は、多くの魔族たちが倒れていた。
……魔族はなにもしていないのに。
何百年も前の魔族は、人間と戦争を何度もしていた。
しかし今は大人しいもので、人間側には何もしていない。
ただ、存在しているというだけで勇者に攻め入られている。
蹂躙されているのだ。
「俺と一緒だな……」
ルイトは歩き、魔王の間へと向かう。
扉を開くと、そこには三人の人間と一人の魔族がいた。
多分、あの三人が勇者御一行様。あの顔は……知っている。ルイトの国から輩出された勇者たちだ。
そして、禍々しい衣装に身を包んだ少女が魔王だろう。
少女が魔王だなんて、魔族側も大変なんだな。
「へへへ! こんな弱っちいのを仕留めれば金が貰えるなんて楽な仕事だぜ!」
「そうね! これで億万長者よ!」
「ガハハハ! 豪邸をいくつも建てられるな!」
余裕そうな勇者側と違い、魔王は涙を浮かべていた。
「わ、わしらは何もしておらんじゃろ! 平和に、く、暮らしていただけじゃ!」
「うっせえ! お前は俺らとにって金なの。だから殺されなくちゃいけないの! 魔王さん、足りない脳を使って考えてみ?」
やっぱり人間は最低だ。
ここまで落ちぶれていると、ため息すら出ない。
「……わしの部下たちはどうしたのじゃ」
「殺したよ。だってあいつらお前を必死で守ろうとしてくるんだもん。邪魔だったわマジで」
「……そうか、部下も死んだのか。民衆たちは……さすがに民衆たちは巻き込んどらんよの?」
魔族にも人間と同じように王国があり。
そして民衆も存在する。
しかし勇者はケラケラと笑って、
「全員殺しましたー! ほら、このマジックバッグの中にあいつらから奪った宝入ってまーす!」
「……全員死んだのか。それじゃあ、わしが生きておる意味もないの」
「そのとーり! それじゃあ殺しまーす!」
ルイトは前に出て、勇者の肩を掴んだ。
「ああ? 誰だよお前。まだ魔族の生き残りが――」
「《威圧眼》」
「ひ、ひあ……」
勇者はルイトの目を見るなり、剣を落として床に尻もちをついた。
そして口を引きつらせながら後ろに退いていく。
「だ、大丈夫か――」
「ちょっと――」
その他二人も、ルイトを見るなり腰を抜かす。
涙を浮かべながら、どんどん後ろに下がっていく。
そして。
「て、撤退だ!」
マジックバッグから転移結晶を取り出して、人間界に転移した。
もう、魔王の間にはルイトと魔王しかいない。
「お主、人間じゃろ。どうしてわしの味方をした」
「人間が嫌いだからだよ。俺はルイト。魔王様は?」
ルイトは手を差し出し、魔王の手を握る。
「わしはエリナ・ラビッツ。もう、魔王じゃないがな」
「いいや、エリナさんはまだ魔王だよ。さて行こうか」
「どこに行くんじゃ。わしにはもう、居場所なんてない」
ルイトはエリナの手を引いて、魔王の間を抜ける。
そして、振り返って。
「まだ息がある人たちもいるはずだ。大丈夫、これさえあれば完治するよ」
ルイトは《無限錬成》を発動し、魔法陣からいくつものエリクサーを取り出した。
エリクサーとは神の薬とも呼ばれるもので、どんな怪我や病気をも治すという代物。
「どうしてそれを……!?」
「いいから」
◆
ルイトは魔王城の中を歩き回り、息のある人にエリクサーを与えていった。
すると、みるみるうちに怪我が癒えていく。
「あ、あれ。私、死んだはずでは……」
「おはよう。まだ生きているよ」
服装からして、幹部辺りだろうか。
おもむろに立ち上がり、自身の体を不思議そうに眺めている。
「アイラー!!!!」
エリナは女性に抱きついて、わんわんと泣いた。
どうやら彼女はアイラと言うらしい。
エリナに抱きつかれて、少し驚いた表情を浮かべながらも笑顔をこぼす。
「あなたは?」
「俺はルイト。人間……だけど人間の味方じゃあない」
「くんくん……確かに人間の匂いがします。それ、嘘じゃないみたい」
急に顔を近づけてきたのでルイトは驚いてしまう。
女性慣れしていないこともあり、少しドキドキした。
「リーンも生きておるのかー!!」
もう一人、今度は白銀の衣装を身にまとう女性にエリナ抱きついた。
「勇者たちは……って魔王様!? どうしてあたしに抱きついて来てんの!?}
「リーン! リーンよ!!」
リーンは驚いた様子でエリナを振り払おうとする。
しかしエリナはぎゅっと抱きしめて離れようとしない。
その様子を困り顔でアイラは眺めていた。
「えっと、あんたはルイトだっけ。どうしてあたしらの味方してんのよ」
「理由が聞きたいですね。どうしてここにいて、私達を復活させたのか」
「ぐすん。そう言えば訊いておらんかったな」
全員の視線がルイトに集まる。
しかし、これはチャンスだと思った。
ここで説明をして理解してもらえれば、協力してもらえるかもしれない。
祖国を滅ぼすことを。
「俺は、復讐がしたいんだ。人間たちに復讐がしたい。だから協力してくれないか。俺たちで、人間たちに反旗を翻そう」
すると、三人は顔を見合わせて考える素振りをする。
しかしすぐに結論に至ったのか。
「わしも復讐がしたい。仲間たちを殺した人間に復讐をしたいのじゃ」
「生き残りは私たちだけなんですよね。……死んでいった仲間たちのためにも、動くべきではないかと考えました」
「そうね。民衆までにも手を出すなんて許せない。あたしらは何もしていないのに」
「決定だな。それじゃあ、人間たちに宣戦布告しよう」
ルイトたちは外に出て、魔界の平原を見据える。
この先。ずっと向こうに人間界がある。
「でも、私達は長年戦闘をしていないためかなり弱いですよ。魔王様は例外ですが……」
「魔王様は戦うのが怖いのよ。ね、魔王様」
「うるさいのじゃ! ……今は違う。もう覚悟を決めておる」
エリナは手のひらを人間界の方へ向け、魔力を込め始める。
すると闇色の魔法陣が浮かび上がり、回転を始めた。
「それじゃあ俺も」
ルイトも手のひらを人間界の方に向け、魔力を込める。
「《不死鳥の矢》」
「《死の雨》」
ルイトの魔法陣からは赤い炎をまとった不死鳥が放出され、空間を切り裂いていく。
エリナの魔法陣からは幾重もの魔法弾が放たれ、空間がねじ曲がったのが見て取れる。
方角はルイトの祖国、アルバニア王国に合わせている。
調整が間違っていなければ数分後には到達しているだろう。
ルイトは振り返り、
「それじゃあ二人には能力強化のバフをかけるよ。《ステータス共有》」
そうして、アイラたちの能力を底上げする。
これで能力値はルイトレベルになっただろう。
何度も死に、何度も生き返った者のステータスともなればレベルは段違いだ。
「な、なんでしょう。ものすごい力が湧いてきます……!」
「これがルイトの力……」
準備は完了だ。
後は少しずつ、確実に祖国を苦しめるだけだ。
「ルイト」
「……? どうした」
エリナが名前を呼んできたかと思うと、急に抱きついてきた。
彼女の温もりが直で感じる。
「絶対に勝つのじゃ……!」
「もちろんだ」
今日、この日が魔族たちにとって大きな一歩となったのは言うまでもない。
そして人間たちにとって大きな打撃を受ける日になった。
◆
王都に轟音が響き渡る。
国王であるガリル・アンダーソンはベッドから飛び起きて窓から外を見る。
「な、なんだこれは……」
街が燃え上がっていた。
赤い炎と黒い炎が混ざり合い、街を包み込んでいる。
国民たちの悲鳴も部屋内からでも聞こえてくる。
ガリルは体を震わせ、すぐに部屋から飛び出すと一人の兵士が報告をしに来た。
「魔界の方角から攻撃を確認致しました! ……そして、勇者たちが怯えた状態で帰還致しました」
「なんだと!? それではまるで――」
人間たちの敗北ではないか。
そんな言葉が声にでかけた直後にすぐに抑えた。
ここでそんな発言をしてしまえば、兵士たちの士気に関わってくる。
しかし、目の前で跪いている兵士は絶望的である。
「王都の人間の約半分は死亡したと考えていいでしょう……それほどの打撃を受けました」
「く、くそ! すぐに軍隊の準備をしろ! 魔界へ侵攻するぞ!」
「わ、分かりました!」
しかし、ガリルは今更どれだけ抗っても遅い。
いくつものチートスキルを持つルイトが魔族側になった以上、人間の敗北は確定しているのだ。
連載候補作です。
『村長からの大切なお願い』
下にある評価ボタン(☆マーク)をクリック、上部にあるブックマークボタンを押していただけると合計12pt入れることができます!
数秒で終わりますので、『面白い!』『続きが読みたい!』と思ってくださった方はぜひ入れてくださると助かります!
また、面白くなければ☆一つや二つ等入れていただけると参考になります!
よろしくお願いします!