前編
モブ視点となっております。
「それではこれより【勇者召喚】を行う。
皆の者、準備は良いな」
国王の声に、広い室内に居る大臣や執務官、高位貴族が、魔法陣を取り囲む魔法師の後ろに控える。
ほんの一瞬国王の視線がこちらへ向き、重々しく頷きながら「始めよ」と告げる。
その合図に魔法師が一斉に詠唱を始める。
皆が固唾を飲み見つめる中、魔法陣が光を放ち始める。
光る魔法陣に向け国王が、
「来れ、我が国に平穏と繁栄をもたらす勇者よ!」
玉座から立ち上がり両腕を上げ、声高々に宣言すると、目を開けていられないほどの光が魔法陣から放たれる。
あまりにも強い光で、目を閉じても瞼越しに眩しく感じた。
周りの方々も、呻き声を漏らしている。
詠唱が止まり、光が収まった魔法陣の中央には、一人の男が立っていた。
少し縮れた黒い髪は、前髪が長く伸ばされていて、目を隠しているけれど、この国の【人】にはみられない黒髪は、召喚が成功したことを告げている。
「おお、よくぞ参られた、勇者よ。
是非ともこの国に平穏と繁栄をもたらしてくれ」
立っていたその身を玉座へ戻し、威厳に満ちた声で【召喚された勇者】に告げる国王。
肯定の言葉を待ち、それでも隠しきれない打算が滲み出る笑顔を浮かべる大臣や高位貴族。
その中で【召喚された勇者】の一言目は………
「何だこれは」
全くで有る。
何だこの茶番は。
私の祖国であるこの国は、そこそこの規模、そこそこの繁栄、そこそこの収益の出ている農業国家である。
少し変わった点と言うなら、魔王が治める広大な大森林と隣接している事であろうか。
大森林と言えども、山あり谷あり大河あり、鉱山や地下資源もありの、とても恵まれた場所だ。
どの国もこの土地を少しでも自分の領土にしようと、昔は争いが絶えなかったそうだ。
余りにも争いを繰り返す人間に、このままでは土地の汚れから、この資源豊かな土地が荒れると、魔族を提げた魔王が、馬を駆けても何十日とかかる広大な土地全てを結界で封鎖してしまったのである。
結界で封鎖し、全域を魔族が掌握した事に不満を持った国々が協力して戦いを仕掛けても、全て返り討ちにあったそうだ。
そんな折り、とある国により、異世界から黒髪の勇者が召喚された。
勇者は魔族に匹敵するほどの強力な魔法を使い、当時の学者が唸るほどの知識を持っていたそうだ。
勇者は各国のトップから話を聞き、単独魔王の治める地へ赴き、交渉を成功させていたのだ。
果たして武力で押さえ込んだのか、知識で丸め込んだのか、詳細は残されていないけれど、年に二度、春と秋に、各国から渡される【発注表】に応じて、魔王国から【納品】されるシステムを作った。
これにより、魔王が管理しているとは言え、一部の国のみが利益を牛耳る事なく、表面上平和が訪れたので有る。
そんな御伽噺から千年以上。
『平和に生きていける事が何より』
と考える者も居るが、
『そこにお宝が有るのだから、周りを出し抜いてでも自分の物に』
と考える者も出てくる。
我が国がその後者だ。
国を挙げて過去の資料を漁り、他国からも秘密裏に情報を買って、次第に詳細が明らかにされていく。
伏せられていた【召喚した国】を割り出し、当時の記録を裏から手に入れ、噂話を出来る限り裏付けして、魔法陣を、座標を、詠唱を手に入れた。
座標は過去呼び出された勇者と同じ【地球】の【日本】と言う国に。
当時の記録により明らかになったのは…。
勇者が言うには
『異世界に召喚される時【チート】と言う能力が付くのがセオリー』
『日本人なら大抵パニックにならずに目標達成できるだろう』
『日本人は黒髪黒目だけど、髪の色は染めている者が多い。
でも召喚されたら何故か黒髪に戻るっぽいんだよね』
『男なら勇者か英雄、女なら聖女。
初っ端に素質が無く見えても、絶対100パーチート持ちだから。
飯テロや商業チート、内政チートなんてのも有るんだから、役立たずに見えても手放すのはやめたほうがいいよ』
『あ、喚んだんなら元に戻せって言う奴も居るから、送還魔法も準備しといてね。
自分はこの世界で自由にやらさせてもらうけど』
『最後に一つアドバイス。
チートスキル舐めたらあかんよ。
騙したり便利に使い捨てようとしたら、ザマァ一直線だからね』
………半分程意味不明である。
資料の最後に、この資料を記録したであろう人物の
『願わくば二度と異世界からの客人を招く事が無いことを願う』
との書き込みが有るのだが、国王達は
『富を独占するが故の戯言だ』
と取り合わない。
まあ、私は私の仕事をするだけですから、口を挟みませんけどね。
わたしの仕事は【記録師】。
普段は会議や裁判の様子を記録用の【記録石】と言う貴石に記録する部署の者なのだが、今回は国王曰く、
「国の歴史的瞬間を、後世に残す為、記録師の中で一番鮮明に残せる者に命ず」
とのことで、抜擢されてしまった。
記録した物は編集され、都合の良い様につぎはぎされる。
ハッキリ言って茶番で有る。
各国の取り決めで禁止とされている召喚を、こそこそ調べ勝手に行い、召喚者に嘘偽りを吹き込み、魔王国に侵入させ、そこで暴れさせ、そのどさくさに侵入し、奪えるだけの資源を奪ってくる。
勿論召喚者は見殺し、全てのものを隠蔽して、手に入れた資源は裏で流し、情報を操り、後世では
【富を独占する魔族に物申す為に異世界から勇者を召喚。
しかしその勇者が暴走し、魔王国と戦争に発展しかけたところを調停し、その見返りで渡された資源により繁栄した国】
と、自作自演どころか嘘八百な偽りの記録を残すのが私の仕事だ。
………正直言って逃げ出したい。
召喚される方にも、魔族の方々にも申し訳が立たない。
家族が人質に取られてさえいなければ亡命するのだが、異論を唱えそうな者の家族は、全て王命により囚われている。
全てが無事に済むまで、解放されることは無いようだ。
こんな国…………………。
そして全ての準備が整った今、哀れなる、このくだらない国の生贄が召喚されてしまった。
「おお、資料通り黒髪だ」
この世界に黒髪の【人】は居ない。
黒は魔族の色だと言われている。
「目は…何だあの鬱陶しい髪型は。
まあ髪が黒なら目も黒であろう」
前髪で完全に目が隠れているが、あれでは本人も周りが見えないのでは無いであろうか。
「確か召喚された者は全ての属性の魔法が使える筈であるな。
なら魔族を追い払うことも問題ないだろう」
全ての貴族は魔法が使える。
魔法が使えるから貴族なのだが。
但し使える属性は一つないし二つだ。
三つ以上の属性を使えるのは魔法師でも一部のみである。
周りの大臣方のヒソヒソ話に内心相槌を打ちながら、記録を続ける。
その間に国王が【召喚された勇者】に偽りの【設定】を告げている。
魔王が魔族を使い、富を独占している。
(嘘だ)
その為に周辺諸国が迷惑を被っている。
(嘘だ)
魔族は頻繁に結界から出てきて、無差別に人を襲う。
(そんな事実一件もない)
女性は拐われて凌辱されている。
(噂でさえ聞いたことない)
魔王は話が通じないから実力行使をする事になった。
(話が通じないのはどちらだ)
その為には結界を越えなければならないが、結界を越えるのはこの世界の住人には出来ないが、勇者ならできる。
(許可された人間は普通に通れる)
なので結界内で少しばかり魔族を討伐して欲しい。
(討伐というか喧嘩をふっかけるって事だよね?)
勿論国の兵が後方で支援する。
(後方支援という名の略奪だろう)
………もう、本当にこんな国……………。
「……話はそれだけか?」
黙って聞いていた【召喚された勇者】が口を開いた。
「一つ聞きたいのだが……」
「先程から無礼であるぞ!
一国の王に対してその言葉遣いは何事だ!」
被せるように怒鳴るのは、国王の隣に控える宰相。
チラリとこちらを見るからに【威厳ある宰相が王に対する無礼者を嗜める】を演出したいのであろう。
バカバカしい。
「よい、我は心が広い故、些事には拘らぬ。
なにせ別の世界から来たばかりなのだから、この世界の常識を知らずとも仕方のないことであろう」
「何と寛大な……。
そこな男よ、心広き王に感謝するが良い」
初対面の相手に無知と言うのが国のトップとは、恥ずかしくて逃げ出したい。
「それで、何を尋ねたい」
「……………………【俺】を召喚した理由を知りたい。
あの国には腐るほど人がいるのに、何故俺だったんだ?」
こんな茶番に付き合わされる理由を知りたいのはわかる。
「簡単なことよ。
異世界から召喚される折り【チート】なる能力が付くそうだが、基礎が有る方が上乗せされる能力も上がるであろう。
であるから【あの国で一番魔力の強い者】を選んだだけの事。
選ばれた魔力を誇るが良い」
「…………なるほどね。
【コレ】はこの国が勝手に行った事なのだろうが、色々情報を漏らしてしまった者にも問題はあるか……」
王の発言に【召喚された勇者】は、周りに聞こえない小さな声でつぶやいた。
しかしながら、記録の貴石を使っている私には、囁き程の小さな声でもはっきりと捉える事となる。
「さあ、勇者よ!
魔族を屠り、我に富と繁栄をもたらしてくれ!」
ああ、とうとう本音が漏れてるよ。
もうこの国はダメだ。
そう考えたのは私だけではなかった。
「全てを滅するのは簡単なのだがな、アイツとの【約束】が有るから選別はしてやろう」
呟きながら魔法を構成していく【召喚された勇者】。
余りにも規模の大きな、強力な魔法に、彼の周りに魔力の渦ができ、目を隠していた前髪が上がる。
その瞳は………。
「この世界に害をもたらす者よ、滅せよ」
可視化された魔力に反比例する如く、静かで穏やかな声が聞こえた。
発動される魔法、静寂、倒れる人々……全て一瞬の出来事であった。
「ほう、この場に居ても生き残る者があったか。
その者ら、我に真実のみを述べよ」
静かに告げながら歩き出した男は、玉座で事切れた国王を蹴落とし、豪奢なそれに腰を下ろす。
残ったのは私と魔法師二名、貴族一名と騎士二名の六人だ。
私達は玉座の前で【召喚された勇者】ではなく、黒髪で金眼の【何故か異世界から召喚された魔王】に膝をついた。
後編は明日の0時にアップします。
魔王視点となります。
宜しければ引き続き読んでいただけると嬉しいです。




