公務員の業務過失に関する考察~個人に5割を負担させる事は妥当なのか~
書くことにあたり、労働基準法第16条の条文や国家賠償法などを読み返し、2015年の事件に関する原告の訴状の棄却事由に関する棄却理由なども調べましたが、間違いがあれば申し訳ありません。
ばんばん感想欄にお叱りのお言葉を下さい。
兵庫県の県庁の貯水槽の排水弁の閉め忘れで発生した損害600万のうち、半額相当の300万円をミスをした職員に支払わせたという記事を見ました。
この判断の基準となったのは、2015年に都立高校で起きたプールの水開けっ放し事件だそうで、水道代案件と公務員の起こした過失事件という共通点ゆえだと思われます。
こちらの開けっ放し事件では、関係した教員に損害の半額を賠償させたのち、全額賠償を求める住民訴訟が起こされるも、訴えが棄却され、「業務上のこと」であること、公務員法(国家賠償法)に基づいて公共の物品に公務員が与えた損害にたいして故意または重大な過失がある場合に限りますが半額賠償が上限であることを認めているようです。
この都立高校の事件、担当した教員がプールの授業のために水をプールに貯め初めてから、天候の悪化で授業の中止が決まって、他の教員が止めてくれただろうと放置した結果、200万円を越える損害を出してしまったらしいんですよ。
良くチェックせずに水を止めなかったことが故意、または重大な過失であると判断して、半額弁済となった訳ですね。
確かにチェックをせずに損害を出してしまったことは問題ですが、だからと言って全額賠償を求めて住民訴訟を起こすのはおかしいと思うんです。
結果、裁判所が訴えを棄却したものの公務員法に基づいての支払い要請に理解を示したことで、こうした事案の判例として機能してるんですね。
この件がもし民間の企業なら、ここまでの賠償請求され弁済する事態になるかと言えば、先ず、なりませんよね。ひとつに大抵の民間企業は各種保険で損害に備えていること、ふたつに民間企業では責任制限の法理が適用されること、みっつに労働基準法第16条にて金銭による懲罰や賠償を予告する雇用契約を結ぶことが違法とされていること、この3点があると思います。
たいして、公務員法で損害額の半額までを弁済しなければいけないという規定は、つまるところ公務員採用されている公共の福祉に与する側の人間が公共の利益に反することは納税者の反発を招くであろうこと。全てが税で賄われている公務を執り行う公務員には、より高い意識と実践が求められると考えていることが根底にあるのだとは思うんです。
ですが、これが妥当かと言われると疑問なんですよね。実際、私は到底、理解出来ませんが都立高校の件のように全額弁済を求める声なんてのもあるわけですよ。まあ、その人たちは自分が職場でうっかりミスで数百万円の損害を会社に与えたら、即断即決で自己弁済される素晴らしい方たちなんでしょうから、素直に凄いなと思いますけど。
民間企業では多少のペナルティはあっても多額の請求はされないと書きましたが、まあ、もちろん業務に関係ないスタンドプレーや犯罪行為で損害を与えれば、当然に全額弁済を含めて賠償請求されるでしょうが、業務内の出来事であれば、やはり請求されることは稀でしょう。
ひとつ 各種保険に加入
民間企業は様々なリスクに対応して保険加入してますから、そこで対応するのが基本になっているのが普通ですね。
ふたつ 責任制限の法理
例えば、保険で賄えないとしても、業務内の出来事を例え個人のミスで起きたことでも、個人に全ての責任を負わせるのは間違いであり、責任に制限を持たせるべきだとする責任制限の法理が適用されますね。
これは例えばプールの件なら、蛇口の開口、閉口において、必ず二人以上が立ち会い、書式を用意して、日付、担当した教員を書き込んでチェックすることを徹底していれば防げましたね。
逆に言えば、そうした指導が無いまま、個人の裁量に任せて業務を行わせていた管理側の怠慢とも言えるわけです。学校や教育委員会、文科省などがガイドラインを作らずに現場の判断のみで多額の金銭が動く(この場合は水道代)業務を教員の判断に任せきりにしたことにも問題があるはずですよね。
民間企業で考えるなら、例えばうっかり台の上にある精密機械に当たって落として破損したとしましょう、当然、企業は保険で対応しますし、落としてしまった社員には多少のペナルティはつけるとしても、機械が落ちないように台の固定は十分だったのか、そもそも、導線上に台があり、ぶつかる危険性がある事が問題ではないか、などを検証して再発防止に務めるでしょう。それが、いきなり半額弁済と言われれば、他の社員もその後はびくびくしながら仕事をすることになり、能率が下がるでしょうね。そもそも、上司の指示や監督下にあって作業しているサラリーマンはその裁量の範囲を越える責任を負わせるべきではありませんよね。具体的に言えば支払っている賃金から相対的に考えて妥当と言える範囲におさめなければ、皆、責任ある業務をやりたがらなくなりますよね。
みっつ 労働基準法第16条
労働基準法では金銭による懲罰や損害賠償を予告する雇用契約を禁じてますね。
これはつまり、朝礼に遅れたら罰則5千円とか、会社に損害を与えたら、半額弁済、というような規定を設けて雇用契約を結ぶことはしてはいけないというものです。実際に業務において損害が発生したさいに企業が社員に弁済を求めることは民法上可能ですが、初めから労働契約として結ぶことは出来ないわけです。
ですから、横領や着服といった背任行為や、会社の資金で勝手な判断で取引を行い損害を出したなどの業務の範囲外のスタンドプレーなどにたいしては普通に賠償請求されるとは思いますが、業務内の出来事であれば民間企業ではほぼ弁済を求められることはないわけですね。
これを踏まえて、公務員だって、公務員採用されて公務に携わっている点を除けば、民間の労働者と同じく被雇用者であり、サラリーマンに過ぎないわけですよ。少額と言っても基準が難しいですが、例えば数万円程度の弁済を求めるなら、公務員法の規定に従うのも仕方ないかも知れませんが、数十万、数百万、下手をして数千万なんて事例が発生しても、その弁済を個人に求めるのが当たり前なんて事は間違ってませんかね。
今後、公務員の成り手が少なくなる可能性もありますし、優秀な人材ほど、公務員を避ける事態にもなりかねません。
何より、公務をしてるからと、イージーなヒューマンエラーにまで過剰な制裁を要求する社会を私は好ましく思いません。
まあ、住民訴訟を起こした方は、きっとミスなんかしないパーフェクトヒューマンなんでしょうが。
ご意見お待ちしております。
そして、関係ないことですが、なろう投稿100作目となりました。
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