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星の瞬きに身を預け

作者: 鷹師 森

 芝生の広場に並べられたリクライニング・シートに寝そべって空を見あげると都会では見ることのできない満天の星が目に飛び込んできた。ここまで来るのは面倒で、いつかいつかと言いながら先送りしてきたけれど、重い腰をようやくあげて、やって来た価値があったというものだ。日々の仕事で疲れ果て、疲れ果てているがゆえにさらに腰が重くなり、仕事の疲れを癒すためだけに休日を過ごし、再び仕事をする体力を回復するためだけに休日を過ごしている私にとって、休日にこんなところまでやって来るというのは思い切りのいる一大イベントなのだった。

 もはやこれ以上我慢ならない。それくらいに疲労が蓄積していた。肉体的な疲労もさることながら、精神的な疲労がピークに達していた。我慢強い方だと自分では思っているが、その我慢強さのせいでさらに疲労が積み重なっていくことの自覚があった。我慢せずにその都度ぶつかって放出しておけば、ここまでくたくたにならなくても済んだかもしれない。わかってはいるけれど、そんなふうにできない自分だということもわかっている。いや、それはただの言い訳で、ぶつかって放出するよりも我慢しておく方が楽だと計算してきた結果だということもうすうすわかっている。

 とにかくいまは夜空に広がる満天の星に体を預けよう。ちょうど月のない夜を選んできたので、空に光っているのは星だけだ。眼鏡をかけていても視力はそれほど良くないので、星が瞬いているのか瞬いていないのかは判然としない。瞬くのは恒星だっただろうか惑星だっただろうか。何度も調べたことがあるけれど、一向に覚えられない。たしか宇宙のガスだったか地球の大気だったかを光が通過することによって瞬くように見えるんじゃなかっただろうか。だとすると、恒星の光も惑星の光も地球の大気を通っているわけで、条件は同じだから、差が出るとすれば宇宙を通ってくる距離ということで、宇宙のガスが原因なのだろう。

 あいまいな記憶をあいまいなまま放置しておいてもたいして問題にはならない。こうやって宇宙に向かい合っていると、私の仕事の悩みなんてとるに足らない些末なことだと思えてくる。これで心が軽くなってくれたら御の字なのだけれど、些末な人間にとっては些末なことが相対的に重要なことなのだから、宇宙から見て些末であるということはこの場合気休めにはならない。

 果たして私が見あげるこの星空は私を救ってくれるのだろうか。それともただいまこのときだけの気晴らしに過ぎないのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「星空が私を救ってくれた」とならないところがリアルだなと思いました。それでも、この体験が主人公にとっての一時の気晴らしになればいいですね。
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