もたらされた情報
魔族の王がノルディア支援を決め、ガスリンがグワラニーに対してマンジューク防衛戦に加わるよう命じる決断をしたその日の翌日。
「……ということで、そろそろ始めようか」
実はこの前段として、グワラニーはペルハイに情報収集に向かったバイアが入手してきた米からつくられた酒、つまり清酒を約六十年ぶり口にしていた。
その味をたっぷりと楽しんだところでいよいよ本題に入った。
それが今ということになる。
そして、グワラニーに促されて始まったバイアの報告。
その核となるものはこのようなものであった。
アリターナの輸出禁止と商人たちの小麦買い占めから始まる小麦価格の高騰は事実であること。
アグリニオンの穀物商人の背後にアリターナがいることもグワラニーの推測通り。
さらにこの穀物商人はアストラハーニェでも大々的な小麦買い取りをおこない、その際にはワイバーンたちを含む大海賊の船が使用されたのだが、その際、海港を持たないアストラハーニェの湖に大量の船を転移させるという荒業がおこなわれたこと。
そして、情報の中で最も重要なこと。
それは今回の件に関する重要人物について。
まず、アリターナの穀物流通経路を押さえ、アリターナが溜め込む穀物買い取りをおこなっている者はアグリニオンの穀物商会の長で国のトップでもあるアドニア・カラブリタという名の十代の少女。
それから、小麦大量買い取りのもう一方である当事者であるアリターナの代表。
こちらは有名な交渉組織「赤い悪魔」の創始者であるアントニオ・チェルトーザという名の貴族で、彼こそがこの企てのグラウンドデザインをした者であり、これに関する一切を取り仕切っている者でもあるという。
「……つまり、舵取りをしたのは王ではなく、その貴族ということか」
「そうなります」
「……まあ、その男がどれほどの才の持ち主かは知らないが、これだけのことを大臣でもない者に任せるというのは王の度量も馬鹿にはできないということではあるな」
そう感想を述べたグワラニーだったが、実は彼にはもうひとつ気になることがあった。
……それはそれとして……「赤い悪魔」という名前はどうなのだ。
……もちろんこの名の本当の由来は知らないが、アリターナの「赤い悪魔」では、私にはイタリアの「赤い悪魔」しか思い浮かばない。
……偶然の一致にしてもろくなものではないな。それは。
だが、まさか皮肉を込めてこっそりと口にしたものが、本当にその組織の由来だったとは夢にも思ってもいなかったグワラニーは、あっさりとその話題を終了させる。
……まあ、そんなどうでもいいことはさておき、尋ねなければならないことがもうひとつある。
グワラニーが再び口を開く。
「……それで、王の代理人であるそのアリターナの貴族が盛大に小麦を買い漁っている理由はわかったのか?」
「残念ですが、それだけは海賊たちにもわからないようですね」
「まあ、さすがにそれは当事者以外にはわからないな。では、今度はこちらの話だが……」
そう前置きしたグワラニーが語り始めたのは王との会話で得られた成果だった。
もちろんそれはその前日にグワラニーが口にしていたとおりのものだった。
「……つまり、王はノルディアがこれまで輸入していた量をそっくり譲ってもいいと思っているのですか?」
事前にその可能性があることを聞かされていたとはいえ、いざそうなると驚かざるを得ない。
それがそのまま言葉になったようなバイアの問いにグワラニーは黒い笑みで応える。
「そうなるな。まあ、ノルディア側には多少なりともアリターナやフランベーニュから小麦を輸入しないと我々との関係が知られると伝えてはやるつもりではいるが。とにかくこれでノルディアの民はどのようなことになろうとも飢え死にする可能性がなくなったわけだ」
グワラニーの皮肉交じりの答えに薄笑いで応じたバイアだったが、とりあえずその話は一段落すると、自分たちにとって一番重要なことを話すため少しだけ表情を硬くし直した。
「それから……」
「マンジュークのほうはいかがでしたか?」
「同席していたガスリンはもちろん、王から何も出なかった。私としては今すぐの出陣命令が一番困ることだったのだから助かったと言えなくもないのだが」
「ですが、そろそろ我々が救援に向かわないと本当に手遅れになるのではないでしょうか?」
「そうだ。そのためにもできるだけ早く弓矢を手に入れなければならない。そのためにはなんとしても明日の交渉で決着をつける」
「まあ、今さらつまらん小細工はしてこないとは思うが、ホルムが面倒なことが言い始めたら、我々がどのような立場にある者であるかをもう一度心に刻み込んでやるつもりだ」




