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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第六章 荒廃する世界

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荒廃する世界  

また、これより先のエピソードの内容をより理解するために事前にシリーズ内にある別作品「アグリニオン戦記 外伝 Ⅰ」を読むことを推奨します。

また、「アグリニオン戦記 外伝 第三極」、「アグリニオン戦記 外伝 Ⅱ」を事前の読むことにより、人間関係に対する理解や裏側も知ることになると思います。

さらに、「アグリニオン戦記 外伝 穀物戦争」は本編の中で軽く触れられた部分を詳しく記されたものとなります。

 多くの兵を魔族領に送り込み、あらたな土地を領土として手にしたブリターニャ、フランベーニュ、それにアリターナという三つの大国でその兆候が現れ始めたのは、実をいえばそれほど古いことではなかった。


 順を追って話そう。


 別の世界の人間と同じようにこの世界に住む人間もまた常に戦いをおこなっていた。


 もちろん人間を道具程度にしか思っていない魔族との戦いは、自らの生き残りや尊厳のためにやむを得ない、いや、むしろ当然のものといえるものであった。

 だが、それだけに留まらず、領地争いを主要因とした同族同士の戦いを、魔族との戦いのさなかに起こしていたのはいただけない。


「今さら言ってもどうにもならないことなのだが、よりによって魔族との戦いにケリがつく前になぜそれを始めたのか。こういうのを見ると、『人間の歴史は戦争の歴史』というあの有名な格言が正しかったことを実感する。それどころか、人間は戦い抜きでは生きられない生き物なのではないかとさえ思えてくる」


 別の世界からこの世界に流され、その手腕によって人間同士の戦いを一時的という形で休戦に導いたあるアリターナ人の男が皮肉交じりそう呟くように。


 そして、その戦いであるが、魔法が存在する代わりに火薬、そしてそれを使用する銃や大砲は存在しないこの世界の戦闘スタイルは戦う相手や戦場が変わってもほぼすべてが剣を使った白兵戦と決まっている。

 つまり、相手よりも多くの兵を揃えることが勝利への近道となる。

 当然徴兵がおこなわれるわけなのだが、その対象のほぼすべては人口の大部分を占める農民となる。

 だが、一方で彼らは食料生産の担い手でもあることから戦いの多くが農閑期におこなわれていたのは十分理に適っているといえるだろう。

 ただし、それはあくまで一方の理論。


 なぜなら、相手が敵の都合に合わせる必要などない。

 それどころか、敵が弱体化しているときこそ攻め時。

 しかも、人間の主敵である魔族はこの時点でほぼ完全に兵農分離をおこなっていた。


 当然その機に乗じて魔族側の大攻勢がおこなわれる。

 はずだった。


 だが……。


 実際にはそうはならなかったのである。


 敵の数が大幅に減る農繁期は自軍が攻勢に出られるチャンス。

 これは間違いなく正しい。

 だが、逆に考えれば、こちらから手を出さなければ戦いは起こらない。

 つまり、魔族軍にとってもその時期は疲弊した兵たちを休養を兼ねて帰郷させられる貴重な時間がとれるということになる。

 そして、彼らはそれを有効活用していた。


 人間と魔族の戦い。


 それは、一年のうち半分近くは事実上の休戦という、別の世界での戦いを知る者にとっては信じられないほどのんびりとしたものだった。

 長い間続いたその緩い戦いに変化が生じたのはこの十年くらいのことである。

 まずはフランベーニュ王国が、続いてブリターニャ王国が常設軍の充実を図り、一年を通して魔族、さらに他国に対しても攻勢をかけ始めた。


 そして、その流れを確定させることになったのが、勇者の出現となる。

 圧倒的な力で次々と自軍の戦士を倒して回る目障りな勇者一行の討伐へ兵を割き始めた魔族軍の後背を狙って、それまで互いに領地を奪い合っていた人間たちが一時的な休戦と占領地に関する基本協定を結んだうえで大軍を設え一斉に魔族領に侵攻を始めたのだ。

 もちろん全方位からの大攻勢受けた魔族軍はおびただしい戦死者を出しながら後退したのだが、その過程で人間側にも多くの死者が出る。

 もちろんその大部分は徴兵された農民たち。


 それだけではない。

 それまでは農繁期には農地に返していた農民出身の兵たちを軍は前線に張り付けたままにする。

 いや。

 不文律の休戦を破り不意打ちを食らわせた人間の非道に怒り狂い、本格的な戦闘態勢に入った魔族軍の猛烈な反攻に対処する兵数を確保のため、張りつけざるを得なくなったといったほうがいいだろう。


 もし、ここで各国が進撃を止め、魔族軍の反攻を受け止めながら、戦い方を元に戻すように舵を切れば、事態は改善に向かったのかもしれない。

 だが、実際にはそうはならず、農地から次々と男たちが引き抜かれていったのである。

 その結果、占領地は増えても労働力の不足により、それに見合うだけの生産量は得られない。

 いや。

 農地での働き手を戦争ですり潰した分、生産は下がる一方となる。


 さらに、この世界ではその原因がいまだ解明されていない、別の世界では「連作障害」と呼ばれている収穫不良が生産量の低下に追い打ちをかける。


 そして、減り続ける食料の分配はどうなるかといえば、まずは王族や貴族、続いて軍、その残りを商人たちが買い取り高く売る。

 それでも買える者はいいが、皆がそうとは限らない。

 それどころか、もともと食料自給率の低いブリターニャ王国やノルディア王国、そして、そもそも農業従事者が少ない商人国家アグリニオンが高値で買い取るため、この世界の食料生産地となっていたフランベーニュやアリターナでさえ庶民の間では穀物不足が起き始める。


 それはまさにその時代より遥か昔に魔族の第十一代の王だった者が口にしたことが、完璧な形で現実となったものといえるだろう。


 もちろん、現在はなりつつあると表現すべきなのだろうが、このまま事態を放置すれば、いずれ未来形ではなく現在形として表現できることになるのは間違いない。

 そして、それが始まれば、すぐに次のフェイズに入る。


 国の崩壊。


 それが目の前にまで迫っているにもかかわらず、為政者たちは誰ひとりとして事態の深刻さを気づいていなかった。

 ブリターニャ王国とフランベーニュ王国は、一歩、また一歩と破滅へ近づいていく。

 そのようななかで、動き出したのはアリターナ王国だった。


 それに関わる情報がある男の耳に入ったのである。

 必然のような偶然の産物として。

 そして、その男は、別の世界での知識からこのまま現在の状況を放置しておけば、魔族との戦いどころではなくなることに気づく。


 そこから始まるのは本当の意味での生き残りを賭けたこの世界全体を巻き込んだ大穀物戦争。

 そして、最終的に窮地に追い込まれたのは例のあの国となる。

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