あらたなる旅立ち
普段のファーブからは考えられない殊勝な言葉が草原に吹く風に流されてからほんの少しだけ時間が進んだ同じ場所。
「それで、これからどうする?」
「当然明日出発だ」
「俺も賛成」
「早く戦いな」
「まったくだ。強敵相手に戦わないと腕がなまる」
勇者とその仲間で幼馴染でもある兄弟剣士の美点のひとつ。
それは立ち直りの速さであろう。
ほんの少し前に、自己否定の言葉を並べ立てていた同じ口から出たものとは思えぬ三人の威勢の良い言葉に、彼らの仲間で保護者兼スポンサーでもあるアリスト・ブリターニャは微笑む。
そこに割り込んできたのは女性の声だった。
「実はそれについて耳よりな情報を手に入れてきました」
彼女フィーネ・デ・フィラリオが口にしたのはフランベーニュ軍の大きな動きに関する情報だった。
フィーネの、短いが内容の濃いその話が終わると、まず口を開いたのは先ほどまでレベルの低い話に興じていた三人とは別の人物だった。
「……つまり、フランベーニュがブリターニャとの国境に張りつけていたボナール将軍とその配下二十万人を魔族軍との戦いに投入することに決めたということなのですか?」
驚きを隠せぬ。
それが如実に現れた男のその言葉を、ここまでその情報を隠し持っていた成果だと喜びつつ、表面上はなにひとつ変えぬままフィーネが情報を小出しにするようにさらに言葉を加える。
「しかも、現在彼は王都で大々的に人員を募集しています。最終的には三十万人くらいの軍を仕立ててでかけることになりそうです」
「なるほど」
フィーネの言葉にアリストはそう言いながら頷き、続いて長くない言葉を呟く。
ボナールと彼の軍の相手をする魔族たちを憐れむように。
「ボナール将軍が率いる三十万人の軍。それを相手にするのは難儀なことですね」