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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第六章 ラフギール
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勇者たちの帰郷 Ⅲ

 あれから六日が経ったラフギールとアガタウィーとの中間地点にある小高い丘。


「……来ないな」

「そうだな。さすがに五日目となると飽きるな」


 あきらかに待ちくたびれている弟の呟きに同じ思いの兄が応える。


「グレンモアランとアガタウィーの間は徒歩で二日の距離。そして、アガタウィーからここまでも半日くらいはある。だが、それはあくまでグレンモアランからのものだ。この場合はやはり状況をグレンモアランのお方とやらに伝える時間を考慮すべきだったのではないか。ファーブ」

「それに軍を仕立てる時間もいる。こんなに慌てて出て来なくてもよかっただろうに」


 それは兄弟剣士のもう何度も聞かされた非難の言葉。

 再び起こった兄弟剣士の大合唱に顔を顰めた相手が口を開く。


「そうは言っても、こういう場合は奴らが最高の条件で動くことを想定すべきだろう。間に合わないというのが最も悪い手なのだから相手が来るのを数日待つくらいはよしとすべきだ。それに早く来たからこそ、こうして間道に入られない場所を戦場として設定できたのだろう」


「と、とにかく、もう少し待とうではないか」


 もちろん、ファーブの言うことはふたりにも十分理解できる。

 だが、何も起きず持ち込んだ食料を食い散らかすだけの無為な時を過ごしているのもまた事実である。


「……そうだな」


 ファーブの言葉というよりは自分自身を納得させるように兄剣士が呟く。

 釣られるようにその言葉に頷いた弟剣士はついでと言わんばかりに自らが気になっているあることをつけ加える。


「ところで、遅いといえば、もうひとつの方も相当なものではないのか……」


 実を言えば、彼らはあの日の夜、幼馴染のエマの提案を受け入れ、代表としてファーブが町の近くにあるこの国の第一王子アリストの別邸に向かい、館を預かる執事に主人宛ての手紙を託していた。


「ラフギールがグレンモアラン領主ブルーノ・アルトナハラに襲撃される可能性がある」


 その手紙には短くそう書かれていた。


「ファーブよ。ちゃんと大至急アリストに届けろと家人に言ったのだろうな」

「もちろんだ」

「ということは、別邸の使用人が仕事をサボったということか?それとも、転移移動できる魔術師がいないとか?」

「いや。アリストに仕える者は皆優秀だ。しかも、手紙を届けたのは見ず知らずの者ではなくこの俺だ。もちろんアリストが発行した王都の城門通行証も見せて。そこまでした相手の手紙を放っておくなどという手抜きは田舎貴族の従者でもしないだろう」

「魔術師は?」

「いるに決まっているだろう」

「ということは、問題は受け取った方か。おおかたフィーネがごねているのだろうな」

「ありえるな」


「いや。……もしかしたら……」


 その堂々たる体躯と誰もが羨むような戦果を挙げる怪力の持ち主という見かけに反し、心配性または小心者というその性格のためなのか、あることに気づき、不安に駆られたのは兄剣士だった。


「至急応援に来いとは書かなかったから、アリストは予定通り王都で集合するものと思っているのではないだろうか」


 その言葉に残るふたりも、自分たちが送った簡潔な手紙の内容を思い出す。

 そして、起こる不安の連鎖。


「あり得るな。つまり、あれは俺たちがひと仕事するので王都に行くのが遅れるという連絡をしたためた一筆であるとアリストは受け取ったということか」

「こうなるとその線が濃いな。だが、そうかと言って今さら手紙を出し直す時間はない」

「そして、ありがたいことに、ここで貴族様のお出ましだ」


 遠くの丘を越え、見えてきたその集団とその中央にはためく豪華な旗を彼らは見つめる。


「こうなったからには俺たちだけでやるしかないだろう」

「そうだな」

「まあ、相手のことを考えればなんとかなるだろう。そのつもりで出てきたわけだし。問題は貴族様の処遇だが……とりあえず殺さなければいいわけで、その後の面倒ごとは、アリストに押しつけてやればいい」


 そして、目の前まで待ち人の集団がやってきたところで最年長者の口が開く。


「では、そろそろ丘を下り仕事を始めるか」


 そして、それからしばらく経った同じ場所。

 百三十人対三人という冒険活劇よろしく派手な大立ち回りを演じながら彼ら三人は最高級の渋面をつくっていた。


「こうなってくるとやはりアリストの遅刻は痛かったな」

「これはお仕置きものの失態だ」

「まったくだ」


 冗談に形を変えているが、それは間違いなくこの場にいない者への盛大な苦情。

 そして、戦闘狂と評される彼らの口からこのような言葉が出るということは、当然三人が置かれて状況は芳しいものではないということになる。


 予想もしていなかった魔術師の存在。

 それがその苦戦の理由となる。


「……まさか魔術師がいるとは。それもふたりとは驚きだ」


 そう言った兄剣士がもう一度口を開く。


「まあ、ふたりとはいえ能力が低かったのは助かった」


 大事な部分が省略されたその言葉に応じたのは彼の弟だった。


「まったくだ。もし相手がフィーネだったら三人とも今頃消し炭になっている。それに、魔法攻撃が始まったのもあらかた片付けた後というのも助かった。それにしても、まさか野盗ごときに魔術師が紛れ込んでいるとは。何事も油断は禁物だな。次回からは十分に気をつけることにしよう」


「だが、その反省点を次に生かすためにも、なんとしてでも生き残らなければならないわけだが……それでどうする?」

「どうする?そんなことはもちろん決まっているだろう」


 飛んでくる火の玉を避けていたファーブが自らの言葉につけ加えた問いの言葉に兄剣士ロはそう答えた。

 簡潔を通り越して内容的には必要最小限度にも届かないその返答は、さすがに言った本人も足りないと思ったのか、ほんの少しだけ補足の言葉が加えられる。


「ここは、いや、このようなときこそ勇者の出番だろう」


「なぜ俺だ?」


 当然やってくるその言葉に納得しない勇者からの問いに兄剣士がうれしそうに答える。


「他人のために自らの身を犠牲にする。まさに勇者に相応しいおこないだろう。そして、涙なしでは語れない新たな伝説が生まれる。その点、俺にはかわいいエマがいる。勇者が女性を泣かせるわけにはいかないのは当然だろう。安心しろ。ファーブがどんなぶざまな死に方をしても俺が勇者らしい最期に仕立ててやるから」

「ふざけるな」


 兄剣士が堂々と口にする、いつもなら言わない、少なくても本人の前では絶対言わない将来の結婚相手ということになっているエマ・フォアグレンをダシにした背中が痒くなりそうなそのセリフに勇者の顔が歪む。


「何がかわいいエマだ。本当にそう思っているのなら今度その言葉をエマの前で言ってもらおうか。それからマロは大事な部分を勘違いしているようなので正しておけば、勇者などという他人に押しつけられた肩書を守るという、ただそれだけの理由で他人のために犠牲になる精神など俺は爪の先ほども持ち合わせていないからな。だが、エマの機嫌を悪くさせるようなことをするのはどう考えても今後生きていくうえで得策ではないのもこれまた事実。とりあえずそれについては承知した。しかし……」


 そこまで言ったところで、勇者の顔にどす黒く変色した笑みが浮かびあがる。


「そういうことであれば俺にだってふさわしい理由がある」

「聞こう」

「勇者としての義務と務めだ」


「おい。たった今、勇者の肩書を盛大にこき下ろしておきながらすぐにそれか」


 この世界に「舌の根の乾かぬうちに……」という表現が存在したら、まさにその使い時と言わんばかりの状況に、今度は兄剣士の顔が歪む。


「勇者の義務?なんだ?それは」

「もちろん魔族の王を打倒することだ。これは俺の役目だとこの世界の誰も知っていることだ。勇者たる俺はそれをやらずに終わるわけにはいかない」


「なるほど。たしかに」


 普段なら考えられないくらいに物分かりのよい兄剣士が大きく頷いて自らの主張に同意すると、勇者は待っていましたとばかりにある提案をする。


「その点ブランは待っている女もいないし、果たすべき役目もない。ここでいくのはこの世界にしがらみのないブランだと俺は思うのだがどうだろう?マロ」

「うむ。ファーブの言うことも一理ある。では、ブラン。非常に残念だが、ここは特別におまえにこの戦いでの最大の功を譲ることにする。人生最高の見せ場だと思って頑張ってやってくれ」

「ふざけるな。結果ありきの臭い芝居をしやがって。そして、なんでいつも都合が悪くなるとそうなるのだ」


 彼らの策。

 それはひとりを盾にして近接戦に持ち込み邪魔な魔術師を排除する。

 レベルの低い魔術師相手限定ではあるが、これは人間、魔族を問わず多くの戦場で使われている剣士による対魔術師の戦い方である。

 ただし、いうまでもなく盾役の者は死ぬ可能性が高い。

 そして、三人が揉めていたのは誰がその役をするのかということであり、年齢と力関係が主成分である理不尽きわまる選考方法によってその役に選ばれたのは弟剣士ということである。


「フィーネの一撃でも死ななかったおまえならあの程度の火球、数十発食らっても死ぬことはない。まさにこのような仕事をするために生まれてきた男。信頼しているぞ」


 血のつながっている兄からとは思えぬありがたすぎるその言葉に弟の顔は渋みで覆われる。


「好き勝手言いやがって。まったくろくでもない兄貴だ」

「安心しろ。たとえ黒焦げになっても骨は必ず拾ってフィーネのもとに届けてやる。つまり、どんなことになってもおまえの将来は安泰だ」

「ふざけるな」


 もちろんそのような役などやりたくはない。

 だが、局面打開のために誰かがそれは引き受けなければならないのは事実。

 そうでなければ、いずれ全員が黒焦げになるのだから。


 覚悟を決めた弟剣士の口が再び開く。


「とりあえず今日はやってやる。だが、次こそ絶対にやらん。それから、これでもし失敗して三人ともにあの世に行くようなことになったらふたりとも向こうでもう一回殺すからな。もうひとつ。今後一年間の俺の飲み代はふたりの払いだ。忘れるなよ。では、行くぞ」

 

 諸々の要素が微妙に絡み合った表情をした弟剣士が行動の速さを誇るかのように、その言葉とともに最初の一歩を踏み出した瞬間、その場にいる誰もが予想していなかったことが起こる。


 三人の頭上をものすごいスピードで火球が飛んでいったのだ。

 それまでここを飛び交っていたものが小さな火花に思えるくらいの大きさのその火球は大量の悲鳴を飲み込み、あっという間にふたりの魔術師のもとに到着、文字通り生きたまま火葬にする。


「なに?」


 まったく反対の感情を持ったものの、双方ともすぐには何が起こったのかわからず、同じ言葉とともにそれがやってきた方向を眺める。

 そこは少し離れた小高い丘。

 そして、そこに立つフードで顔が隠した男と、銀髪を靡かせる女を見つける。


「……フィーネ。……と、アリスト」


 それをやったのは誰なのか?

 それがわかったのは一方の側だけだった。


 ファーブ、つづいて残るふたりも、下級魔術師ならどんな小さい魔法を行使する際にも絶対に必要となる魔法の依り代、つまり杖を使わずそれをおこなった女性魔術師とその同行者の名を口にする。

 敵味方を問わず唖然として眺める彼らのもとには到底届かぬ声で何かを言った彼女は、「銀髪の魔女」の名にふさわしい黒い笑みとともに右手をもう一度天に向けると指先に小さな火の玉が現れる。


 そして、フィーネの手が振り下ろされると、それは急激に巨大化しながら目的の場所を目指す。

 まるで、それ自体に意志があるかのように。


 再びの悲鳴。

 そして、すぐにやってくる静寂。


 残っていたのは多くの黒焦げの死体と、わずかな護衛に守られながらガタガタと震える高価な鎧を纏ったひとりの男。

 

 その直後、男の足をものすごいスピードで駆け寄った弟剣士が力一杯踏みつける。

 立ちはだかろうとした護衛を勢いのまま斬り倒して。


「ぐわっ」


 何かが折れる、いや潰れると表現すべき不快な音とともに、こちらも表現不能な悲鳴を上げた男は悶絶する。


 言うまでもないことではあるが、相手を生きたまま捕らえるのであれば、取り押さえた相手を縛り上げるのが定石なのだが、残念ながら彼らは縄の持ち合わせがなかった。

 そうなれば、逃げられなくするための次善の策として足を封じするしかない。

 弟剣士は単純だが効果的な方法でそれをおこなった。

 その結果が男の悲鳴となる。


「足の骨が砕けたくらいで騒ぐな。おまえの子分どもは皆死んだのだぞ。しかも、その大部分は丸焼けだ」


 竜頭蛇尾、トンビに油揚げを攫われたなどなど様々な表現が似合う不完全燃焼状態の三人の剣士が八つ当たり気味に苦痛にうめき声を上げるだけの男を言葉で甚振っているところに、先ほどの男女ふたりが到着する。


「皆さん。お疲れ様でした。いつもどおり本当に見事な働きでした」


 三人にとっては嫌味以外には聞こえないその言葉をさらりと口にしたその男アリスト・ブリターニャは視線を地面に転がる縄のない囚われ人に向ける。


「お初にお目にかかります。さて、野盗の頭であるあなたにお伺いを……」

「失礼な。私は野盗などではない。誰に雇われたか知らないが、私にこんなことをしてただで済むと思うなよ」


 アリストの言葉を遮った男は精一杯の強がりを見せた。

 だが、爵位を持たない田舎貴族の、自らの国の第一王子に対するその言葉は、すべてを知る者にとってこれ以上ない喜劇である。


 当事者のひとりアリストは相手にもその心の内がわかるように黒い笑みを浮かべる。

 もちろん他の四人も同様である。


 失笑が止まぬなか、自らの身分を明かすことなくアリストはさらに問う。


「野盗ではない?では、どちら様なのでしょうか?」


「グレンモアラン領主ブルーノ・アルトナハラ。リースター子爵に連なる者だ」

「子爵に連なる?つまり、あなた自身は子爵ではないということですか?」


 先ほどのお返しのごとくアルトナハラのもとに届けられたアリストからの強烈な皮肉。

 再び起こる笑い。


「……貴様。冒険者風情が貴族に対して無礼だぞ」


 実際に抱える物理的痛み以上に沁みる、その言葉による心の痛みを真っ赤にした顔全体で表現するアルトナハラに、アリストにこれまたわざとらしく頭を下げる。


「失礼しました。さて、その偉い貴族様にお伺いします。あなたはなぜあの町を攻めにきたのですか?」

「理由はある。だが、そんなことよりも……」


 アリストの問いには答えず、半ば遮るようにそう言ったアルトナハラは貴族とはとても思えぬ上品とはいえない笑みを浮かべる。


「そんなつまらん質問をして悠長に時間を潰していてもいいのか?」


「どういうことでしょうか?」

「今頃私の別動隊二十人がおまえたちの町を攻めている。当然皆殺しだ。つまり、おまえたちはここでいくら頑張っても報酬を手にすることはできない」


「なに?」


 アルトナハラのその言葉を聞いた瞬間、アリストとフィーネ以外の三人の顔色が変わる。

 実を言えば、彼らも町が両側から攻撃されることは考慮に入れていた。

 だから、間道に入る前に敵を叩くためにここで待ち伏せしていたのだ。

 だが、転移魔法という移動手段を相手が持っていたのは想定外。

 いや。

 魔術師の攻撃が始まったとき、彼らの胸にもしかしたらという不安は過っていた。

 そして、その不安はアルトナハラの言葉によって現実になってしまったということになる。


 三人は自分たちの思慮が足りなかったことを再び後悔し、その結果がどうなるかを想像した。


「殺す」

 

 それはマロが戦斧に手を賭けた瞬間のことだった。


「大丈夫ですよ。マロ。問題は何もありません」


 その声の主はアリストだった。

 

「もう一度言います。ラフギールでは何も起きません。だから、剣を収めてください」


 そう言ってから、煽りの言葉を発した男をアリストは眺める。

 

「さすが貴族様。私たちにとってそれは一大事です」


 その様子を見たアルトナハラは目の前にいる者たちが自分の言葉を信じていないと思い、事実を伝えるため言葉を重ねる。


「三人の魔術師に率いられた二十人が向かった。これは事実だ。そして、もう一度言う。当然今からではおまえたちの雇い主を助けるのは難しい。つまり、このままではおまえたちはただ働きだ」


 さらに続けて、激痛に耐えながら思いついた、ここから立場を逆転する秘策を語り始める。


「……だが、ここに一つの道がある。もし、ここで私の命を救うのであれば、私がその者から貰うはずだった報酬の倍を約束しよう。さらに、希望するなら雇ってやってもいい。どうだ。悪くない話だろう」


 もちろんアルトナハラにはこの策に関して十分に勝算があった。

 彼の目に映る男たちはいわゆる冒険者と呼ばれるものたち。

 つまり、所詮はそれなりの金と条件を提示すれば黒を白と言う程度の下賤な輩というわけである。


 金は惜しいが、まずはこの場を乗り切ることが先決なのでこの際多少の出費はやむを得ない。

 それにこいつらはたしかに強い。

 手駒に加えておけば役に立つ。

 そして用済みになったところで切る。


 ……いや。


 自らの言葉をあっさりと否定したアルトナハラのいやらしい視線の先には四人の男の後ろで暇そうにしている自分よりも遥かに若い銀髪を靡かせる女性がいた。

 その魅力的な体形を目で何度もトレースしながらアルトナハラは心の中で呟く。


 ……こいつは妾の列に加えてやろう。

 ……できることなら今晩からでも。

 ……楽しみだな。


 だが……。


「……ありがたい申し出ではありますが、お受けするのは遠慮しておきましょうか」


 すぐに交渉に応じる。

 そう盛大に勘違いし、淫らな妄想を耽っていたアルトナハラの耳に届いたのは予想外の言葉だった。


「……今、なんと言った?」

「ですから、申し出は受けないと」

「なんだと。言っておくが……」

「まず、大事な部分から話しておきましょうか」


 解せぬ。

 顔一杯にそう書かれたアルトナハラの言葉を遮ったアリストは語り始めた。

 それを。


「あなたの部下がラフギール近くに現れたことは本当のことだというあなたの言葉をもちろん私も信じています。ですが、あなたの言う町での殺戮がおこなわれたかといえば、それはありません。絶対に」

「なぜ、そう言い切れるのだ」

「魔術師ではないあなたが理解できるのかどうかはわかりませんが、まずあなたの部下は町に入れないからです。もちろん町はどんな攻撃も受けつけない。ついでいえば、無事ではないのはあなたの部下たちです」

「どういうことだ?」

「言うまでもないこと。多数の魔術師を含む完全武装の兵があなたの部下が現れる場所で待ち構えているからですよ。その数千人。さすがに王都で毎日厳しい訓練を積んでいる精鋭を千人も揃えられたら数十人程度の私兵など相手になるはずがないでしょう」

「笑わせるな」


「何が千人の兵だ。そもそも王都に駐屯している兵がこんなところにやってくるはずがないだろう。では、聞く。その千人の精鋭とやらはなぜここにやってくるのだ?」

「それはもちろん私がそれを命じたからです」


 そこまで言ったところで、アリストはアルトナハラにもう一度頭を下げ、ここでようやくフードからその顔を晒す。


「申し遅れました。私の名はアリスト・ブリターニャ。この国の第一王子です。処断されるまでの短い間、どうぞお見知りおきを。ブルーノ・アルトナハラ様。それから……」


「私に気づかなかったとはいえ、王族である私に対するあなたの礼を逸した言葉はさすがに忘れるわけにはいきません。一族の長であるリースター子爵に処遇を相談する際には先ほどの言葉はすべて伝えさせていただきます。その時に自分第一のかの子爵が王族を相手にしても一族の末端であるあなたを庇うのか。これは見ものです」



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