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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第六章 ラフギール
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勇者たちの帰郷 Ⅱ

 王都から徒歩で帰ってくるよりは圧倒的に早いものの、当初の予定よりだいぶ遅れてふるさとラフギールに到着した三人。


 くだんの事情により地元の英雄として盛大に歓迎されるということはなかったが、ここに住むものの大部分は彼らを知る者。

 気軽に声をかけてくれる。

 彼らにとってそれは快いものだった。


 だが、その中でも彼らはこの町に流れる空気に一年前とは違うものを感じる。


「……さっきの奴らの影響かな」

「まあ、アガタウィーから吹いてくる生臭い風を感じれば多少なりともそうなるだろうな」

「だが、それ以上に直接俺たちに向けられているものがあるような気がするが」

「ああ」


 自分たちにとってより気になる後者について、彼らがその詳細を知ったのはそれぞれの自宅に戻ってからだった。


「……徴兵?」


 母親アリアに土産と金貨が詰まった革袋を渡しながら近況を聞いたファーブは母の口から語られた言葉に含まれていたそれを呻くように繰り返す。

 母は頷き、そこから先にある悲しい事実も伝える。


「そうです。前回帰郷したあなたたちが出かけてからすぐ国の役人が来て若い男は皆連れていかれました。そして……」

「もしかして誰か戦死したのか?」


 不安に駆られたファーブの言葉に母は頷く。


「トマスティンさんの息子さん。それからアスティアさんの息子さんも。リビキルさんの家は双子の息子さんが両方……」


 次々と挙がるその名はもちろん皆知った者たちのものである。

 そこまで聞いたところでファーブはすべてを理解した。


 自分の息子は徴兵され、命まで失っているというのに、王族の従者をしているというだけで徴兵を免れ、土産が詰まった大きな袋を手にして浮かれて帰ってきた者をその縁者が見れば確かにいい気はしない。

 自分たちを刺すような厳しい視線にはそういう意味があったのだ。


「……少しいい気になり過ぎていたかもしれないな」


 せっかく帰ってきたにもかかわらず、これ以上ないというくらいの居心地の悪さを噛みしめる息子に声をかけたのは父親アンドリュー・ブラウナだった。


「気にするなとは言わない。だが、人にはそれぞれ与えられた役割がある。おまえだってこれまで多くの人には言えない苦労をしてきたはずだ。言っておくが、私もおかあさんもおまえがこうして無事に帰ってきたことをうれしく思う気持ちを隠す気はない。誰に何と言われようとも」


 それは純朴という言葉が誰よりも似合う小さな雑貨店を営む父親が口にした精一杯の言葉だった。


 あきらかに無理をしてつくった笑顔でファーブの父親はさらに言葉を加える。


「さて、せっかく王都から買ってきてもらったのだ。その美味しい酒をごちそうになろうか。それから、土産話も……」


 当然ながら、兄弟剣士が戻ってきたマロリージャ家でもファーブの家と同じような重苦しい会話が交わされていた。

 もっとも、こちらはその直後、兄弟剣士の兄であるマロことアリスト・マローリジャが帰ってきたことを知って大急ぎでやってきた人物が淀んだ空気を一変に吹き飛ばしていたのだが。


 乱暴に扉を開けてドカドカと音を立てて無遠慮に他人の家に入ってきたその人物が最高の笑顔とともに口を開ける。


「お帰り。マロ。最大限の歓迎の意を示すために私がわざわざ来てあげたわよ。泣いて喜びなさい」


 当然ながら、その言葉に対し、相手はこれ以上ないというくらいの渋い顔で応える。


「言っておくが、俺の名はマロではなくアリストだ。それに、おまえが飛んできたのは俺が持ち帰った土産のなかで一番いいものをひったくるためだろうが」

「ムムム。バレたか」


 よく聞こえる独り言と直後の複数の笑い声が部屋中に響く。

 

 美しい顔立ち。

 おそろしく短く刈り揃えられた鮮やかな金色の髪の毛。

 そこに加わる、いかにもその年ごろの少年らしい小生意気な言動。

 遠くからこの人物を見かけたら、誰もが美少年と呼びたくなることだろう。

 だが、実際は言えば、この人物はマロよりもふたつ年下の女性だった。

 

 そして、戦場で巨大な戦斧を振り回し魔族の戦士を打ち倒す超一流の剣士であるマロを一方的に押しまくっているこの女性エマ・フォアグレンは幼少の頃からマロの嫁になると広言し、結婚適齢期が近づくと諸々の手段を使い双方の両親からもその承諾を得ているという手際の良さを見せるやり手でもある。

 当然ながら、マロはこの時点ですでに幼馴染でもある彼女にすべての主導権を握られ、結婚したあと、彼が家庭内でどのような立場になるかについては、マロ本人を除く全員の意見はかなり以前から一つの意見に集約されていた。


「ところで、尋ねたいことがあるの……」


 相手の意向を聞かぬまま兄剣士の嫁になる準備を着々と進めるその女性は久しぶりに会った男を弄び終わると短い金髪を掻き上げながら話題を少しだけ変える。


「……ここに来る役人たちは毎回我が国の大勝利と連呼しているけど、それは絶対に嘘だと私は思っている。それで、実際はどうなの?」


 田舎にいたのでは戦況がわからない。

 その点、第一王子の傍にいれば、それなりの情報が耳に入るだろうと考えるのは当然。

 エマがそう尋ねることは十分に理解できる。

 問題はその内容、というか、尋ね方だ。


「なぜそう思う?」


 その意図するところがわからないマロの問いにエマは膨らみのない胸を張ってこう答えた。


「僅かでも武芸の嗜みがあるのならともかく、鍬や鋤しか握ったことがないうえ、マロ達以上に気が利かない兄貴たちを根こそぎ連れて行くということはそういうことなのでしょう?」

「つまり、アントンたちは徴兵されたのか?」


 再び暗い気持ちに支配されたマロの言葉にエマは頷く。

 だが、そこで終わらない。


 どこまでも。

 そう、どこまでもは陽気なのだ。


「さすがに最前線では使えないと思ったらしく南のフランベーニュ国境近くに送り込まれたみたい。それにしても、それほど剣を振る者が必要ならなぜ私を連れていかないのかしらね。その方がずっと役に立つのに。少なくても兄貴たち四人分たち以上の働きをする自信はあるわよ。私は」

「いやいやいや」


 マロは大急ぎでそれを否定する。

 

 この世界では珍しいことではあるのだが、実を言えば、エマ・フォアグレンは女性ながら剣の心得があった。

 もちろんエマがそれを始めた理由はマロと一緒に遊びたかった。

 ただそれだけである。

 だが、エマにはその素養があったうえにその稽古相手はのちの勇者とその仲間。

 エマの剣技は、ファーブが「俺が知っているかぎり、平均よりだいぶ上。そして、フィーネに出会うまでは女性としては最高峰」と述懐するくらいの高みにまで登り詰めていた。


 さらにいえば、エマは三人に不足している洞察力や知略も持ち合わせていた。


 同行するもうひとりの仲間としてエマをアリストに推薦しようではないかというファーブの意見は、エマの能力を考えれば、そう的外れなものでもなかったといえるだろう。

 そして、エマ本人もその提案に乗り気だったことを考えれば、もし、マロが強硬に反対しなければ、勇者一行の華やかさは三割増し、にぎやかさにいたっては最低でも数倍は増していたことは間違いないだろう。

 ついでに言えば、エマは現在でも三人と旅をしたいという希望を持っている。

 さすがに現在の三人との剣の実力差は埋めがたいうえ、フィーネというすべての点で彼女を超える存在があるため、エマが勇者一行に加わる可能性はほぼゼロであるのだが。


「と、とにかくすべては明日にする。今日はもう眠いのでお開きだ」


 一年ぶりの再会。

 まだまだ話足りないはずなのだが、圧倒的不利な状況を一気に打開するため半強制的幕引きを図ったマロのその言葉によってマロリージャ家でおこなわれていた宴は意外に早く終了した。


 そして、その夜遅くなった人影のない町の広場。

 そこに四つの影が示し合わせたように現れる。

 もちろんその三つは勇者とその仲間である兄弟剣士のもの。

 そして、最後のひとつは……。


「まあ、来るとは思っていたが」


 最年長者となる若者はその影の主を見つけると、ため息交じりのその言葉を吐き出す。

 そして、彼のその言葉には打てば響くように女性の声がすぐさま返って来る。


「当然でしょう。単純なあなたたちの考えることなど私にわからないはずがないでしょう。だいたい大酒飲みのマロやブランがほとんど酒に口をつけない時点で今晩何か予定があると思うでしょうが。でも、感謝しなさい。この私があなたたちの悩みを一気に解決する知恵を授けてあげるから」


 四番目の影の主の正体は、彼らの幼馴染の女性エマ・フォアグレンだった。


「いいのか。こんな夜に出かけてきて」


 いつも以上に渋い表情を見せる彼女にとっての最重要人物の顔を眺めてから、口にした再びのファーブの問いにエマはニコリと笑い、大きく頷く。


「もちろん。マロに誘われたと言ったら両親とも二つ返事だったわよ」

「……なるほど」


 否定する理由もないその男はそう返したが、当然ながらそう思われては困る者もいる。

 もちろん本当にエマの言葉どおりであれば、その気持ちは大いに割引されなければならないところなのだが、その男にはそのような覚えは欠片もない。

 つまり、これは冤罪。

 その濡れ衣を着せられたその男が口を開く。


「ファーブよ。勝手に納得するな。そして、頭の悪いおまえが誤解のないようにはっきりと言っておくが、俺はそんな誘いはしていない」


「つまり?」

「エマの言っていることは全部……」

「完璧な真実よ」


 本人が口にしかけた否定の言葉に割り込み、あっさりと上書きしてしまうところはさすがとしか言いようがない、いつも通り手際の良さである。


「当事者が言うのだから間違いないな」


 君主危うきに近づかず。


 もちろんこの世界にはそのことわざは存在しないので、実際にはその若者はそうは言っていない。

 だが、まさにそれを心の中で口にしたかのようにその男ファーブは目の前に並べられたふたりの主張を、聞きようによっていくらでも解釈できる微妙な言葉で応じた。

 そして、何事もなかったかのように、大急ぎでそれをやり過ごし、すぐさま話題を変える。

 この言葉によって。


「さて、些細なことはさっさと忘れて本題に入ろうか」


 その怪しげな前置きに続いてファーブが語ったこと。

 それはその場にいなかったエマのために自分たちが町にやってくる前にどのような輩と出会い、そして何をおこなってきたかということだった。


「……なるほどね」


 すべてを聞き終えたエマはその短い言葉を口にした。


「愚かね」


 それに続いた感想となるエマの言葉はさらに短い。

 だが、今度は長い続きがあった。


「大剣を持っているだけならハッタリということも考えられるけど、並みの男なら持てないくらいの量の荷物を担いでいる時点で相手の力量は判断できるでしょう」


 近い将来彼女の夫となる予定らしい男が口を開く。


「いや。相手は野盗だ。仕事柄どんな相手であろうと荷物を持った客が来れば襲うだろう」

「そのとおり」


 弟剣士が兄のその言葉に続く。


「それに、待ちに待った来た客だ。おおかた剣よりも大きな荷物に目がいったのだろう」


 そして、最後に勇者が言葉を加える。


「少なくても自分たちのほうが圧倒的に数も多かったので勝算は十分にあったのではないか」

「そうでしょうね。でも……」


 野盗の心情を口にした三人の言葉を聞いたエマは大きく息を吐く。


「そこが愚かだというのよ。まあ、もうこの世にいないそんな者のことはどうでもいいわよ。問題はこれからどうするのかということ。ちなみに、相手はあとどれくらいいると思っているの?」

「平均的な田舎領主の私兵ということであれば百から百五十」


「……さすがに三人、私が入っても四人で相手にするにはさすがに多すぎるわね」

「あ、ああ」

 

 ファーブは曖昧な言葉を返したが、実を言えば、エマを除く三人にとってはその程度の数の敵などたいしたものではなかった。

 できればもう少しいないかなどという不埒な希望はさすがに口にすることはなかったのだが。

 

「……そういえば、奴らの根城であるというグレンモアランには貴族の屋敷があっただろう。そこに住んでいたボンクラ貴族はどうなったのだろうな」

「とっくに逃げたのではないのか」


 あの野盗頭を領主と呼んだ勇者よりも半日ほど遅れてそれを思い出した弟剣士の呟きに応えたのは彼の兄だった。

 口を開いた兄剣士は、会ったことをもないその男を、自身が貴族に抱いている感情をそのまま載せた言葉によって盛大にこき下ろすと、弟は同意するように頷きながらもさらに言葉を続ける。


「だが、奴にはそれなりの数の私兵も持っていただろう」

「では、一緒に逃げたのだろう。ボンクラ貴族の私兵も所詮ボンクラだから」


「いや。ここは私兵共々やられたと考えるべきだろう。逃げたのであればそのポンコツは本家に駆け込み、本家の連中の援助を受けて奪還に来ているだろうからな。まあ、結果はともかく原因はそのポンコツ貴族の圧政だろうが」


「ハズレ」


 弟の問いに冗談半分で答える兄剣士に続いて、それよりは可能性がありそうだが、実は前者に負けないくらい穴だらけの論理に基づいていたファーブの推測を即座に否定したのは、この中でその事情に一番詳しい人物だった。


 その人物が言葉を続ける。


「あなたたちはそこの領主が第一の被害者と思っているみたいだけど、おそらくは最近代替わりしてその地位に就いたブルーノ・アルトナハラが今回の首謀者ね」


 グレンモアランを中心とした小さな領地を治めているアルトナハラと、彼の領地を取り囲むように広大な農地を領地としているアガタウィーに屋敷を構えるアリリオ・ショーモアは境界に関わる諍いを何度も起こしていた。

 しかも、ふたりが属する一族の長であるリースター子爵とシャブスター男爵は宮廷内でもよく知られた犬猿の仲。


 つまり、そもそも両者が仲良くなる要素など皆無だった。


 そして、なにかをきっかけに多くの私兵を抱え、相手よりも早く準備が整ったアルトナハラがこれ幸いとばかりにショーモアの領地に攻め入った。

 そこで勝利し勢いに乗ったアルトナハラが次の目標としたのがここラフギールであり、三人が出会ったのはその先遣隊。


 それがその人物が口にした概要となる。


「エマ。聞いてもいいか」


 その説明が終わると、真っ先に口を開いたのはこのグループの最年長者ファーブだった。

 ファーブの問いにエマは頷き、それから微妙な笑みを口元に浮かべる。


「もちろん。でも、ファーブ。あなたの尋ねたいことが何かということは見当がついているわよ。名を知らぬような末端の者とはいえ一族は一族。その領地を犬猿の中である子爵一族の者に奪われた男爵が黙っているのはおかしいのではないかということでしょう」


 図星である。

 それを肯定する。

 いや、肯定せざるを得ない。

 渋々という音を立てながらファーブは頷く。


 その表情に薄く笑ったエマはその疑問の対となる言葉を口にする。


「貴族といわなくても土地の譲渡や交換はそう珍しいことではない。そして、それに関わる揉め事が起こった際に圧倒的な有利になるのが、それを証明するための証文の存在」

「つまり、その証文があるということか。だが、そう言うだけの何か証拠があるのか?」

「証拠?それこそファーブが言った言葉そのものがその証拠よ。疑わしさ満載のものであっても、ショーモアがアルトナハラにその土地を譲ったという証文があれば仲裁が行われた場合の勝者はアルトナハラ。つまり、男爵が話に関わっても勝てる可能性は低く、ただライバルの子爵の前で恥をかくだけ。男爵としてはねじ込みたくてもねじ込めない」


 つまり、そうでなければ、ライバルを貶める口実ができる男爵が黙っているはずがない。

 言外にそう言ったエマはさらに言葉を続ける。


「おおかた命を救う代償としてその証文を書いたのでしょう。それに、実を言えばショーモアも一方的な被害者というわけではないのよ」

「どういうことだ」

「ラフギールに彼の代理人が来て兵の募集をおこなっていたのよ。忌々しいアルトナハラに正義の鉄槌を下すためとか言って。つまり、ショーモアも相手の領地に攻め入るつもりだったということ。もっとも、徴兵で若者は根こそぎ持っていかれた後だったうえに、報酬をケチったのでこの町で応じる者はいかなったけど。そうして準備が整わないうちにアルトナハラに攻められたということでしょう」

「だ、だが、今は魔族との戦いの最中。そのようなときにそんなどうでもいい私闘などやっていると思えないが」

「それがまさに貴族というもの」


「……度し難いな」


 その言葉とともに押し黙るファーブに代わって口を開いたのは弟剣士だった。


「では、なんで奴らはラフギールにすぐに攻めてこないのだ?ここはアガタウィーと違い貴族の領地ではないぞ」

「まあ、これは予想の範疇ではあるのだけど……」


 その言葉を聞いたエマはそこで言葉を切り、少しだけ笑みを浮かべて三人を眺める

 そして、口を開く。


「おそらくあなたたちが影響している」

「どういうことだ?」

「この町の若者三人が第一王子の従者として選抜された。しかも、王子自らこの町にやってきてその両親に直談判して。そんな話を聞かされたら簡単には手を出せない。王族の、しかも第一王子と懇意にしている者たちが住む町を末端の田舎貴族が襲ったことがバレればその後に待っているのはどのようなものなのかくらいは貴族の端くれならわかるはず。それこそただの野盗なら絶対に考えもしない思考でしょう」

「なるほどな」

「だが、奴らはそのうち町を襲うと言っていたぞ」

「そういうことであれば、おそらくその筋書きは……」


 その言葉とともにエマの、少女の面影を残す表情は劇的に変わる。


「この町に関しては住民を支配するのではなく滅ぼすのでしょうね。つまり、野盗に化けた一隊が町に住む全員を殺し、自身が率いるもう一隊が救援者役を演じてその野盗を討伐する。残念ながら救援は間に合わず住民は救えなかったが、彼らの仇は見事取った。そして、その功によりこの町を手に入れる。当然そこには子爵が関わっているのでしょう。この町を攻めるということは王宮内の根回しはすでに済んでいると考えたほうがいいわね」

「では、先兵である町を襲った一隊は……」


「本当の野盗に仕立てて殺してしまう」

「まさに使い捨ての駒」


「……でも、さすがにそこまでやったら、次は自分の番だと思う者が続出し、ついてくる者がいなくなる。その程度のことはどんな馬鹿貴族でもわかる」


「アルトナハラが考えたのはもっといい手」


 頭の中で別の筋書きを一気に書き上げたエマが口を開く。


「町の住民を野盗に仕立てる。どうせ全員死んでいるし、王都から来た役人がそこの住民かそうでないかなどわかるはずがないので彼らの言葉を信じる」


「……な、なるほど」


 三人がかなりの時間を要して自らの推測を納得するのを確認するとエマはさらに言葉を続ける。


「おそらくやってきた彼らの仕事はまず町への出入りをさせない。特にあとあと面倒になるので町民を外に逃がさないようにするというものだった。そして、命令があり次第町に入り虐殺を始めるということだったのでしょう。だけど、幸運にも……もちろん彼にとっては不運にも、となるのだけど、とにかく仕事のついでにおこなおうとした小遣い稼ぎの初めての客があなたたちだった」


「とりあえず種明かしはこれくらいにして、これからおこなう対策だけど……」


 エマがもう一度三人の剣士を眺めなおす。


「まずやらなければならないことは……」

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