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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第四章 祭りの残り香
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クアムートからの手紙

 実を言えば、ノルディアが魔族に対して身代金を支払い終えたその日ノルディアの王ノルディア王国の王アレキサンドル・ノルデンは代表交渉人であるホルムを経由してもたらされた魔族軍司令官からの書簡を受け取っていた。


 そして、そこには短い挨拶のあとにこう書かれていた。


 我が国に侵攻している六か国で一番の貧乏くじを引かされたのは貴国である。

 なぜなら、貴国が進む地には要害は多いが、その損害に見合う価値を持つ場所は少ない。

 一方、「対魔族連合」の提唱者であり国境を接しているブリターニャ王国以上に熱心に貴国を連合軍に勧誘していたフランベーニュ王国が現在攻めているのは、彼らの目的の地であるこの世界で流通する銀の三分の一の生産するマンジュークとその先にある多くの金銀鉱山。

 つまり、フランベーニュ王国は自らが鉱山群を効率よく手に入れるために貴国を仲間に引き込んだのである。

 我々の兵力分散をおこなわせるために。

 そして、このままでは彼らの目的は達せられることとなり、鉱山から産出される莫大な金銀を背景に一時的か恒久的かはともかくフランベーニュ王国がこの世界のあらたな支配者となる。

 当然それは形がどうであれは貴国がフランベーニュ王国の属国になることを意味する。

 さて、それを踏まえて、我々から貴国に提案をおこなう。


 貴国は自らの滅亡に進んで手を貸す愚かさに気づき、現在非公式に結んでいる捕虜返還及び身代金の支払いが終了までとする我々との停戦を無期限に延長することに同意していただきたい。


 そうすれば、我々はクアムートに駐屯している部隊をマンジュークに向けることができ、鉱山群を防衛できる。

 もちろんこれだけでは我々だけが利を得るように思えるが、そのようなことはない。

 なぜならこの停戦協定は我々以上に貴国に利益がもたらすのだから。

 しかも、それは驚くべきと表現できるくらいものである。


 我々が貴国に保証する約束。

 まず、我が国は停戦の効力があるかぎり貴国に攻め入ることはないということ。

 さらにすべての戦いが終わったあと、我が国がどれだけ有利な立場になろうとも貴国を我が国にとっての特別な地位に置くこと。

 そして、停戦時点のノルディア軍の占領地を貴国の領土として認めること。

 最後に、我が国の生産物をあの者たちを通さずノルディアと直接かつ適価、またはそれに見合った商品との交換で取引すること。

 

 ノルディア語による手紙はさらに続く。


 言うまでもないことだが、この協定は我が国のごく一部と、この書簡を読む国王陛下だけが知るものとなるのだが、それでも事実上貴国が連合国から離脱することになれば、貴国は他国から疑念の目で見られることになるだろう。

 だが、幸か不幸か、貴国は我が国に多額の身代金を支払った。

 そして、その額は常識を遥かに超えたもの。

 貴国が再出兵を躊躇い、それを他国が納得する理由となるのは疑う余地もない。


 どれもこれも的を射たその書簡。

 それは最後をこう締めくくっていた。


 なお、お互いにこれ以上無駄な血を流さないだけではなく、相互に大きな利益を得るための提案である今回の申し出を陛下が応じない、または一旦結んだ停戦を破棄し、再び我が国に攻め込んだ場合は、不本意ながら我々も全力をもってお相手せざるを得なくなる。

 そして、それによって不幸な結末を迎えるのは貴国である。

 もちろん言葉だけではただの脅しにしか聞こえず、信用してはいただけないことは承知している。

 そこで、我々にその力があることを陛下にご覧に入れるため、三日後の昼食どきに王城のもっとも高い塔を破壊する。

 陛下をはじめ王族の方々は塔の崩壊に巻き込まれることがないよう避難のうえ我々の真の力をその目でご確認いただきたい。


 王はそこに書かれたその最後の言葉に驚き、すぐさま多数の兵と宮廷魔術師団の全員でその塔と王城を警備にあたらせた。

 その理由を告げぬまま。


 だが、三日後。

 それは現実のものとなる。


 何の予兆もなく突然轟音とともに強力な防御魔法に守られているはずの塔の上半分が崩れ落ち、瓦礫と化したのだ。

 いや。

 崩れ落ちたのではない。

 目に見えぬ巨大な剣によって袈裟斬りにされた。

 そう表現するにふさわしい鋭利なもので切り倒されたような痕跡が塔に残されていた。

 これが自然現象などではなく誰かの手によって意図的におこなわれたものだとわかるように。


 その恐ろしい痕跡をなかったことにするため大急ぎで塔の残りの部分を破壊し、それから改めて思考を巡らした王はそこでようやく魔族側が数多くの土産とともに持ち掛けてきたものの真の姿に辿り着く。


 恐怖に青ざめながら王は口を開く。


「……ホルムを呼べ」


 そして、やってきたホルムに精一杯冷静を装う王は短い言葉を伝える。


「申し入れを受け入れる。魔族たちにそれだけを伝えよ」

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