消えゆく王都 Ⅳ
そして……。
「サイレンセストからの脱出希望者収容終了。我が軍の安全地域までの確認し、アリシア様及びホリー・ブリターニャ王女をお連れしました」
「戻りました。ペパス将軍」
「お疲れました。夫人。結局どの程度になりましたか?」
「二千百九十三人です」
「多くはない。だが、少ないとも言えないな」
別の世界で言う禅問答のような言葉を呟いたペパスは、まずアンガス・コルペリーア、続いてアリシアに目をやる。
そして、後方に控える伝令を見やる。
「狼煙。赤ひとつ」
それから三ドゥア。
砂時計によって間違いなく刻まれたその時間が過ぎたことを確認したところで、もう一度口を開く。
「狼煙。赤三つ」
赤三つ。
これは攻撃を開始する合図。
「魔術師長。お願いします」
「ああ」
ペパスに声を掛けられたアンガス・コルペリーアはいつも通り愛想のない声でそう応じると、ホリーと護衛達に目をやる。
ホリーは両親や弟のいる王都を正視しているものの、アラン・フィンドレイら護衛達は皆下を向いている。
視線をサイレンセストに戻したアンガス・コルペリーアは杖を顕現させる。
そして、ゆっくりと杖を振る。
イペトスートに続いてブリターニャ王国のサイレンセストも敵国の攻撃を受け、駐屯軍を含めれば百万人とも言われたそこに住む者のほぼすべてが都と運命を共にした。