祭りの残り香 Ⅰ
あれから十五日が過ぎたその日、グワラニーの姿は王都ではなく、クアムートにあった。
「グワラニー殿。ここに戻ってきたということは、例のお勤めは終わったということなのですかな?」
城門で彼を出迎えたこの城を守る将軍プライーヤからやってきた少々の皮肉を込めたようなその問いにグワラニーはこう答えた。
「まあ、終わったとも言えますし、終わっていないとも言えます」
その言葉に続き、グワラニーが説明としてつけ加えたもの。
その概要はこうである。
食料が枯渇しかかっているいくつかの戦場には魔術師長アンガス・コルペリーア配下の有能な魔術師たちを総動員して物資を送り窮場を凌ぐ一方で、供給システムを再構築して今後は前線に食料をはじめとした必要物資が滞りなく届くようにする。
現在その準備を彼直属の文官組織である「軍官」がおこなっている。
グワラニーの言葉を聞き終えた男が口を開く。
「……なるほど。各地方に拠点をつくり、そこから前線に物資を送り出すのですか」
もちろんこの世界にはグワラニーが今回の緊急輸送に使用した転移魔法という彼が元いた世界には存在しない高速の移動手段があり、その気になれば物資を一瞬で運搬することも可能である。
だが、いくら補給が重要だといっても、彼らを輸送手段の根幹に据えるには魔術師の数はあまりにも少なかった。
当然ながらそれに頼ったシステムは、たとえ多数の魔術師を抱えるグワラニーであっても構築できず、結局これまでと同様馬車を用いた運搬がその中心となる。
それでも、グワラニーが準備している大拠点、中拠点、小拠点と枝分かれした物資集積地から前線に物資を運ぶシステムは、必要があるたびに王都から前線へ荷を届けるというこれまでの方式に比べて圧倒的に早く物資が届けられる。
さらにネットワーク化されたそのシステムにはそれ以外にも相互補完機能や安全性など様々な利点がある。
……まあ、元の世界ではもっと効率的な物流をおこなわれていたのだが、ここではこの辺が精一杯だな。
……それでも、前回の文官時代に補給の効率性を高めるためにこのシステムを取り入れるように何度も進言したが、ステークホルダーの妨害、いや、単に組織を弄りたくないという理由で握り潰されていたのだ。諸事情があったとはいえ実現できたのは大いなる一歩といえるだろう。
……システム構築と同時に道路整備も手をつけたいところなのだが、さすがにそれをやるには人手も時間も金も足りない。今回はこれでよしとしようか。
男の声に応えるように心の中で呟いていたグワラニーを現実に引き戻したのは同じ男の声だった。
「まあ、とにかくそちらが一段落したということは、いよいよマンジュークに出陣ですか?」
それに対して王都で体験した思い出したくないことを思い出し、苦り切った表情をつくったグラワニーはこう答えた。
「……まあ、そうであれば、私はここに来ていないと思うのですが」