やってきた者は
少なくてもアリストはお互いの忍耐力を試すものと認識していたそれは翌日、そしてさらにもう一日続き、勇者一行が王都イペトスートを遠望してから四日目、遂に動きが出る。
「おい、アリスト。白旗を持った魔族がやってくるぞ」
「やっとですか」
見張り役を務めていたブランが上げた声に小さく「勝った」と呟いたアリストは嬉しそうにそう応じる。
「それで、誰が来ましたか?」
「知らん」
グワラニー本人か、少なくなくても側近の誰かが来ると思っていたアリストはその言葉に首を傾げる。
「ん?見知った顔ではないのですか?」
「俺は知らん。ファーブ。それから、兄貴。知っているか?あのふたりを」
「知らんな」
「知りたくもないし」
「……たしかに見たことはないですね」
「ええ」
三人の声に興味を引かれたフィーネとアリストもその男たちを見るが、確かにこれまで会ったことがないふたりである。
甲冑こそ身につけていないものの丸太のような太い腕でファーブのものよりさらに大きい大剣を持ち護衛役を務める赤い薄衣を文字通り羽織るその男は身体全体で「力」を現わしている。
一方、その男を従える質の高さは伺えるものの華美ではない紫の服を纏うもうひとりの男は細身。
だが、それは護衛の男と比べた場合であり、魔族としては珍しい細身の剣を持つその姿は十分に剣士の素養がありそうだ。
そして、なにより……。
「魔術師ですね。彼は」
「そのようです」
そう。
男の身体からは魔力が漏れ出している。
ただし、それは魔法を使っているのではなく、単純に漏れ出しているだけ。
つまり、高位の魔術師というわけではないということである。
ふたりの男はまっすぐ勇者たちが潜む場所に向かってやって来る。
もっとも、王都から西へ延びる街道を進めば、その街道を利用してここまで来た勇者たちと出会うのは必然といえるのだが。
「どうする?斬るか?」
「いや。話だけは聞きましょう。斬るのはそれからでもできます」
「では、通常の結界を」
男たちが二十ジェレトほどまで迫ったところでファーブが前に出る。
「用があるのならそこから話せ」
「そうか」
ファーブの声にふたりはその言葉とともに歩みを止める。
「要件は何だ?」
「まあ、色々あるが、とりあえずブリターニャの王太子アリスト・ブリターニャの顔を見たいというのが一番の要件だ。それで、おまえがそのアリスト・ブリターニャか?」
「いや。彼はファーブ。勇者とも呼ばれている」
細身の男はファーブに目をやってそう答えると、ファーブの後ろからアリストが歩み出る。
「そして、私がそのアリスト・ブリターニャだ。それで、そちらは誰かな」
アリストがそう答えると、男は視線を動かしアリストを見やる。
そして、何かを確信したように小さく頷くと、口を開く。
「むろん私はこの世界の王。そして、隣にいるのは軍の最高司令官アンドレ・ガスリン」
これが魔族の王か。
五人分の心の声が一斉に流れる。
アリストはもう一度口を開く。
「王とは随分と変わった名だ」
「王になれば、名は捨てる。それがこの世界の理となっている」
自国のではなく、この世界というところが魔族の矜持というところだろう。
いつものなら、すかさず嫌味をいうところだが、そのような戯言は言わせない雰囲気をその男は持っていた。
アリストは無言のまま、王を眺め直す。
……外見上は人間の四十歳前後。
……そして、濃い茶色の髪と二ジェレトを少しだけ欠ける身長。
……どちらかといえば文官といえる趣でここまで威圧的な言動は何もないにもかかわらず、この距離でも伝わってくる押しつぶされそうな伝わるこの圧倒的な存在感。
……まさにホリーの言葉通り。
……本物だ。
だが、そう思った瞬間、アリストの頭に疑念が過る。
……魔族の王は理解力があり非常に聡明。
……まさにホリーの言葉にあるとおりだ。
……では、なぜここに来た?
……グワラニーは私が本気で魔族を滅ぼすつもりであることをこの王に伝えているだろう。
……小細工職人が自身のなにがしかの利益のためにそれを伝えていなくても、この聡明な王であれば私たちが自分の命を狙っていることくらいわかっているだろう。
……それなのに……。
……さすがに命乞いということはあるまい。
……それに……。
……なぜこの場にグワラニーがいないのだ?
そして、頭の中にまた悪い想像を思い浮かべる。
……まさか……。
「魔族の王に尋ねる。王が出向いてきたというにはつき従う者があまりにも少ないのではないか」
「私がよく知るアルディーシャ・グワラニーという男は軍の幹部だと自称していたが、この場にいないということは軍幹部という話はあの男が勝手に言っていることだったのかな」
グワラニーはなぜこの場にいないのか?
回りくどい言い方だが、アリストの言葉はそういう意味となる。
アリストの言葉の裏にあるものを察した王は薄く笑う。
そして、視線を隣の男へ向けると、その男が口を開く。
「一応言っておいてやろう。ブリターニャの王太子。グワラニーはたしかに軍幹部である」
「ただし、奴には別の仕事が与えられている。だから、この場にいない。ついでにいえば、軍の副司令官はコンシリアという者なのだが、その男もこの場に来ていない。こちらもそれなりに忙しいのだ。旧知に会えないのは残念だろうがそこは勘弁してもらおうか」
ガスリンの、らしくもない言葉。
そして、ふたりの男は再び笑う。
「つまり、そのふたりに自分たちもろとも私たちを攻撃させるということですか。魔族の王」
アリストの背後からその言葉に強引に割りこませたフィーネを王は見やる。
上から下まで彼女を品定めするように眺めところで王は薄い笑みを浮かべる。
「気が強そうだが噂通り美人ではある。まあ、私にとって人間の女性の最高峰はアルシア・タルファではあるので、『銀髪の魔女』は二番目ということになるのだが」
むろんそれが何を意味しているのかは誰もわからない。
ただし、フィーネの機嫌を損ねたことだけは確かであった。
鋭さを増したフィーネは王を睨みつける。
「私はすぐに死ぬ魔族などの戯言を聞いているのではありません。それよりもどうなのですか?グワラニーはここを……」
「ないな。先ほどガスリンが言ったであろう。グワラニーはここにはいないと」
「それは聞きました。ですから、遠方から攻撃するのでしょう」
「魔法無効化結界で」
「なるほど……」
それを否定する王により直接的な表現で問い詰めるフィーネの言葉にアリストがその言葉を加えたところで王の笑みは深みを増す。
「ガスリン。今の話、どこかで聞かなかったか?」
「聞きました。それもつい最近」
王はそう言って隣の男を見ると、その男も笑いながら大きく頷く。
その言葉に頷いた王は視線を目の前の男女に戻す。
「銀髪の魔女。それからアリスト・ブリターニャ。おまえたちがここまで何をしながら歩き、今何考えていることがどのようなものか当ててやろう」
「我が王都を目指して出発した勇者一行は多くの迎撃部隊に出会うはずだった。だが、想定に反して全く会敵しない。だが、相手はあのグワラニーである以上、裏をかいて来る可能性もある。すべての時間を最高位の緊張と警戒を保って進んだ」
……まあ、そのとおりです。
「だが、なぜか敵は全く現れない。そこでおまえたちはこう考えた」
「空になった王都あのものを餌にして待ち構えている」
……それも正解。
「そして、その目標が見える位置までやってきたものの、ここで王都を攻撃してしまっては敵の首隗が死んだかどうか確認できない。そうかといって確認に出向いたら王都ごと吹き飛ばされる可能性がある。ここは動くわけにはいかない」
「敵の餌にするくらいだ。すでに王都は空になっている可能性がある。その探索は後続のブリターニャ軍に任せ、自分たちは待ち伏せしているグワラニー軍を倒すことに専念する」
「そこに現れた敵の首隗。殺そうとしている者の前に出向いてきたことに疑念を抱き、やがて、ある結論に辿りつく」
「王と話をしている間は攻撃されないと思わせ、その裏を突いて攻撃、自らの王とともに勇者一行を葬るためにグワラニーは遠方で息を潜めている」
「そして、その戦い方は勇者の位置を確認したところで魔法無効化結界を展開し、勇者の攻撃を封じたところで遠方から大軍を転移させて仕留めるというもの」
「概要はこのようなものだろう」
「違うか?アリスト・ブリターニャ」
数瞬後、アリストは大きくため息をつき、それからつくりものの笑みを浮かべる。
「合っていますね。だいたい。驚くべき洞察力と言っておきましょうか」
「ああ。まったくだ。たいしたものだ。グワラニーは」
王はあっさりとその出どころを口にして笑う。
それがアリストには効果的であることをむろん承知している。
「おそらくアリスト・ブリターニャは自分の策を完全に読み切った気で姿を現す。だが、当然そこまでを読んでいる以上、こちらはその上を行ける。それがそのときグワラニーは言っていた言葉となる」
「残念だったな。アリスト・ブリターニャ。この時点ですでに我が軍の将とおまえのどちらが上かは決着がついているのだ」
「そうでしょうか?」
王の言葉の直後、今度はアリストが笑う。
「百歩譲ってここまではグワラニーの推測通りとしても、私の前にはそれを伝えるためにわざわざやってきた愚かな王がいます。私はその首を落とし、続いてイペトスートを瓦礫に変えればそれで終わり、こちらの勝ちとなります。ということで……」
「ファーブ」
「ブリターニャの王太子よ。グワラニーより格下と言われたことには同情するが、そうであっても他人の話は最後まで聞くべきだぞ」
アリストが振り向き、その声に応じたファーブが剣を抜いた瞬間、ガスリンは嘲りが大量に含まれた声でそう言い放つ。
むろん、すでに戦闘態勢にあるが。
「ということは、ここから命乞いですか?」
無礼な言葉のお返しとばかりに披露したアリストの嫌味。
だが、ガスリンは薄ら笑いとともにその言葉にこう応じた。
「笑わせるな。有利なのはこちらだ」
「……有利?」
アリストが浮かべた笑みはあきらかに嘲りの成分の濃いものだった。
「この状況のどこか私たちより魔族が有利となるのでしょうか」
「わからぬか」
「まったく」
自身の言葉をバッサリと斬られたにもかかわらずガスリンはなぜか笑っている。
数瞬後、そのガスリンは何かを確認するように王を見る。
そして、王が頷くともう一度口を開く。
「ブリターニャの王太子。おまえはここまで我が軍が迎撃しなかったのはこの地での総力戦のためと思っているようだが、それは大きな間違いだ」
「本来おまえたちを迎撃するべき将兵。さらに王都近郊に駐屯していたものたち。それらはすべてコンシリアの指揮のもとフランベーニュが撤退した地を通り、ブリターニャ領へなだれ込んでいる。その数百五十万。すでにガルベイン砦を落とし、反転してきたブリターニャ軍も粉砕し、さらに西進を続けている。このまま黙っていればブリターニャ全土がコンシリアに蹂躙される」
その瞬間、アリストの表情が変わる。
そう。
ないと思われた魔族軍の逆進が現実のものとなったのだ。
しかも、その数が本当であれば、ブリターニャはただ蹂躙されるだけ。
だが、一瞬後、アリストは表情を一転させる。
「なるほど。たしかにそれは一大事」
「ですが、私たちがあなたがたを殺し、イペトスートを落としたのち、その軍の迎撃に向かえば一瞬でケリがつくこと。むろんそれまでの損害は大きいでしょうが、それでもこちらの勝ちは動かない。切り札を出すのが早すぎたようですね。いや。言うべきではありませんでしたね。魔族の将」
「……そうかな」
アリストの言葉が終わった直後、そう言ったガスリンもその隣の王も薄ら笑いを浮かべている。
これほど不利な状況を並べられながら笑うその態度はアリストの勘に触った。
「もしかして私たちにそれができないとでも?」
「それはできるだろう。だが、それでもダメだな」
そして、そう答えたのは王。
「どういうことでしょうか」
「コンシリアの軍を切り札と言っている時点で国を指導し軍を動かす者としておまえは二流だ。アリスト・ブリターニャ」
「我々の本当の切り札」
「それはおまえもよく知っている男が率いている軍だ」
「そして、王に剣を突きつけ、王都も破壊しようとしているブリターニャの王太子に対して、こちらが有利だと言っているのだ。あの男が攻める場所などひとつしかあるまい」
王はそう言っただけでその場所の名は言わない。
だが、そこまで言われれば、思い浮かぶのはひとつしかない。
「まさかサイレンセスト?」
「そのまさかだ。おまえがこの地にやってきた翌日にはグワラニーはサイレンセストを包囲下に置いている。あの男がやることだ。誰一人逃げることができない完璧な包囲であろう」
「その報告を受けたところで私がここに来たのだ。哀れな王太子を眺めに」
たしかにそうであれば、自身の命を狙う者の前に護衛をひとりだけ連れてやってくることができる。
つまり、王の言葉、それから行動は筋は通っている。
「言っておこう」
「私は王宮を出る前にグワラニーに使者を送っている。一セパを過ぎて私からの中止命令がない場合、サイレンセストを完全破壊せよと命じてある。今回については王都にいる者全員を殺せと命令し、普段兵士以外は殺すことのないグワラニーもそれについて了承している」
「だから。今回ばかりはあの男は兵士以外の者は絶対殺さないと思わない方がいい。おまえの父であるブリターニャ王をはじめとしたサイレンセストにいる者全員の命がおまえの言葉にかかっている」
「わかったかな。アリスト・ブリターニャ。これがこちらが有利だという意味が」
そう言うと、王は踵を返す。
「実はもうすぐ約束の一セパになる」
「もう少しだけ待つようにグワラニーに伝えてやる。その間にどうするか決めるがいい」
「言っておくが、私は我らの種族を根絶やしにしようとする人間と違い寛容だ。飲める条件ならそれも聞いてやる」
「よく考えることだ」
転移避けによって魔法による逃亡はおこなえないようにすると言うアリストの言葉に「こちらが降伏勧告をおこなった側だ。逃げるわけがないだろう」という言葉を残して王とガスリンは消えていく。
背を向けた瞬間、王とガスリンを殺し、王都を破壊、そのまま転移してサイレンセストに戻るという選択肢もあったのは事実。
だが、それも何かの罠かもしれないという疑念がアリストを躊躇させた。
この場に現れない。
それだけでいくつもの疑惑を生み出しアリストを縛りつける。
これひとつをとってもアリストの中におけるグワラニーの存在がどれだけのものかわかるというものだろう。
とにかく、ひとまず休戦。
まずはこの状況にどう対処すべきか。
五人の話し合いが始まる。
「どうしますか?」
「戻るべきだろう」
「俺もそう思う」
「同じく」
アリストの問いかけにファーブたちは揃って撤退を主張した。
「フィーネは?」
「今のところはなんとも。それよりもアリストはどう思っているのですか?」
「私はこのままこの地に留まり、魔族の王を殺し、イペトスートを落とすべきだと思っています」
「理由は?」
「もちろんあなたと同じですよ。フィーネ」
「グワラニーはこの短期間にどうやってサイレンセストに近づけたのかという疑問があるからです」
むろんフィーネはすぐにその言葉の意味を理解した。
だが、残る三人はそうはいかない。
その表情からそれを察したアリストは言葉を続ける。
「率直に言ってあり得ないことなのです」
「むろん転移魔法を使えば、王都からでもクアムートからでも一瞬でサイレンセストに到着できます。ですが、今回に限りそれができないのです。その理由は転移魔法について回る、地をつけた場所以外には転移できないという理。当然サイレンセストに来たことがないグワラニー配下の魔術師は転移できない」
「もちろん陸路であればサイレンセストに行くことは可能ですが、それでは時間がかかり過ぎるため現実的ではありません。唯一可能性があるのが仲間に引き入れたワイバーンを利用して海上から王都に近づくことですが、以前ならともかく現在は海軍が警戒しています。大海賊が最強と言ってもブリターニャ海軍の迎撃を受けて無傷で終わるはずがない。さらに言えば、王都を包囲するということは最低でも数万は必要です。大軍が港から徒歩の移動で王都までは最低でも五日は必要です」
「つまり、実現可能な方法では時間的に不可能ということです」
「結論。グワラニーはサイレンセストを包囲していない」
「グワラニーはこの地に留まり、私たちを討つ機会も狙っている。もしくは、コンシリアとやらが指揮する軍の中におり、私たちが迎撃のために転移してくるのを待っている。あの男が用意できるのはその二択。そうなれば、王の言葉は私たちを撤退させるための誘引の言葉という可能性が高い」
「つまり、サイレンセストは包囲されておらず、魔族の王は嘘をついているということか?」
「そうなります」
「ですが、魔族の王の言葉が本当だった場合、私たちはとんでもない過ちを犯すことになります」
ファーブの問いにアリストが答えたところで言葉を挟み込んだのはフィーネ。
「私もアリストと同様グワラニーが王都を包囲したと魔族の王の言を怪しく思っています。ですが、相手はあのグワラニー。どれだけ可能性が低くても絶対にないとは言えない。そうなったときはどうなるかといえば……」
「王のあの様子ではイペトスートはやはり空でしょう。それに対し、サイレンセストはブリターニャ王をはじめ、王族、貴族、文官、軍高官など国の中核がすべて王都内にいる。一撃でブリターニャは崩壊です。同じ王都破壊でも意味合いは全く違ってきます」
「それから、もうひとつ。グワラニーのことです。間違いなくこちらがイペトスートを攻撃したことを確認したうえで攻撃することでしょう。逆にいえば、こちらがイペトスートに手を出さないかぎり、たとえ王の命令であっても攻撃はないということです」
「王太子であるアリストが降伏勧告を受け入れても意味がないことはわかっているでしょうからこれはほぼ確実に私たちを撤退させるグワラニーの罠。そして、サイレンセストの住人を盾に降伏することを要求するという筋書きは十分にあります。そうであっても、絶対ではないかぎり一度王都まで戻るべき」
「王都近郊への転移は待ち伏せの恐れがあるというのなら、それこそラフギールにでも転移すれば魔族が待っていることもないでしょうし、状況も掴めるのではないでしょうか」
フィーネらしくもない慎重な意見であるが、ファーブたちもそれに乗る。
だが、アリストは全く譲る気はない。
頑として自説を主張し続ける。
「たしかにここに到着してからの何日かは後方の部隊からの連絡は来ていません。ですが、それまでやってきた伝令は変わった様子がなかったということです」
「ガルベイン砦であれば数日で攻撃できるかもしれません」
「ですが、王都に辿り着くことはできません。なぜなら、私たちと同様グワラニーたちもサイレンセストに足を踏み入れたことがないのです」
「つまり、転移魔法が使えない」
「フィーネ。私の意見に反対ならその方法を示してください」
……そうなれば、自分はグワラニーに負けたことになる。アリストはそれが耐えられない。
最近のアリストが見せるその様子にフィーネは気づく。
だが、ここでそれを指摘したらアリストは暴走しかねない。
……止むを得ませんね。
……それに実際のところ、アリストの言葉を否定できないのも事実。
「わかりました。アリストの意見に従いましょう。……ここは」
結局、フィーネはアリストに従うことを表明する。
もちろんその理由は転移魔法が持つ枷。
それほどその枷は堅く、さすがのグワラニーも魔法の理を破ることは不可能に思えた。
だが……。