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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第三章 クアムート攻防戦
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幕後演目 

「パラトゥード様。敵が現れました」


 それは、敗走するノルディア軍を追っていた魔族軍三千人がバベロの町に近づいたところで、指揮官のもとに顔色を変えてやってきた斥候の報告の言葉だった。


 予想外に逃げ足の速い相手にイライラしていたその男にとってそれは吉報といえるものだった。


「逃げられないと観念し反撃に出てきたのか。だが、あのような恥ずかしい姿で切り殺されたいとはどこまでも恥知らずな奴らだな」


 安堵すると同時に緊張の薄皮が剥がれ落ち、いつもの上品さの欠片もない言葉がこぼれだしたパラトゥードに対して、やってきた斥候は恐縮しながらも残りの部分の報告をおこなう。


「い、いえ。そうではなく……」

「ハッキリ言え。もしかして新たな敵、援軍か?」

「援軍といえば援軍なのですが……現れたのは珍妙な格好をした道化のような男三人たちです。ですが、腕は確かで、斬りかかった斥候隊三十名があっという間に倒されました。もしかしたら、彼らは噂の勇者候補ではないかと……」

「……なんだと」


 パラトゥードはその言葉にもちろん驚く。


「……なぜこんなところに勇者候補がいるのだ。だが、これはいい」


 実をいえば、パラトゥード自身も敗残兵をいくら討ち取ってもグワラニーたちよりも遥かに劣る評価しか得られないことは十分認識していた。

 そうかと言って、本来の目的を放棄し追撃を開始した手前、何も手にすることなく戻るわけにはいかない。

 どうしたらよいかと思案している最中だったのだ。


 だが、勇者候補を討ち取ったとなれば話は別だ。

 命令違反は帳消しになり、他の将軍たちがひどい目に遭った勇者候補を初めて討ち取った栄誉も得られる。


 パラトゥードはニヤリと笑う。


「それはいい。全軍に伝えろ。目標をノルディアの敗残兵から目の前にいる勇者候補に変更。それで、敵の詳細は?」

「大剣を帯びた男がひとり。戦斧を持った男がふたり。そして、後から現れた銀髪の女騎士がひとりの計四人」

「もうひとりが加われば勇者一行に仕立て上げられたものを。まあ、いい。奴らを血祭にあげて帰還するぞ。フドゥーロ、デステーホ、イピランガに突撃体形を……ん?お、おい。あれはなんだ?」


 パラトゥードはその命令を言い終えることができなかった。


 視界いっぱいに広がりながら彼のもとにやってきた火の玉。


 それがパラトゥードの言葉を遮ったものだった。


 それよりも少し前。

 こことは別の世界では二時間前と表現できる程度に時間を遡ったころの小さな町バベロ。

 やることもなく、町はずれの小さな安宿で酒を飲みゴロゴロしていた若い男三人は外が大騒ぎになっているのに気づく。

 剣を片手にもそもそと外に出た三人が見たもの。

 それはとても外を歩く姿ではない格好をした男たちが堂々と隊列を組んでやってくるという異様な光景だった。


「……俺たちとは別の意味で恥ずかしいな。あれは」

「ああ。だが、それなりの武器をもっていることからあれは野盗ではないぞ」

「そうだろうな。だいたいあれだけの数を揃えた野盗がいたら驚く」

「つまり、奴らの正体は軍だ。しかも、あれだけ傷を負っている。間違いなく負け戦の後だな。ということは、クアムート攻略は失敗したということになる。だが、たとえそうであっても誰も甲冑を身に着けていないというのはどういうことなのだ?」

「女たちの目の保養になるためにやっているのではないか?」

「野盗に身ぐるみはがされたということも考えられる」

「それが本当ならどちらにしても驚きだ」


 まず、やってきた者たちの異様な身なりについて冗談交じりに口にした彼らの疑問に答えておけば、正解は命令によって甲冑を脱ぎ捨てていたから。


 そう。

 現在先頭を歩く敗軍の将タルファは、あの場でこう命令を出していたのだ。


「全員甲冑を脱ぎ捨て、水、食料、そして武器だけを持って走れ」


 もちろん、貴族やエリート軍人にとって先祖伝来の高価な甲冑を脱ぎ捨てろというこの命令は受け入れがたいものであった。

 それだけではない。

 たとえ逃げ切れたとしても恥ずかしい姿を味方に晒すことになる。


 実を言えば、昨晩突然の攻撃が始まり、とりあえず甲冑だけは慌てて身に着けたものの、その下と言えばとても見られたものではなかったのだ。

 もちろん全員にその自覚がある。

 お互いに目を合わせ躊躇する。

 しかし、命令は命令だ。

 しかも、命令した将軍自身が真っ先に甲冑を脱いでいる。

 こうなっては拒むわけにはいかない。

 渋々という音を立てながら彼らはそれに従った。

 だが、身軽になった彼らは重い甲冑をつけたままの魔族軍を大きく引き離すことができ、こうして皆生きてここまで辿り着くことができた。

 つまり、それが功を奏したというわけである。


 しかし、この話には悲しい続きがあった。

 この敗走軍を率いたタルファは、帰国後王や軍幹部から甲冑を脱いで敗走したことを軍の威厳を著しく汚したと厳しく叱責され、死一等は減じられたものの将軍の地位を奪われたうえに軍を追われたのだ。

 さらに敵より多くの兵を擁しながら逃げ出した彼の逃亡がクアムートにおける敗因だという軍の発表によってすべての責任を押しつけられたタルファは当然のように遺族の非難の矢面に立つ。

 そこに追い打ちをかけたのは、本来ならタルファの側に立ち弁護をするはずの彼の英断によって命を救われたはずの部下たちが非難の輪に加わったことだった。

 曰く、自分が助かりたいだけの将軍は早く逃げるために真っ先に甲冑を脱ぎ、自分たちを恥知らずの仲間にするために甲冑を脱ぐように命令し、その結果自分たちは裸で走らされた。

 もちろんそれは戦線から恥ずかしい姿で離脱し助かったことへの非難をかわすためという自己保身のなせる業であった。

 結果、すべての国民から「全裸将軍」と嘲笑されたタルファは「国辱」として家族とともに罵倒されながら過ごす理不尽な隠遁生活を余儀なくされる。

 そして、ある日忽然と姿を消すと、あっという間に人々の記憶から消され、忘れ去られることになる。


 濡れ衣を着せられたままノルディアの歴史から抹消されたその男タルファ。

 しかし、その彼はある日別の場所に姿を現す。

 しかも、それまでとはまったく違う立場の者として。

 だが、それはこの戦場とは無縁な話。

 いずれその時が来たら話すべきものである。


 さて、そのような過酷な運命が待っていることなどこのときは知るはずがない先頭を歩くその男の前に剣を持った三人の若者が立つ。

 纏うオーラと鍛えられた肉体から彼らがここで狼藉を働く可能性は九分九厘ないとは思っても、その姿を見れば百パーセントとはいえない。

 当然そうなれば勇者という肩書を持つ若者には無礼を承知で確認する義務が生じる。


 その若者が口を開く。


「一応聞く。あんたたちはいったい何者だ?」


 答えはもちろん彼らは正真正銘のノルディアの正規軍であり、本来であればその問い自体がすでに彼らを侮辱していることと同義語になる。

 だが、今の自分たちの姿はそう尋ねられても仕方がないことを知っている半裸の男は顔を顰めだけでその場を収める。


 ……まあ、立場が逆なら私だってそう尋ねるだろうし。


 口に出さない言葉でそう呟き、それでもその言葉によって傷つけられた心の平穏を取り戻すためにかなりの時間を要した男はその短くない時間のなかであることに気づく。

 それは目の前の男がたった今口にした言葉だった。


「……共通語?ということは、おまえたちはノルディア人ではないな」


 共通語。

 唐突に男の口から飛び出したそれはこの世界の人間が他国人との会話で使用する大国ブリターニャ王国の公用語を示すものだった。

 そして、ノルディアの占領地であるここでその共通語を使うということは、男たちはノルディアの人間ではないことを示していた。


 目の前にいる若者が勇者であるという結論まではさすがに辿り着かなかった半裸の男は、心の中での値踏みを強制終了すると、目の前に立つ三人の男を眺め直してから言葉を続ける。


「ここで何をしているのかは知らんが、よく聞け。まもなくここに魔族がやってくる。もちろんやってくるのはおまえたちがどれだけ腕に自信があっても三人程度でなんとかできる数ではない」


 それは警告と同時に、先ほどの問いに対する間接的な答えでもある。


 ……やはり、前線で魔族軍と戦っていた者ということか。


 目の前の男が言外に主張したいことのすべてを察した若い男が口をもう一度開く。


「もうひとつ聞く。それで、あんたたちを打ち破ってここにやってくる魔族は何万人だ?」


 大幅に省略した言葉の裏でその若い男はこのようなことを考えていた。


 万単位の規模の兵を有す軍が戦いもせず逃げてくるには当然それ相応の数の敵が必要だ。


 だが、大きな期待とともに若い男が尋ねたそれに対して半裸の男が口にした数は予想外といえるものだった。


「やってくるのはおそらく三千人といったところか」

「三千?」


 若い男は本気に驚く。


「……あんたたちは一万近くはいるだろう。それが三分の一しかいない敵に背を見せて逃げてきたということなのか?」


 驚きのあまり思わず聞き返した若い男の言葉に、半裸の男は、その事実と、それから部外者にそれを指摘されたふたつの口惜しさをたっぷりと滲ませながら答える。


「残念ながらそうなるな。だが、言っておくが奴らはただの三千ではない」

「……どういうことだ?」

「気づいているとは思うが、我々はこの先にあるクアムートを攻めていた者だ。だが、やってきた奴らは一晩で我が軍三万を葬った」


 もちろんタルファは昨晩同胞を多数葬った部隊とこれからやってくるものが違っていることは知っていたが、何が起こったのかわからないまま逃走していたタルファが先陣と後続部隊ではその力が天と地ほどの差があることなど知るはずもなく、決して意図的に偽りの情報を流していたわけではない。

 だが、偽情報となるその言葉は勇者である若い男の注意を引くには十分なものだった。


 ……もしかして、そいつらが例の待ち人か?

 ……これはいよいよおもしろいことになってきた。


「とにかく奴らはまもなくやってくる。我々はここに住むノルディアの民に呼び掛けて護衛をしながらオコカまで逃げる。一緒に逃げる気があるのならすぐに仕事を切り上げろ」

「わかった」


 無骨だが心が籠った言葉を残し男が去ると、入れ替わるように少し離れた場所で彼らのやりとりを見守っていた仲間のひとりが三人に近づく。

 そして、勇者の肩書を持つ若い男はやってきた男に「アリスト。今の話をどう思う?」と言葉を投げかけると、明るさのない声で問われた男が答える。


「今ここで嘘をつく理由はありませんから、まあ、まちがいないでしょう。それで、どうしますか?」


 戦うのか?

 逃げるのか?


 男はそう尋ねていた。

 若い男は皮肉を噛みしめた口を開く。


「魔族がやってくるのだ。迎え撃つしかないだろう」

「歯切れが悪い物言いですが、まあ、わかりました。ですが、本当によろしいのですか?戦いはあの出で立ちでおこなうということになるのですよ」


 あの出で立ち。

 それは彼らが勇者ではなく勇者候補として振舞うためのものであり、幸か不幸かこの地に持ち込んでいたものは例のあれだった。

 当然ながら、戦闘狂と仲間の女性に嘲り半分で評されている彼らがその大好きな戦いを躊躇させる唯一の障害もそれであった。


 三人それぞれが心の中でこれからやってくる者たちにこれでもかというくらいに文句を言ったものの、それで彼らが抱える問題は何も解決しない。


 勇者の肩書を持つ若者がそう決意するとそれを言葉にするため口を開く。


「さっきの奴らではあるまいし裸で戦うわけにはいかん。あれしかないのだったらあれを身に着けるしかあるまい。ただし、武器は手に馴染んだものを使わせてもらう」


 それに続くのは兄剣士。


「そうだな。それに全員あの世に送れば証拠隠滅は完成する。問題はない」

「兄貴、それは名案だ」

「たしかに……」


「では、早速準備を。それから、相手が相手ですから当然フィーネにも声をかけますが、彼女にはその前にやってもらうことがあります。くれぐれも彼女抜きで戦闘を始めぬようにお願いします」


 ……わずか三千人で一万人の人狼を含む数万の軍勢を一晩で葬る。

 ……しかも、逃げてきた彼らの傷は剣によるものではない。

 ……おそらく、ノルディア軍を崩壊させたのは剣士ではなく魔術師。

 ……つまり、私の待ち人とは魔術師。それも相当な実力者なうえに、その力を躊躇いなく行使する。

 ……危険です。

 ……やはり、ここで仕留めるべきですね。


 ……どんなことがあっても。


 その男アリストは心の中でそう呟いた。


 それから、しばらく経った町の入り口から少し離れた場所。

 この世界どころかどの世界においても嘲笑されることは避けられないかわいい花があしらわれたピンクの甲冑に身を包み、恥ずかしさのあまり顔を赤らめながらも街道の真ん中に仁王立ちし、敵を待ちかまえる三人の男。

 そこに、いつもと同じこの世界には存在しない素材でつくり上げられた軽く、それでいて並みの金属よりも強固な純白の甲冑を身に着けた女性が銀髪を靡かせやってくる。

 嘲り以外の成分はまったく含まれていない美しいが冷たい笑みをたっぷりと披露して。


 男たちは心の中で罵りの言葉を精一杯並べるものの、諸般の事情によりそれを口に出すことはせず、その代わりとして別の言葉を口にする。


「遅いぞ。フィーネ」

「まったくだ。ついでに言っておけばそこに転がっている奴らは向こうから斬りかかってきたのだ。決して俺たちから仕掛けたものではない。変な誤解はしないように」

「そうそう。絶対にするなよ」


 言い訳を多分に含ませながら話を甲冑へと進まないように必死の努力をする男たちの言葉。

 だが、そんな小さな悪巧みはあっという間に看破される。


 まず、じっとりとした目でまず足元に転がる死体の山を、続いて、それをつくった三人を先ほど以上の嘲りの目で眺めたその女性が口を開く。


「見ているこちらが死ぬほど恥ずかしくなる甲冑がこの世で一番よく似合うあなたたちと違って女性は何をするにも支度が大変なのです。それに逃げてきた兵士たちはすぐに手当が必要な火傷をしている者がたくさんいましたから」


「……ちょっと待て。刀傷ではなく火傷だったのか?」

「刀傷ではないですね。あれは」


 ……つまり、相手は強力な魔法を操れる魔術師がいるということか。


「先ほどの男の情報では魔族軍は三千。さて、どうやる?フィーネ」

「アリストは私の魔法で後ろ半分を薙ぎ払い、前半分をあなたがたが倒すべきだと言っていました」


「この前の件もあります。彼らが本当にアリストの待ち人なら少し離れた場所に本命である魔術師が隠れている可能性が高い。集団の後ろに控える実戦部隊の指揮官を攻撃魔法で狙えば魔術師は必ず動くだろうとのこと」

「……そこをあらためてアリストが魔法で攻撃するというわけか。たしかに理にかなっているな」


 だが、口に出したその言葉とは裏腹に、実を言えば勇者の肩書を持つ若者はその提案にまったく納得していなかった。

 理由は簡単。

 そうなれば、主なターゲットは皆、彼女とアリストの手に委ね、自分たちが相手にするのは雑魚ばかりになる。

 だが、それを覆すだけの主張が彼にできるかがいえば、当然ノー。

 しかも、強硬にそれを主張した挙句、大物を取り逃がせば、例のあれが待っている。

 さらに、ここで余計なことを言って女性の機嫌を損ねると、嫌がらせのように甲冑の話が始まるのは確実。

 勇者も、そしてふたりの仲間も、渋々それに同意する。


「言っておくが、前半分は俺たちの獲物だからな。それだけは忘れるな」

「わかりました。まず後ろ半分をきれいにしますから、残った前半分はファーブたちの好きにやってください」


 やがて、彼らの前に大軍が現れる。


「見た目で約三千。情報が正しければどうやらあれが待ち人の一団のようだな」

「そうですね。それではさっそく始めましょうか」


 銀髪の女性が右手を真上に上げると上空に火の玉が現れる。


「火球よ。かの者のもとに行き、あなたの仕事をしなさい」


 わざとらしいその言葉とともに指で魔族軍を差し示すとその火の玉は急速に巨大化しながら魔族陣地へと向かう。

 一定レベルの魔術師であれば防ぐ手立てなど山ほどあるこの世界では使い古されたなものとされるそれはあくまで魔術師をあぶりだすための囮。

 つまり、防御魔法の発動によって魔術師の位置が判明した次からが本当の本番というわけである。


 だが、ここで勇者たちにとって予想外のことが起こる。

 防御魔法で防がれることを前提にして放ったはずの火球は魔族の集団のすべてを飲み込むくらいにまで成長したうえ、そのまま魔族軍の指揮官がいると思われる場所に辿り着いてしまったのだ。

 使い古されたものといっても当然ながら威力は絶大であり、その惨状はまさに前夜ノルディア軍陣地で起こったことの再現といっていいだろう。


「お、おい。なぜ防がないのだ?」

「いったい何をやっていやがるのだ。あいつらは」


 その様子を呆然と眺め、それを放った側のものとは思えぬ間の抜けた言葉を口にしたのは戦斧を持った兄弟。

 そして、もうひとりの男もまるで自分のことのように、いや、そうなると自分たちが戦う相手が減るのだからまちがいなく自分たちのことではあるのだか、とにかくそういうことで勇者であるもうひとりも盛大に呻き、そして頭を抱える。


 もちろん火球を放った女性も。


「私たちの計略に気づき、わが身可愛さに部下たちを見殺しにしたということですか?」


 ……いいえ。そのようなことではありませんね。

 ……あれは単純に魔術師が同行していないだけ。

 ……ということは、アリストの待ち人ではないですね。やはり。


 実をいえば、彼女は治療しながらノルディア軍の兵士たちと話をしていた。

 そこで聞いた。

 厳密にいえば、数万の友軍を葬り、彼らの部隊たちも半壊させた魔族軍と、現在崩壊しつつある目の前にいる追撃部隊が別であることを。


「……おかしいですね。もしかしたら指揮官が最前線にいるのかもしれません。ということで、念のためにもう一度」


 含み笑いを浮かべたその女性はそう言いながら、さらに大きな火球を放つ。

 もちろん結果は先ほどと変わらず。

 轟音と悲鳴が上がり、すでに予定の五割増しで蹂躙されていた魔族軍の被害はさらに跳ね上がる。


「……どうやら例の方々ではなかったようですね。あれは」


 黒い笑みを浮かべた彼女のわざとらしい声に勇者の肩書を持つ若者が不機嫌そのものという表情で応える。


「見ればわかるだろう。というか、わかっていながらもう一発撃ったのだろうが。とにかく、だいぶ減ったが、残りは好きなようにやらせてもらう。いくぞ。ふたりとも」


 勇ましい言葉を残し、その言葉にはまったく不似合いなピンクの甲冑を身に着けた三人の剣士はどうにか三桁を保っている程度にまで割り込んだ敵兵のなかに勢いよく飛び込んでいくのであった。

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