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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第二十八章 滅びの道を選択する者たち
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終焉の予兆 

 ブリターニャ軍との戦いが終わり、今後の戦いからについて助言もしたところでグワラニーはようやく戦場を離れる。

 そして、クアムートに戻る前に報告をするため王都イペトスートに立ち寄る。

 むろん戦いの結果についてはせ西方方面軍の司令官アフォンソ・モンテイロから報告されている。

 では、グワラニーは何を報告するのか?

 いうまでもない。

 勇者についてである。


「……つまり、いよいよ来るということか」


 自身の説明に王はその言葉で応じると、グワラニーは小さく頷き、さらに言葉を続ける。


「しかも、今回勇者一行がブリターニャ軍とともに姿を現したということは、フランベーニュの支配地域ではなく、ブリターニャ軍の支配地域からやってくる可能性が高いです」


「しかも、今回の戦いでブリターニャ軍は半壊状態。大幅に後退したうえ、再奪還のために攻勢に出ることはほぼ不可能。それどころか、勇者を除いた戦力だけの戦いであれば、我が軍がブリターニャの王都サイレンセストを落とすことも可能。ブリターニャを救うという意味でも動かざるを得ないでしょう」


「そして、ここで重要な情報をひとつ」


「それは勇者一行の中心人物であるアリスト・ブリターニャが非常に好戦的だったこと」


「これまでは戦闘を望むのは三人の剣士で、アリスト王子はそれを抑える役割でした。ですが、今回は『銀髪の魔女』を含む四人はその気がない中、アリスト王子だけが戦闘を継続することを望み、挑発的な言動を繰り返していました」


「これまではブリターニャとの休戦も可能ではないかと思っていましたが、あの様子では難しいです」


「つまり、どちらかが倒れるまでやるしかありません」


「そして、倒れるのはどちらかということですが、残念ながらこちらです」


「アリスト・ブリターニャとフィーネ・デ・フィラリオという化け物魔術師ふたりに対抗できる手段はこちらにはありません」


「つまり、勇者が動き出した時点で我々の負けは決まります。そして、アリスト王子の最終目標は魔族をこの世からすべて排除することです。ですから、降伏は許されず、イペトスートが落とされた後に我々のもとにやってくるのは年齢・性別を問わず目の赤い者はすべて殺されるという惨劇」

「ちょっと待て。我々の情報では勇者は剣を向けた者には容赦のない攻撃をおこなうが、逃げる者や女、子供には手を出さない。それはおまえの話とは合わないだろう」

「これまでの勇者はたしかにガスリン総司令官の言うとおり。そして、最終段階までそれを崩さないでしょう」


「ですが、それは偽り。それはこちらを油断させるための。そして、最終的に一か所に集めた魔族を一撃で始末する。それが今のアリスト王子が目指しているもの」


「どの段階からかはわかりませんが、アリスト王子は間違いなく魔族はこの世ら消えるべきという意見に傾いています。それは言葉の端々から感じました」


「そして、その根底にあるのは寿命の差です」


「実をいえば……」


「以前のアリスト王子には、魔族をブリターニャの支配下に置き、利用するという考えが見え隠れしていました。私として、その考えを利用して立場を逆転させる。または対等な条件で休戦し、最終的には経済によってこの世界を頂点に立つという策も考えていました」


「ですが、それとともに、アリスト王子のこの構想には穴があることに私は気づいていました」

「それが寿命か」

「そういうことです」


「我々は人間の数倍長生きできます。その寿命の差を利用して、勝ち目のないアリスト王子たちが生きている間は服従を誓い、彼らが死んだ後、攻勢に出る。あのふたりのような魔術師が続けて現れるなどほぼない。それに対し、こちらは、彼らにやや劣るがふたりがいなければ君臨できる者がいる。立場は一気に逆転できるというわけです」


「その気になれば大昔と同じような人間に対し絶対服従を誓わせる立場にもなれるわけです」


「そして、それにアリスト王子も気づき、選択を迫られた」


「現在を安寧のために将来に禍根を残すか。それとも、魔族に対して絶対的優位な力を持ったふたりが揃ったこのときに、どれほどの汚名を着ようが決着をつけるか」


「どうやら、アリスト王子は後者を選んだようです」

「それで、その対抗策はあるのか?グワラニー」

「残念ながら、アリスト王子を仕留める策はないです。コンシリア副司令官」


「そして、我々ができるのは、一撃で仕留められないことくらいでしょうか」


「突然の一撃であれば、どうにもなりませんが、勇者の王都接近が確認できるのなら、非戦闘員を王都以外の場所に避難させ、将来の復活にかける。これが我々のできる最善の策といえるでしょう」

「つまり、クアムートに避難するということか?」

「いいえ。クアムートはノルディアとの国境に近すぎるうえ、その存在はおそらく勇者一行も気づいているでしょう。そこに全員が避難すれば、王都にいるのと同じこと。クペル城も同じ。ですから、我が国の中部、南部にあらたな町を複数つくる準備を始めるべきかと」


「そして、そこを拠点に国内各所を転々と移動しアリスト王子たちの寿命が尽きるのを待ちます」

「それはどれくらいになる?」

「五十年ほどは必要でしょう」

「まるで流浪の民だな。我々にはふさわしい姿には見えないな」

「たしかに。ですが、ガスリン総司令官。誇りを胸に勇者に狩り尽くされるよりはいいでしょう。王都とともに運命をともにするのは軍指導者だけに留め、復活の種を残すべきだと思いますが」


「とにかく、まずやらねばならないことは勇者の行動の把握と足止めということになります」


 ……これではまるでふりだしに戻ったようです。

 ……ですが、あの時点では半年もすれば王都は炎上していた。つまり、何もしなければ私はとっくの昔に消えていたわけで、そう考えれば、まったくのマイナスというわけではない。

 ……とはいえ、こうなってみると、あの時やはりアリスト王子にとどめを刺しておくべきだという後悔はあります。薄々アリスト王子の考えの行き着く先に気づいていたのですから。

 ……まあ、後悔なんとやらだが。

 ……とにかく絶対に逃げ切ってみせる。いや……。


 ……アリスト王子にだけにいい思いさせるわけにはいかない。


 ……そうなった場合には、相応のお返しはさせてもらう。


 ……そう。イペトスートを焼いても、凱旋する場所があると思わないほうがいい。アリスト王子。

 


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