クアムート攻防戦 Ⅵ
一方の追撃する側である魔族軍グワラニーの陣内。
「グワラニー様。我らも追撃に参加すべきではないのですか?」
友軍がものすごい勢いで追撃していくのを横目で見やりながら、やる気満々の同僚とともにグワラニーのもとにやってきたウビラタンの表情は怒りに満ちていた。
「……言いたいことはわかる。我々が人狼どもに袋叩きに遭っているところを見物するつもりでやってきたパラトゥードが予想外の勝ち戦になっていることに驚き、一枚噛むために上席という地位を利用して本来の目的である食料搬入を我々に押しつけ落穂ひろいに出かけたのだから」
「……だが、それでも……」
「我々の使命は城内に物資を運び込むことの手伝い。さらに、上席であるパラトゥード将軍よりその荷物を運び込むように指示された以上、そうすべきだ」
「ですが……」
「いいのだ。我々はすでに昨晩の戦いで人狼を含む二万以上の軍を殲滅し、包囲軍も半壊させ撤退に追い込むという十分な手柄を手にしている。パラトゥード殿が逃げ帰る敵の尻に噛みつく程度の手柄が欲しいというのならくれてやっても構わないだろう。しかも、将軍はそのつまらぬ功の代わりに城内の者から熱烈な歓迎される栄誉を我々に譲ってくれたのだ。十分につり合いがとれるというものだ」
渋々ながら引き上げるふたりの部下を見送ったグワラニーは隣に立つ男に声をかける。
「納得したと思うか?」
「いや。していないでしょう。ですが……」
「そうだ。そもそも戦意喪失した軍の追撃などたいした手柄でもないし、その必要もない。それに、その必要が本当にあるのなら手間がかかる追撃などせずデルフィン嬢の魔法で終わらせていた。それよりも……ノルディア軍の逃げた先にはバベロがあるな」
グワラニーはその地名だけを口にした。
だが、最側近のバイアにとってはそれだけで十分だった。
男はグワラニーが口にしなかったことを補うように言葉を添える。
「そして、順番からいけばそろそろこの周辺に彼らが現れるころです。万が一、我々もパラトゥード将軍の狩りに同行しバベロで彼らと鉢合わせするようなことになれば、昨晩の戦果が帳消しになるくらいの被害を受けることになります」
バイアの言葉にグワラニーは満足げに頷く。
「そういうことだ。わずかな手勢しか持たない今の我々は勇者たちと遭遇するわけにはいかないのだ。まあ、パラトゥードがバベロで勇者たちと出会うかどうかは奴の運しだいだ。ついてなければ、心にもない弔辞を述べ、ついていれば、表面上だけの祝いの言葉で迎えてやればよいだろう」
皮肉たっぷりのグワラニーの言葉にバイアも同じ種類の笑みで応じる。
「承知しました。では、パラトゥード隊が無事に帰ってくることを祈るとしましょう。それにしても、今回初めて実戦のなかでその力を見たわけですが、デルフィン嬢の魔法は驚きですね」
「まったくだ。しかも、あれでもまだまだ余力を残しているのだからな。あれなら本当に勇者に同行している魔術師とも渡り合えるかもしれないな……」