そうだ!勇者を雇おう
ダニエル・フランベーニュ。
フランベーニュ王国の第三王子で王太子兼宰相という肩書を持ち、実父である王を幽閉状態に置いているため実質的な国王でもある。
精力的に動く彼であったが、国家運営の隅々までひとりでおこなうのはさすがにできない。
純粋な軍務はロバウやロシュフォールという有能な知己が得たためその助言でなんとかなっているが、文官の領域となる内政にはそれにふさわしい人材はいまだ見つかっておらず、結局父王時代の組織に頼るしかない。
そこで思い知る。
「父上もこんな組織で国を運営していたものだ」
毎日のように出るぼやき。
そして、ようやく気づく。
国を動かす難しさを。
わかったつもりでいたが、結局何もわかっていなかったということか。
何事も中に入り実際に経験してみたいとわからないものだ。
だが、始めてしまった以上後戻りはできない。
しかも、最近は軍事的な失敗の連続しているうえ、例の内戦の影響で王家に対する評判が悪い。
ここで何か見栄えのよい成果を挙げなければと考えるものの、何も浮かばず今日も終わろうとしているところに、七級文官という肩書を持つアミアン・フルミーがやってくる。
「……七級文官?」
来訪を告げる声にダニエルは顔を顰める。
フランベーニュの文官組織には明確な階級制度が存在する。
そして、階級ごとに出入りできる区画が決まっており、七級文官では最深部である宰相の執務室には参上できないことになっている。
だが、例の言葉を聞いた上司たちは責任逃れのために目を通さないままフルミーを上司に届けるように命じ、結局リブルヌに対応した彼がここに届けることになった。
例外事項である「緊急事態」という理由で。
一瞬、別の理由が頭を過ったダニエルだったが、もちろん表情にそれを出すことなくフルミーから受け取ったそれはその質の悪さから軍務用羊皮紙とひと目で理解した。
そして、またぼやく。
「……こんなときにまた難題を持ち込みやがって」
もちろんそこにはリブルヌからの言葉どおり前線の窮状が書かれていた。
だが、不安になりながらさらに読み進めたダニエルは自身の想定の斜め上をいくものに辿り着く。
まずやってきたのはその序章となるものである。
補給隊の護衛として傭兵や冒険者を雇いたいので、その手配をお願いしたい。
「まあ、正規兵に余裕がないのであれば、傭兵を護衛にあてるというのは筋が通っている。だが、これはベルナードやリブルヌの裁量でできることであってわざわざ王都が……」
ダニエルの言葉はそこで止まる。
「勇者?」
「勇者とはあの勇者のことか?」
まるで、そこにそう書かれていたかのようにあのときベルナードが漏らした言葉を、そのそっくりそのままのダニエルは口にした。
勇者を雇う。
もちろん勇者が誰かもわからない中でそう言っても方法もない。
そこで国王自ら勇者に呼びかける。
そうすれば、その報酬に釣られて自称勇者が山ほどやってくる。
その中で勇者を選べばいいだろう。
つまり、本物でなくても構わない。
技量、人格、そして、忠誠心によってフランベーニュにとって都合のいい者を勇者と認定すればよい。
当然ながら、それが一組である必要はない。
いや。
基準に達しているのであれば、フランベーニュにとって使える駒が増えるのだから多ければ多いほどよい。
それがその書に書かれている内容であった。
「良い手だ。それに……」
「これは王家の人気回復に使える」
そして……。
「勇者に告ぐ。フランベーニュ王国は勇者にある仕事を依頼したい。本来であれば憎き魔族に対する聖戦に参加を希望するところであるのだが、そこはどこの軍にも属さず魔族と戦いたいという貴殿の意志を尊重する。今回の依頼はそれとは別。前線への輸送業務を阻む小悪党の排除である。報酬は勇者にふさわしいだけのものを用意するので是非依頼を受けていただきたい」
翌々日。
国王の名でそれは布告される。
王都だけではなく、国中で発表され、多くの場所に布告文は張り出される。
差出人、そしてその内容に不似合いな口語体の文章は、むろんより広範囲を対象とし、いわゆる脳筋でも理解できるようなものにした、文官たちの涙ぐましい努力の賜物。
そして、その努力は完全な形で報われることになる。
ただし、そうなればフランベーニュ国内に忍び込んでいる各国の間者の知るところとなるのは避けられない。
アリターナではアントニオ・チェルトーザはその情報を聞いて嘲笑し、アグリニオン国のトップであるアドニア・カラブリタは「そんなに困っているのなら私たちに相談してくれればいいものを」とぼやき、大海賊からその情報を買ったグワラニーは苦笑いする。
「……勇者を食料輸送の護衛にあてる?我々の討伐に参加させるのではなく」
「つまり、フランベーニュにとって我々を倒すより食料調達のほうが優先順位が高いのか?我々も舐められたものだな」
そう言ったところで微妙な笑みは深みを増す。
だが、それと同時にそれがどのようなことなのかもグワラニーは十分に理解していた。
「フランベーニュ軍はよほど食い物に困っている……」
そこまで言ったところでグワラニーはあることを思い出し、その情報を持ち込んだバイアを見る。
「ところで、ベルナード将軍の死亡の報告は?」
そう。
アマラの戦いの後、いつもどおり戦死者の所持品検査をして、ベルナード本人と思われるものは見つからなかったため、可能性はないと思われていた。
だが、ここまでグワラニーはその答えを手に入れていなかったのである。
そして、問われて者の答えがこれである。
「ないですね。先日アマラで魔族を撃退したものの、その戦いの最中に戦死したアルベール・キュースティーヌなる将軍の葬儀が英雄として大々的におこなわれたそうですから」
「つまり、ベルナードは健在であるが、兵に食わせるものがない。そこでなんとかしろと言ったところ、こうなったわけか」
「誰が考えたかは知らないがなかなかおもしろい策ではある」
「……ところで……」
「本物の勇者たちはこの話を聞いてどういう対応を取るでしょうね?」
自分たちがこうして情報を手に入れているのだ。
当然ブリターニャの間者は王都にこの情報を送っているだろう。
そうなれば、王太子であるアリストの目にも留まる。
そうなったときにどう動くか?
バイアの問いの一瞬後、グワラニーが口を開く。
「誰かに金を毟り取られたばかりのアリスト王子は参加したいだろうがさすがにそうはいかない。大金を稼ぐ機会を逃したと最高の渋面になってはいるだろう。その悔しがる表情を想像するのは一興だな」
「フィーネ嬢たちは?」
「最近暴れたりない勇者殿たちは出かけていきたいだろうが、フィーネ嬢の性格を考えればそのような面倒な仕事は受けるとは思えない。となれば当然却下だろうな」
「ということは、本物は現れずというところでしょうか?」
「そうなるな。もっとも……」
「食料の護衛など勇者でなくてもできるのだ、ベルナード将軍が適当に見繕ってなんとかするだろう」
さて、グワラニーに「金を稼ぎ損ねて渋面をしている」と茶化されたアリストであるが、まさにその言葉どおり、仏頂面の見本を周囲に披露していた。
裏事情を知らぬため、アリストが何に対してそれほど不機嫌になるのかわからぬ周りの者は自分が気づかぬうちにアリストの機嫌を損ねた言動をしたに違いないとことあるごとに「申しわけありません」という言葉を添えていた。
もちろんアリストは「あなたは謝らなければいけないようなことは何もしていません」と言うものの、その言葉を口にするのが笑顔とは程遠い表情だったため、なおさらその言葉が皆を怖がらせ委縮させるという悪循環に陥っていた。
当然アリストの不機嫌は止まらない。
その憂さ晴らしをするためアリストがいつもの酒場やってくる。
そこで、例の話を披露するわけなのだが、当然脳筋三人衆は憤慨し、すぐさま出かけようと言いだすわけだが、もうひとりは興味なさそうにその話を聞き流していた。
……おかしい。
アリストはその女性の様子に疑念を持つ。
……こういう話の場合、嫌がらせしようと言い出すのがフィーネだ。
……まあ、立場上できないということはあるでしょうが、それでもひとことくらいはあるはず。
……この無関心さはおかしいです。
「どうかしましたか?フィーネ」
差しさわりのない言葉を選び出してそう問うたアリストをフィーネは眺める。
そして、その相手からの返答はすぐにやってくる。
「実は先ほどまで実家に戻っていました」
「そして、公爵様にこう尋ねられたわけです」
「勇者を雇いたいと王太子殿下が言っている。おまえは以前、勇者を知っていると言っていたが、知り合いなら連れてきてくれ」
「どうしたらいいでしょうね」
そう言ったところで、我慢しきれずフィーネは黒い笑みを爆発させる。
「おもしろいことになってきました」
「まあ、アリストは当然参加できませんから五人組という勇者一行の要件からは外れてしまいます。当然私たちが本物の勇者とは思われることはないでしょう。それに……」
フィーネは長い黒髪を撫でまわす。
「『銀髪の魔女』が現在は黒髪とは思わないでしょうし」
そこまで言えば、フィーネがこの件をどう対応しようとしているのか明らかだった。
アリストは大きなため息をつく。
「つまり、その野盗狩りに参加するというわけですか?」
「当然」
「暇つぶしができるうえに、大金がもらえる。そして、フランベーニュと魔族が戦う前線まで堂々と足を踏み入れられる。拒む理由などないでしょう」
もちろん最後の部分は転移ポイントの確保の話をしており、アリストもその重要性は認めざるを得ない。
渋々ではあるが、フィーネの提案に同意する。
「……ばれないように十分に注意してくださいね。それに、あなたは公爵令嬢。それにふさわしい振舞いをするようにしなければいけません」
「わかりました」
延々と続くアリストの注意事項を右から左に聞き流し終わると、フィーネは待ちくたびれた三人の剣士に目をやる。
「では、行きましょうか。自称勇者の偽勇者諸君」
「……いや。その前に行くところがあります」
それからまもなく勇者一行はクアムートの交易所に姿を現す。
ノルディア軍兵士はその一行が魔族であるグワラニーと懇意にしていること、それからその言葉からノルディア人ではなくブリターニャ人だということには気づいていたが、まさかそのひとりがその国の王太子であることまではわからなかった。
「……よく顔を出すな。あいつら」
「ああ」
「まあ、人間が魔族に会いに来るのだ。よからぬことに決まっているのだが、具体的には何しに来ているのだろうな」
「商品を売りに来ていると言っていた。ブリターニャ特産の酒が魔族の国で大人気だそうだから。だが、ノルディアと違いブリターニャは今でも魔族と戦闘中。こういう形でないと交渉できないということなのだろう」
「なるほど」
表面に見えている事実だけを捉えれば完璧な理由でノルディア軍兵士たちは納得するものの、ノルディアと魔族の休戦も公的には臨時的なものであり、交易所が開かれているなどあってはならぬこと。
つまり、そもそも彼らに他者を非難できる資格などないということである。
その三十ドゥア後、ホリーを伴ったグワラニーがやってきたところで魔族と人間の密会が始まる。
アリストが兄妹の楽しい会話を楽しむためにホリーとともに部屋を出ていくと、フィーネは例の話を聞かせる。
むろん、前段はすでに情報を手に入れていたため、その驚きは形ばかりであったのだが、後半の話は想定外のこと。
本物の驚きとなる。
だが、それに続くフィーネの言葉はさらに驚くものだった。
「私があなたがたとともに野盗狩りの手伝いをするということですか?」
「そのとおりです」
ふたり以外にその場にいるのは三人の脳筋剣士、デルフィン、それからコリチーバと彼の部下三人。
そして、その瞬間、七人分の男の声が響く。
「ちょっと待て。フィーネ。手伝いをするということはそいつをフランベーニュの王都に連れていくのか?」
「そんなことをすれば、こいつはすぐに殺される。いや。こいつが殺されるのはまったく構わないが、俺たちもこいつの仲間だと思われるではないか」
「そのとおり。俺は魔族の仲間だと思われるなどまっぴらごめん。絶対に反対だ」
三人の脳筋剣士が反対の言葉を並べる。
もちろんテーブルの反対の男の護衛をする四人の剣士たちの言葉もその意見と同様である。
「あり得ん話だ」
「まったくです。そもそもフランベーニュの前線が困っているのならこちらとしてはこれ幸い。その手助けにグワラニー様が危険を冒さねばならないのか理解できません」
「もしかしたら、適当なことを言ってグワラニー様を誘拐するつもりかもしれません。誘いは断固拒否すべきです」
「私もそう思います」
もちろん彼らが考えているものよりずっと深い結びつきがあるフィーネがそのような暴挙に出ないことをグワラニーは知っている。
だが、そうであっても、さすがにこの提案には乗れない。
「さすがにそこまで危険を冒してまではベルナード氏には会いたくはありませんね。魅力的な話ですが、ご遠慮申し上げ……」
「最後まで聞きなさい。アルディーシャ・グワラニー」
前段の七人の話は聞き流したが、グワラニーの言葉に即座に反応したフィーネはさらに言葉を続ける。
「私には安全にベルナードに会える秘策があります」
「まあ、実際には秘策という程のものでもありませんが」
フィーネはその言葉を前置きにしてその秘策を開陳する。
「まず、私たち四人でアヴィニアに行きます。どのような審査があるかは知りませんが、私たちの実力を見たうえで落とすようであれば、フランベーニュもそこまで。私たち以上の実力者が本当にいたという奇跡が起きないかぎり、ベルナード将軍の選択は餓死か前面崩壊か撤退となるでしょう」
「そういうことで、ほぼ確実に私たちはその護衛役とやらに選ばれることでしょう。もちろんその過程で私がフランベーニュ一の有力貴族の娘と名乗ります」
「すべてのお膳立てができ、契約する過程でこのような条件を提示するのです」
「ここにいない者を数人仲間に加えたい。そして、こちらが選んだ者にについては、たとえそれがどのような者であってもフランベーニュ王国はその者に危害を加えない。その保証が欲しい」
「野盗どもから物資を守ることができるだけの実力者。そこにそのうちのひとりは有力貴族の一族。そうなれば……」
「彼らは絶対拒まない」
「そこまでの手順を踏んだところで改めて誘うということであれば問題ないでしょう。それにご希望ならば隣の娘も同行させてもいいですよ」
「ひとつ伺ってもいいですか?」
フィーネの熱弁が終了すると、グワラニーはそう尋ねる。
「成功する可能性は十分にあります。ですが、そこまでして私にその食料輸送の手伝いをさせようとするのですか?」
「約束した手前、彼らは私に手を出さないかもしれませんが、魔族と関係があるとなれば、あなたとあなたの家には傷がつく。そこまでしてそれをおこなうには当然あなたたちに大きな利が必ずなければなりませんので」
「なるほど」
グワラニーの言葉に笑みをフィーネは笑みを浮かべる。
「理由は今回の私たちにはアリストがいない」
「わかっているとは思いますが。そこにいる三人の頭は考えるという仕事には不向き。もちろん私は彼らよりはまともですが、相手を罠に嵌めるような小細工はアリストほど得意ではありません。ですが、今回の仕事をおこなうにあたり、必ずそのような場面が出てくる。そこで、あなたはアリストの代わりに野盗たちを嵌める罠を考える役をお願いしたいのです」
「もちろん報酬は支払います」
むろん見つかったらただで済まないというような場所での仕事だ。
タダ働きなどする気はないが、今のグワラニーにとって報酬よりも先に手に入れなければならないものがある。
「息を吐くごとに悪事を思いつくアリスト王子の代わりとは随分な評価。感謝しますが、私も多くの者に対して責任を持たねばならない身。やはり、やめておいたほうがいいように思います」
「ですが、その正式な返答について後日ということにしておきましょう。行くだけの利が私にあるかよく考えなければなりませんので」
「それはそれとして、アリスト王子はこの話をご存じか?」
「いいえ」
「では、私からではなく、仲間であるあなたからアリスト王子にするべきものでしょうね。それは。そして、王子が反対した時点はこの話は終了ということにしましょう」
「わかりました。では、待ちましょうか。彼を」
そして、それからまもなく、その男が妹とともに戻ってくる。
むろんフィーネの言葉を聞いたアリストはすばやく損得勘定を始め、すぐにグワラニーにとってそれがプラスよりマイナスが多いという結論に達する。
そうなれば当然……。
「本人の希望があれば私は拒まない、ただし、その後に起こる揉め事には私は関与しない。それはあなた自身も同じ。フィーネ」
これがアリストの答えだった。
……一瞬ですべてを読み切ったか。
グワラニーは唸る。
「とりあえず王太子殿下の許可は出たので、話を進めることにしましょう。条件の提示は次回ということにしますが、それにあたり、次回の交渉時、持参していただきたいものがあります」
そう言ってグワラニーは黒い笑みとともにアリストに視線を向ける。
「それから、もし、私が行くとなった場合は王女殿下も同行させます。もちろんアリスト王子はそれ込みで了承したのでしょうが」
その翌日。
グワラニーは側近のバイアとアリシア、それにデルフィンの祖父であるアンガス・コルペリーアを自室に呼び、昨晩あったフィーネからの提案を告げた。
「……特別行く必要はないだろう」
すべてを聞き終えたところで即座に発言したのは老魔術師だった。
「得るものがまったくないとは言わないが、わざわざ危険を冒す必要もないのも確かだからな」
「私もそう思います。そもそもフィーネ嬢の言うグワラニー様を仲間に引き入れる理由が貧弱です。彼女には隠された別の理由があると思います。それが判明しないのであれば見送るべきでしょう」
ふたりの言葉は正論である。
だが、フィーネの言葉にグワラニーがある違和感を持っていたのは事実。
それを示したのはアリシアだった。
「アリスト王子は自身の側に損となるものがないと判断して承知したのでしょうが、彼が最後に口にしたとおり、グワラニー様を一時的にせよ仲間に引き入れることはフィーネ嬢だけではなく彼女の実家にも疑いの目が向けられること。これは大貴族にとって相当な打撃。彼女自身は軸足をブリターニャにおいているのでいいのかもしれませんが、実家はそうはいかないでしょう。彼女が実家の損害を考慮していなくても、その行動は不自然さが残ります」
「つまり、彼女にとってグワラニー様を仲間に引き入れることは実家の大損害に見合うだけの価値があるということです」
「それが何か。非常に気になります」
「ちなみにアリシアさんはその目的は何だと考えますか?」
グワラニーが口にした問いはその場にいる全員が感じているものであり、当然のように視線はその女性に集まる。
一瞬後、その女性は薄い笑みをとともにこう答える・
「……これはまったくの根拠のないものですが」
「フィーネ嬢は本気でグワラニー様を自身の側に引き込もうとしている」
「または、自身がこちら側に来たいと思っている」
「夫人はなぜそう思うかな?」
老人の問いに、アリシアは少しだけ間を開けてから答える。
「簡単にいえば、他の可能性が思い浮かばなかったからです」
「本来であればグワラニー様を害することが目的という可能性がもっともありそうなことなのですが、彼女に関してはそのようなことを考えていなさそうですし、副魔術師長の同行を許すのであれば、ますますその可能性は低い。というより、ないと言ったほうがいいでしょう」
「そして、バイア様が言ったとおり、フィーネ嬢が理由にした小細工が頼みたいというのは、野盗相手ということであれば彼女自身の能力で十分できるものであろうし、その気になればアリスト王子からも助言がもらえるわけですから考えにくい」
「そうなってくると、もう理由らしい理由はないです。そうなった場合、残っているのは彼女がグワラニー様に恩を売りたいと思っているくらいでしょうか」
「そうなったときに目的はとなれば……」
「仲間にしたい、またはなりたい。ということになるわけですか……」
グワラニーの口から漏れ出したような言葉にアリシアは頷く。
「そういうことであれば、なおさら誘いに乗る必要などないだろう」
老人の言葉にバイアも頷く。
「行くだけの利がこちらに存在するのならともかく、そのようなものが一切ないのであれば申し入れは断るべきでしょう」
「……そうだな」
 




