絡み合う思惑
そして、その日。
陽が沈んでしばらく経ったあの場所に現れたグワラニーたち総勢二千。
……ではなかった。
やってきたのは、なんと五千人を超える大部隊。
当然ながら、この内訳には少々の説明が必要であろう。
もちろん剣を振るって戦闘をおこなう戦士たちがご祝儀的に突如増員されたというわけではなく、二千人のままであった。
そこに魔族の国最高の魔術師であるコルペリーア率いる八百人にも及ぶ大魔術師団が加わる。
だが、それでもやってきた数とは大きな開きがある。
グワラニーが出征する兵士のボーナスよりも多い金貨五枚という、彼らの百日分の日当に相当する報酬を約束して王都周辺からかき集めた鉱山労働者。
彼らがその差を埋める者たちである。
大挙してやってきた味方。
それを見つけた城兵は大歓声を上げたわけだが、当然ながら、彼らがやってきたことはすぐにノルディア側にも伝わる。
「包囲軍の指揮をするタルファ様より連絡。多数の敵が城の東側に現れたそうです」
「フェスト様より上申。ただちに襲撃すべし」
「敵の数は五千以上と思われます」
次々にやってくる伝令の言葉。
だが、指揮官のベーシュは動かなかった。
理由は簡単。
やってきた者たちの目的がはっきりしているからだ。
「……五千と言っても、半数は城への荷物を運ぶ者たちであり、実際に剣を持って戦う者は多くてもその半分。我々の敵ではない」
ベーシュはそう断定した。
「それにビヨン軍は夜戦が苦手。明るくなってから一気に叩いたほうが暗闇の中で乱戦に持ち込まれ小細工に翻弄されるよりも効率的に敵を仕留められる。もちろん、闇に乗じて城に乗り込もうとしたら反撃ができるように兵を準備しておくことは必要だ。タルファにはその旨を伝え警戒を厳にしろと命じろ」
ベーシュのこの判断は概ね間違っていない。
ただし、それはやってきた者たちが本当に搬入を目的とした部隊だったらという条件がつくのだが。
ちなみに、将軍が口にしたビヨン軍こそ魔族側が言う人狼軍のノルディア側における正式名称となる。
「……来ないな。つまり、相手も我々が門の前までやってくるのを待っているということか」
一方の魔族側では少々ガッカリしたようなグワラニーの呟きに似たその言葉に側近の男が皮肉交じりに応える。
「我々の目的が城内に食料を搬入することだと思い込んでいる彼らにとって、逃げるわけではない相手を予定外のことが起きる可能性がある夜間にわざわざ攻撃する意味がないのでしょう。明日、陽が昇ってから堂々と戦いを挑むつもりなのは、転移封じの防御魔法を張るだけで、魔法による攻撃もしてこないことからもあきらかです。もっとも、例の魔術師にも劣らぬデルフィン嬢による完璧な結界によって、やってきても攻撃が届くわけなく、ただひどい目に遭うだけにはなりますから、その判断は正しいといえるわけですし、今日が明日になった程度の短いものではありますが、彼らの寿命が長らえたのですから、すべての者にとってよかったといえるのではないでしょうか」
「そうだな。とにかく、これでせっかく金を払って彼らを連れてきたことが無駄にならなくて済みそうだ」
「まったくです。大仕掛けが盛大に発動するのが楽しみです」
そう言ってから、ふたりは少女が張った強力な結界で安全が確保されている場所でせっせと土を掘り起こしている大集団に視線をやった。




