アマラの戦い Ⅰ
最初に言っておけば、ベルナードが背後を狙う動きを察知すれば転移避けを施して何も起きずに終了するというグワラニーの当初の読みは大きくはずれ、この後に大規模な戦いが起きることになる。
そして、その場所は現在フランベーニュと魔族軍が戦っている場所より二十アケト程南西に行ったアマラ。
その戦いはその地の名を取り「アマラの戦い」と命名される。
戦いが始まる前ではあるが、その場所について説明をしておけば、アマラは御多分に漏れず元々魔族の町があった場所であり、周辺は耕作地帯が広がる。
正確には広がっていたということになるだが。
当然ではあるがその土地を占領したフランベーニュの為政者たちとしてはただちに開拓民を送り込みたい。
だが、ある難題が立ちはだかる。
前線に近い耕作地。
しかも、そこにいるのは平民となれば、軍はそこを食料供給地とする。
もちろん正当な対価が支払われればまだいい。
だが、多くの場合、すべてが強制徴用。
つまり、農民たちからみれば、対価なしでただ奪われるだけということである。
さらに、食料は現地調達が基本であるこの世界では前線に近ければ近いほどその割合が高くなる。
公的には徴収率は生産量の五割であるが、実際七割を超え、八割を超えることも珍しくない。
いくら与えられる土地が広くても自身の手元には二割も残らないような場所に現在の土地を捨ててまで移りする住む者はいない。
たとえ半強制的に土地を手放さなければならなくなっても、与えられる開墾地は、より前線から遠い場所を選ぶ。
奪われるだけの農民としは当然の選択といえるだろう。
その結果が、かつて耕作地だった荒野が広がる現状ということになる。
もともと主要街道からはずれているうえ、唯一の取柄である農産物も手に入れることができない。
アマラは戦闘が終了後しばらく兵の駐屯はあったものの、放棄された後はそれっきりとなっている。
その後は百人程度の部隊が巡回で訪れる以外は、野犬などの動物や、大きな町で一仕事終えた自称冒険者である野盗集団がほとぼりが冷めるまで寝泊まりする場所となっていた。
当然、転移避けはほどこされていない。
隣の村にある監視所で魔力反応は感知できるものの、外部から転移するには打ってつけの場所である。
ちなみにミュランジ城を確保する代償として水運が不可能になってからフランベーニュ軍の兵站の一翼を担っている魔法を使っての前線への補給は、定められた日時に転移避けを解除することによって前線から比較的近い場所に転移できるという仕組みによって成り立っている。
戦場について説明したところで話を戻すことにしよう。
「……今回の相手はフランベーニュ軍。それを率いているのはアルサンス・ベルナード。そして、王からの命令は我が軍の前面に展開するベルナード率いるフランベーニュ軍の殲滅ではなく、背後に転移し、掃討にやってきた敵を粉砕し、フランベーニュ軍の数を減らすというものです」
「さらにその目的が済み次第、ただちに戦線を離脱せよというものです」
「たしかにあまり面白みのあるものではありませんが、現状を考えると敵の数を減らす。これ自体が十分な意味があると思いますので、手を抜かずやり抜きましょう」
「いや。せっかく転移したのなら敵を叩きながら北上すればいいのではないのか?」
「私もそう思う。せっかく敵の内側に入り込むのだ。やるべきだろう。そもそも一番大変な部分をおこなうのだ。我々にはベルナードを討つ権利がある」
グワラニーの概要説明直後、その意見を口にしたのはクレベール・ナチヴィダデとデニウソン・バルサスだった。
直前に転籍したおかげでミュランジ城攻防戦に参加せずに済み、結果生き残った。
これはもちろん大事なことではあるのだが、転籍後、あまり活躍の場がないのも事実。
その彼らにとってこれこそ功を挙げる絶好の機会。
鼻息を荒くするのは当然である。
だが……。
「命令は寄ってきたコバエの駆除。それ以上のものはおこなうなというのが陛下からの命だ」
ふたりの隣に座っていたエンゾ・フェヘイラは諫めるようにそう言ったものの、その物言いは気に入らなかったらしいふたりの武闘派は発言者を睨みつける。
「だが、そうであっても早期の撤収をする必要はない」
「そのとおり。我が軍がそこにいれば背後が不安になりフランベーニュ軍は撤退するかもしれない。そうなったときに攻勢をかければ敵は一気に崩壊ということだってあり得るだろう」
「だが、命令違反は命令違反だ」
「……腰抜けが」
「なんだと」
「……私の説明が少し足りなかったようです」
嘲笑の中おこなわれる三人の口論に割って入ったのはもちろんグワラニーの声だった。
「アリシアさん」
そして、そこでグワラニーが説明役に指名したのは人間の女性だった。
一礼後、女性の口が開く。
「たしかにナチヴィダデ、バルサス両将軍の主張は正しいのですが、私たちはアストラハーニェの蠢動を抑える役も担っているのです。アストラハーニェの動きから彼らは私たちの軍の情報を掴んでいると考えるべき。そうなれば、彼らが戦端を開くのは私たちの軍が戦場に張りついたときでしょう。そういうことで私たちが前線に張りつくのはアストラハーニェとの開戦と同義語。それを避けるためには戦場に滞在できるのはごく短期間。王もそれがわかっているからそのような命令を出したものと思います」
……完璧説明だ。
グワラニーは心の中で呟く。
その言葉どおりはすべてが正しい。
しかも、相手がアリシアとなれば、猛将といえどもさすがに怒号を飛ばすわけにはいかない。
振り上げた拳を下させるには一番なのである。
「将軍たちにはいずれ存分に力を振るう機会が用意しますので、それまで鍛錬を怠らないようお願いしたいものです」
「目的がそのようであれば今回の遠征は長くても数日。戦い方も考慮すれば魔術師団を主に、護衛役の数百の兵という規模でいいように思うが、グワラニー司令官はどうくらいの規模の部隊を編成するつもりでいるのか?」
アルトゥール・ウベラバからのこの問いは真っ当なものである。
だが……。
「もちろん手早く済ませるためにやってきた敵は魔法によって薙ぎ払うつもりでいますし、準備の手間を考えたらそれが一番いいのですが……」
「肝心の敵がやってこなければ、我々はその場に留まり続けなければなりません。ですから、なるべく早く敵に見つけてもらい、さらに、数を減らすという目的のためにより多く集まってもらわねばなりません。なによりも、あまり少ないとこちらの意図を察知され対策を立てられかねません」
「ですから、敵にとって魅力的に見せるために万単位の兵を動員する必要があります」
その後いくつか質疑がおこなわれ、会議は解散となる。
……抜かりないベルナードなら、自身にとっての危険地帯や補給ルート付近は常に転移避けが施されている。
……そして、その他の部分についても当然一級魔術師を配置して監視しているのは間違いない。
……転移場所選定の段階が気づかれる。
……問題はその後だ。
……二匹目のドジョウを狙うのか、君子危うきに近づかずとするのか。
……こちらとしては前者を希望するわけだが、そうはならない。
解散後、次々と参加を名乗り出る将軍たちを笑顔で捌きながらグワラニーは相手となるベルナードの能力を加味しながら想定を始め、心の中でそう呟いていた。
……そもそも前面の敵が強固で容易に突破できない場合、背後に別動隊に送り込むというのは取り立てて珍しい手ではない。
……魔族軍でも最近ミュランジ城攻略戦で使った。
……もちろんそれはこの世界だけに限らない。
……有名なあの上陸戦でも空挺降下をおこなっていたし。
……もちろんこちらは転移魔法での移動になるため、輸送機による移動より遥かに安全、大量の人員と物資が一度に運べる。
……だが、問題もある。
……降下中の兵が狙い撃ちされると同じくらい、いや、それ以上の危険が転移魔法にはある。
……そう。
……転移が完了した直後だ。
……この世界の転移魔法は他の魔法と相性が非常に悪い。
……転移する際に一切の魔法を纏うことができない。
……つまり、転移が完了し、防御魔法をあらためて展開するまでの間は攻撃に対して無防備。
……魔法攻撃を受けた場合はひとたまりもない。
……もし、私が迎撃側であれば必ずここを狙う。
……おそらく相手もおそらく……。ん?
……ちょっと待て。
グワラニーは気づいた。
この転移作戦の真の危険性。
そして、相手がベルナードである場合、それが起こる可能性が高いことを。
……油断するとやられる。しかも、一撃で我が軍は全滅だ。
……そうならぬよう、転移魔法が持つ避けられない弱点をどのような手段でカバーするかが今回の立案時の重要なテーマということか。
……もちろんティールングルの再来を狙ってこちらが転移し終わってから包囲殲滅戦を開始するようであれば、こちらとしてはこれ幸い。
……だが、こうなることを前提に立案するわけにはいかない。
……作戦は最悪の事態になっても勝てることを想定してつくるべきで、最高の状態でのみ勝利を手にするようなものは作戦などとは呼べない。
そこまで言ったところで何かを思い出し、グワラニーは苦笑いする。
……いや。我が祖先たちは常にすべてがこちらの思い通りにことが進んだ条件で図上演習をおこない、勝利できる作戦が出来上がったと豪語していた。
……その結果があれだ。
……まあ、それは偉大なる祖国の伝統らしく私がこちらに来る少し前にも似たようなことは度々あった。
……そして、失敗の都度出される決めセリフ。
……それは想定外。
……想定していなかったこと自体為政者として失格ともいえるが、あれは単なる逃げ口上で、実際は想定していなかったのではなく、責任の範囲を狭めるために想定から外しただけだ。
……想定外とすれば、それによってどれだけの被害が出ようとも責任が問われることもなく許される日本という国はつくづく甘いともいえる。
……戦いにも効率性を求めることは間違っていない。
……だが、それもこれも戦いに勝つという前提があっての話だ。
……勝てなければ意味がない。
……だが、この非効率とは日頃の備えのことなのだが、人はそれをムダというわけだ。
……これは軍に限ったことではない。
……緊急事態に備えるものは、日常では無駄と非難されるものばかり。だが、その批判に晒され続けたものに多くの者が救われるのだ。
そこでグワラニーは大きくため息をつく。
……そして、やってくるのが私だとベルナードが想定した場合、転移避けでお茶を濁すのではなくベルナード自身が狩りの場に姿を現す気がしてきた。
……もちろんその時にベルナードの戦い方はティールングルの再来ではなく、転移直後の一撃を狙った先手必勝の一手。
……こちらとしては転移直後の一撃さえ避けられれば勝てるのだが、果たしてそれが見つかるか?
「お待たせしました」
「考えれば考えるほどこの戦いは奥が深く、相手がアルサンス・ベルナードであることを考えれば、相当分が悪い」
「だが、命令された以上、やらねばならぬ」
自身の考えがまとまったところで、その場に残っていたバイア、ペパス、プライーヤ、そしてタルファ夫妻、アンガス・コルペリーアとデルフィン・コルペリーアの七人とホリー・ブリターニャにグワラニーはその言葉を投げかけた。
「アルサンス・ベルナードは転移の兆候があった場所に転移避けを張って終わりにする。これが当初の私の読みでした」
「ですが、場所が特定できるのはもちろん、やってくるのが『フランベーニュの英雄』を倒した者となれば、気が変わるかもしれないと思い始めました」
「そして、転移先に待っているのがアルサンス・ベルナードであれば、狙ってくるのは転移直後。魔法攻撃一撃で無防備状態の我々を消し炭にしようとするでしょう」
「我々としたら、この転移直後の攻撃をどう防ぐか。まあ、防ぎようがないわけですから、攻撃されないようにするかというほうが正しいわけですが、とにかく、この手立てこそが今回の鍵と言っていいでしょう」
たしかにこれは難問だ。
要点をまとめられている分、その難易度は引き立つ。
グワラニーからやってきたその問いに、ほぼ同じ言葉が全員の頭に流れる。
「まず考えられるのは的を絞らせないということでしょうか」
「つまり、転移できる場所を複数確保するという」
「まあ、私がフランベーニュの将であれば、確実にひとつに絞る。そして、そこで待ち受ける」
「では、転移自体を延ばす。これであれば、後方に有能な魔術師を待機させなければならず、肝心の前線で魔術師が不足することになりますから、十分な貢献ができたといえるでしょう」
「悪くはない。だが、そうであれば絞ったひとつも転移避けを張って終わり。その結果。我々の出番はなしで終わる」
バイアからの提案をグワラニーはあっさりと斬り捨てる。
「……では、最初に相手の立場になって考えてみてはいかがでしょうか?」
次にやってきたのはアリシアの提案だった。
「と言いますと?」
「まず、転移してくる相手を倒す気があるかということになりますが、もし、敵が一か所、多くても数か所だけを残して転移を避けを展開した場合、間違いなく狩りをおこなうということでしょう」
「次に相手が転移してくる部隊を『フランベーニュの英雄』を葬った者たちと想定するかということです」
「相手はベルナード。間違いなくそう読む」
「そうなった場合、相手はどう考えるでしょうか?」
「……『フランベーニュの英雄』を葬った憎き相手を部隊ごと葬り仇を討ったとなれば、その者はあらたなフランベーニュの英雄になることでしょうし、必ずそれを狙ってきます」
グワラニーが問いかけの言葉を投げかけると、アリスアはそう説明した。
「逆にいえば、その部隊の一部を倒しても、肝心の指揮官を取り逃がしたら、その称号は得られない」
「しかも、その指揮官、つまりグワラニー様ですが、彼は非常に用心深い。同じ失敗はおそらくしない」
「つまり、彼に与えられる機会は今回だけ」
「当然逃がしたくない。そうなったとき、彼はどう考えるか?」
「それを考えたときに、こちらの対応策が浮かぶのではないでしょうか?」
そこまで話したところで、アリシアは言葉を切り、意図的に一瞬の間を開けてその場にいる全員の顔を見回した後にゆっくりと口を開き続きを語り始める。
「もし私がフランベーニュの将であれば敵の全軍が転移したと思われる段階まで攻撃をおこないません」
「たとえば、数度に分けられたグループの最初段階で攻撃してしまったら残りは転移してきません。もちろん最初に転移した集団は全滅するでしょうが、その代償として残りは転移はしてこない。目標の人物が後続のグループにいた場合、部隊に傷はつけても肝心の人物を取り逃がすことになりますから」
「こちらとしては相手の心理を逆手に取るということは可能ではないでしょうか」
……これはすごい。
そう心の中で呟いたのはホリー・ブリターニャだった。
……もうひとりの少女は有能な魔術師だからまだ理解もできる。
……ですが、あのアリシア・タルファに関して料理は上手だし気配りもできるが、それだけの理由でこの場にいるのは不思議だった。
……ですが、今はその理由がわかりました。
……凄まじい洞察力。
……アルディーシャ・グワラニーが気づいていなかったのかどうかまではわかりませんが、少なくても将軍たちの表情から彼らにはその発想はなかった。
……もちろん私も。
……噂によれば、アルディーシャ・グワラニーは彼女をとんでもない金額と引き換えに手に入れたそうですが、これなら納得できる。
自分とアリシアとの差を愕然とするホリーを含む多くの者がアリシアの言葉に驚きの表情を見せる中、少なくても表情にはそれが現れなかったグワラニーは小さく頷いた後に口を開く。
「……相手が目の前に現れたら即叩くという律儀な者であった場合にはその策は使えないのですが……」
「相手が本当に私を狙い撃ちにするつもりで待っているのなら、対応は非常に簡単です」
「斥候または先鋒に見せかけた少数の第一陣に最強の魔術師を紛れ込ませ、相手を発見したところで叩く。相手はこの後にやってくる主力をぼんやりと待っているのだから当然先手はこちら。つまり勝利は確実」
「決まりですね」
「ただし、最初に言ったように相手が律儀で勤勉な者であった場合、転移直後に攻撃をうける可能性はあります」
「もちろんそうならない手立ては考えますが」
「さて、注意点を述べたところで、詳細に入ります。魔法による先制攻撃をおこなう以上副魔術師はこの第一陣に参加してもらいます。まあ、さすがにひとりというわけにはいかないので当然私も行くことになります。まあ、ふたりであれば、相手も油断して攻撃することは……」
「待ってください」
アリシアだった。
「この策を提示したのは私です。当然私は義務として参加しなければなりません」
「そういうことであれば、夫である私も行かねばならないだろう。妻ばかりにいい思いをさせるわけにはいかないから」
「だが、もしもの時は将軍の子は両親を失うことになりますがいいのですか?」
「その時はその時。私はすでに死んでいてもおかしくない身。妻も子もグワラニー殿に拾ってもらわねばとっくに飢え死にしていた。子供たちが助かるだけでも十分過ぎる」
「そういうことです」
「なるほど。そういうことなら、私も参加する権利がある」
グワラニーを黙らせたタルファ夫妻に続いたのはペパス。
「私は勇者の剣に斬られている身をグワラニー殿と魔術師長に救ってもらった。あれから随分といい思いをさせてもらった。もちろん覚悟はできている」
「困りました」
グワラニーは苦笑いで応じるしかなかった。
「……どんなことをしてでも生き残るというのが私の部隊の標語のはず。それなのになんでこうも我が部隊には危ないところに行きたいと申し出る方が揃っているのでしょうね。そうならないように何度も念を押しましたのが無駄になったではありませんか」
「まあ、それは指揮官の教えがよいからでしょう」
「そのとおり」
「まちがいないな。それは」
「連絡のためにあと数人は魔術師の参加は必要であろうが、私は危ない場所に進んで飛び込む酔狂の心は持ち合わせていない。その宴への参加は遠慮する」
老人はその場に漂う熱狂的な空気を冷ますように言葉を差し込む。
だが、そこで言葉が終わらないのだから、この男も相当この部隊が持つ毒に冒されたということになるのだろう。
そして、それを示す言葉がこれである。
「まあ、そうは言っても、この者たちも死ぬ気などないのだが」
「というと?」
グワラニーの問いに答えるため老人はつまらなそうにもう一度口を開く。
「グワラニー殿は言っただろう。策を講じると」
「つまり、待っているのはこちらの勝利。お涙頂戴的なことを言っているがその気など爪の先ほどもないということだ。もっとも……」
「グワラニー殿も同じだろうが」
そして、翌日に発表された今回の陣容はこうなる。
第一陣。
司令官アルディーシャ・グワラニー。
魔術師長デルフィン・コルペリーア、副魔術師長アパリシード・ノウト。
同行する魔術師五名。
護衛隊アンブロージョ・ペパス、アーネスト・タルファ、アイマール・コリチーバ。
幕僚アリシア・タルファ。
「王女殿下も私に同行していただきます」
グワラニーからやってきたこの言葉によって先陣を務める第一陣にホリー・ブリターニャも加わる。
合計十三名。
なお、最初の予定ではコリチーバはメンバーに入っていなかったのだが、「自分は司令官の護衛隊長である。その護衛隊長がはずれるなどこの世界がひっくり返ってもあり得ぬこと」と強引にねじ込み先陣の名誉を勝ち取った。
第二陣。
司令官アゴスティーノ・プライーヤ。
副司令官アビリオ・ウビラタン、エルメジリオ・バロチナ、クレベール・ナチヴィダデ、デニウソン・バルサス。
兵一万五千。
魔術師長アンガス・コルペリーア、副魔術師長アウグスト・ベメンテウ。
魔術師二千。
その他に治癒担当の魔術師百名。
戦闘工兵指揮官ベル・ジュルエナ。
戦闘工兵千名。
合計約一万八千。
第三陣。
司令官アントゥール・バイア。
魔術師長フロレンシオ・センティネラ。
魔術師千五百。
治癒担当の魔術師二百。
エンゾ・フェヘイラ率いる三千の兵。
「……第二陣にそれだけの数は必要なのか?」
「形式的なものだろう。と言いたいところだが……」
「第三陣にバイア殿もいる。しかも、フェヘイラと三千の兵を待機させるうえ、幹部魔術師のひとりフロレンシオ・センティネラまで置いている」
「どう見てもやって来た敵を軽く叩くだけではないだろう」
「ああ。やる気だな。下手をしたら背後からベルナード軍を食いつぶすかもしれない」
「ということは、第二陣だからと気を抜かず相応の準備をしろとハッパをかけねばならないな」
発表された陣容を見たペパスとプライーヤのその会話は多くの者の言葉を代表するものだった。