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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十六章 交差するふたつの道
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それぞれの思惑 

 様々なことが当初の予定と大きく変わり、結果として、同じときに同じ場所からやってきた三人が一堂に会する機会となったナニカクジャラの被災者救援。

 だが、そのうちのふたりについては、ある程度の目的は果たせ満足いく結果となったが、残るひとりについてはただ物資を接収されるだけの結果となった。

 もっとも、それが本来の目的であり、さらにいえば、グワラニーに対する義理を果たしただけではなく顔つなぎができたことや、グワラニーとアリストが意外に友好関係にあったことをその目に焼き付けることができたのだから、チェルトーザとしても成果がゼロではなかったといえるだろう。


「マジャーラ軍の再攻撃が始まらないうちに戻る。こちらが運搬してきた物資についてグワラニー殿とアリスト王子に任せる」


 そう言い残すと、あっという間に姿を消す。

 続いて、この場を去るのは勇者一行となる。


「……次回会うのは戦場ということになりそうだな」


 アリストの言葉に特別な根拠はない。

 だが、それとともにハズレのないことでもあることも事実。


 なぜなら、両者は敵同士。

 すでに二回目であるため説得力に欠けるものの、本来このような形顔を合わせるのはありえないことなのであり、戦場で顔を合わせることが本来の姿なのだ。

 しかも、マジャーラの報復はあるかもしれないが、南部一帯はほぼ休戦状態に入り、この方面におけるグワラニーの仕事はほぼ終えたといえる。

 そうなれば、これだけの戦力を保有する部隊を遊ばせておく余裕などない魔族軍は戦闘がおこなわれている西部戦線にグワラニーの部隊を投入するのは必定。


 一方勇者チームも魔族と人間諸国が結んだ休戦協定をぶち壊し再びの戦闘が始まる引き金を引くわけにはいかない以上、休戦地域で揉め事を起こすわけにはいかない。

 そうなれば魔族との戦闘をおこなう場所は非常に狭い範囲に限られてくる。

 すなわち、そこは魔族側のいう西部戦線。


 遭遇戦はもちろん、グワラニー軍が勇者一行を待ち受けるという展開も十分にありえる。


 アリストの短い言葉の裏側に隠された意味を読み切ったグワラニーはまず頷き、それから言葉を口にする。


「こちらは所詮使われる身。命令すればどこにでも行かねばなりません。そして、我が国の王は部下に楽をさせることしない。マジャーラの一件が片付いたら勇者討伐を命令するかもしれません」


「そして、その時は王の期待に背かぬ結果を出さなければなりません」

「当然だな。だが、こちらはそれに答える義理はない」


「せいぜい頑張ることだ」


 そして、直後に消える。


「宣戦布告ですか」

「というか、面倒な仕事をこちらに押し付けて逃げた」


 勇者一行と入れ替わりにやってきたバイアの言葉にグワラニーは苦笑いで応じる。

 そして、その直後、表情をまったく違うものに変える。


「まあ、どこかでぶつかるのは確実だが、我々にはまずやらねばならない仕事がある」


「まずそれを片付けることにしようか」

「そうですね」


 グワラニーが言いバイアが同意した、やらねばならないというその仕事。


 それはもちろんナニカクジャラの住民の移送である。

 すでに概ねの説明をしており住民たちは納得しているものの、本来であればその前にさまざまな取り決めをおこなうところであるが、マジャーラ軍の再度の襲撃があるのがわかっている。

 だから、まずは安全な場所への移送をおこない、その後後回しにした事務的な手続きをおこなうことにするとグワラニーは宣言する。

 これはプロエルメルのときを見ればわかるとおり、まずルールをつくり、相手が納得したところで動き出すグワラニーとしては異例のことである。


 自軍の力を考えればマジャーラ軍がどれだけやってこようが撃退はできるのでマジャーラ軍を撃退しながら契約まで済ませるということも可能である。

 だが、そうなればマジャーラ軍の損害が増える。

 本来であれば喜ばしいことではあるのだが、今回ここに戦いに来たわけではないのだから、そのような事態は避けたい。


 それが幹部たちに対して説明をしたグワラニーの言葉であった。

 もちろんグワラニーの思想は完全に染みわたっているため、それに異義を唱える者などおらず、そのの言葉は速やかに実行に移される。


 そうして、そこにあった建物ごと消えた彼らの最終的な目的地。

 それはプロエルメル近郊。


 フランベーニュ人のものに続いてマジャーラ人のコミュニティが誕生したのである。


 先住者が突然やってきた者に対して反感を持つ。

 そこから始まる血みどろの抗争。


 これは世の中のどこにでも起こることであり、ある場所の紛争の歴史を知っていたグワラニーが危惧していたことであった。

 そして、もちろんそれは起こる。

 ただし、それはグワラニーの予想より穏便なものであり、さらにそれほど時間を置くことなく打ち解け、微妙なブリターニャ語による会話から交流が始まる。


 もちろん魔族の力による仲介のあったのだが、より大きかったのは双方の利益の合致だった。

 フランベーニュ側は農地拡大をするための労働力が欲しい。

 マジャーラ側は農業先進国のフランベーニュのノウハウが手に入るうえに、手っ取り早く現金を手に入る。


 目の前の利。

 それが多少のわだかまりなど踏み倒す原動力だった。

 そして、一旦軌道に乗れば、同じ立場の者同士、ことはうまく回り出す。


「杞憂でしたね」

「ああ。だが、数日でケリがつくとは思わなかった、これで安心して王都に行ける」


 ブリターニャ語に代わり二か国と笑いが飛び交う農地を眺めながら、隣に立つバイアの言葉に応じながらグワラニーは思うのはもちろんあの場所についてだ。


 ……生活環境も考え方も違う者たちが隣にやってきてもすぐに打ち解け合う光景を彼らにも見せてやりたい。

 ……本来はこうなるものなのだと。

 ……ほぼ同じことが起こっているのにここで成功し、向こうでは失敗した。


 そして、グワラニーは気づく。


 ……今さらどうしようもないことだが、やはり、その始まりが悪かったのだ。

 ……奪う者と奪われる者がいる以上、その火種をつくった者が責任を持って関りを持つ。

 ……当事者だけに任せれば当然力関係だけケリがつく。

 ……そこから始まる負の連鎖。

 ……それに対しその失敗を知っていた私は慎重にことを進めた。

 ……それがこの結果。

 ……ということは、加害者に見える彼らも犠牲者ということか。


 ……とりあえずここであれが再現されなかったことは本当によかった。


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