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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十五章 重なり合う光たち
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勇者対海賊 

 実を言えば、ファーブたち三人は街中に溢れる海賊たちを見ながらこんなことも言っていた。


「どこの海軍も海賊たちには分が悪いらしい」

「まあ、あの腕の太さを見れば、人狼以上と言われても納得する」

「ということは、海賊と魔族は同程度?」

「かもしれない。だが……」


「海賊の中でも大海賊と呼ばれる集団は海賊の中でも特別強いらしい。そして、その長になるとその力は桁違いになるということだ」

「一度手合わせしたいな」

「ああ」


 もちろんこの時点でそれが実現するとは三人はまったく思っていなかった。


 その理由。

 この町、というよりこの国では私闘禁止になっていたからだ。


 この国は海賊を含む多く国の者が出入りしている。

 そして、ここに来る者の大部分は大金のかかった商売が目的。

 それくらいの規則をつくらなければ、値引き交渉の最中に殺し合いが始まるなど日常茶飯事になりかねない。

 そうなれば、力と恫喝が交渉のすべてとなってしまう。

 駆け引きこそが至高と考える商人としてそれは最悪の事態。

 そうならぬようこの国ではこのような基本ルールが存在する。


 私闘をおこなった者は共に全財産没収したうえ追放し、今後この国では取引はできない。

 この国の者の暗殺、誘拐及び、それに類する行為をおこなった場合は、結果の如何に関わらず、それをおこなった者とそれを指示した者は公開処刑。


 非暴力の極みのような規則であるが、それだけでは社会は成り立たないことはこの条文を書き上げたこの国の先人たちも十分承知していた。

 このような一文もある。


 ただし、自身の財産及び生命を脅かす者に対して武力を行使することは認める。


 もちろんこれは骨子であり、これに「私闘及びそれに類するものであっても、素手によるものはこの限りではない」など様々な枝葉がつくのだが、たいした抑止力があるわけでもないにもかかわらず、この私闘禁止令が十分に効果を発揮し、また海賊をはじめとして暴力を旨とする者たちが闊歩しているにもかかわらず治安が良いのは、大海賊という後ろ盾があるからともいえるだろう。


 さて、本題からだいぶ離れたが、この国に滞在するときの注意事項について到着前にアリストから何度も聞かされていたこともあり、ファーブたちも海賊たちとひと勝負したいという希望と現実が違うことは理解していた。


 だから、到着したその夜に望みが叶うなど考えもしていなかったというのは本当のことだといいだろう。


 そして、偶然やってきた海賊たちとの諍いはこのような形で始まる。


 セリフォスカストリツァには本物の金持ちから、将来は金持ちになる予定だが現在はその対極にある若者まで多種多様な者が集まる。

 当然その客に見合う店も数多く存在する。

 それは酒場でも同じこと。

 現在フィーネが自慢のフォルムを存分に活かし、鼻の下を伸ばした成金たちに高い酒を奢らせ中の「カデンツァ」のような高級酒場から、質より量を重視する荷物運搬を生業とする者たちが通う安酒を提供する店まで数多く点在する。

 そして、ファーブたち三人がアリストとともに出かけた「フティノ・バル」も後者に属する店のひとつだった。


 アリストとしてはせっかく身分を明かしたのだから、この国の美女と高い酒を飲みたかったところだったのだが、海賊をはじめとして喧嘩相手が山ほどいるような場所にファーブたち脳筋三人衆だけで放牧してしまっては面倒なことが起きることは目に見えているため、渋々付き合うことにしたのだった。

 もちろん三人はアリストの同行を喜ぶ。

 なにしろチームのサイフであるアリストが来れば支払いを心配せずに好きなだけ酒が飲めるのだから。


「アリストが来るならもっと高い酒が出るところにすればよかった」

「何を言っているのですが、当然ワリカンですよ」

「こんなところでフィーネの造語を持ちだすな。というか、ケチなことを言うな。ここはすべてアリストの支払いだろう」

「断固拒否です」


 そういうことでとりあえず楽しく酒を飲んでいるところに五人組の男たちがやってくる。


「……海賊だな。どう見ても」

「ああ。できれば揉め事を起こしてもらいたい。そうすれば公然と奴らを袋叩きにできる」

「悪くない。いっそのこと、激発するように煽るか」

「いいえ。全部だめです。それから揉め事が始まったらどさくさに紛れてすぐに退散します。そうすれば、飲み代を払わずに済みますから」

「飲み逃げするということか?」

「まあ、そういう言い方もできますね」

「本当に最低な男だな。アリストは」


 微妙な内容も含まれていたものの、とりあえず関わりにならずに済ませるというのがアリストの方針であったのだが、それを許さない事態がその直後起こる。


「おい。そこの若いの。たくましい腕をしているが、どこの船に乗っているのだ?」


 海賊のひとりがファーブに声をかけてきたのだ。

 その瞬間、ファーブはアリストを見る。

 もちろん彼の答えはノーである。

 その視線にやむを得ないという表情で頷き、酒をもう一杯飲んでからアルコール臭漂う口を開く。


「船になど乗っていない」


 もちろんそれはファーブとしては十分に穏便なものであり、アリストからは及第点を貰ったものだったのだが、どうやらその相手にはいたく不評だったようで、返ってきたのは嘲笑の嵐だった。


「船に乗っていない?」


「ということは、こいつは山賊か」

「いや。よく見れば、子供だ。酒など飲まずに家に帰って牛乳でも飲んでいろ」

「いや。母ちゃんのおっぱいがお似合いだ」


 そして……。


「小僧。いいことを教えてやる」


「強い男は俺たちのように船に乗るものだ。つまり、船に乗っていない奴は一人前の男ではない」

「おいおい、やめておけ。小便漏らしの小僧ごときに自慢しても何にもならんぞ」

「まったくだ。こんな腰ぬけの小便漏らしの小僧には何を言っても始まらぬ」

「せっかくだ。小僧。お得意の小便漏らしの芸を披露しろ」


「……おもしろい」


「アリスト。悪いが、ここまで言われて黙っているわけにはいかない」


 ファーブはアリストに向かってそう言うと、相手の男を睨む。

 アリストはやれやれと言わんばかりの顔で小さく「お手軟かに」と呟く。

 つまり、承知。

 ファーブは勢いよく立ち上がる。


「表に出ろ。クソ海賊」


「安心しろ。死なない程度で勘弁してやる。それでも怖くて出られないというのなら、全裸になって泣いて詫びろ。それで先ほどの無礼は許してやる」


 もちろん相手も漢を売る稼業。

 ここまで言われて黙っては引き下がれない。


「おもしろい。自分の力もわからん小便漏らしのガキに躾をしてやるのも俺たち強い男の義務だ」


「せっかくだ。そっちの三人にも特別に躾をしてやる。外に出ろ」


 そう言ってファーブの連れの三人を指さす。

 もうこうなれば止まらない。

 ファーブ以上の脳筋のブランは勢いよく立ち上がると、海賊たちからやってきた売り言葉に盛大に熨斗をつけて投げ返す。


「いいだろう。貴様たちポンコツ海賊どもなど一瞬で叩きのめし、二度と船に乗れないようにしてやる」


 もちろん兄剣士も続く。


「そうだな。自分たちが人間のクズというだけでなく海賊としてもポンコツだということをこの町の者たちに教え、今後こいつらがここを歩けないようにしてやるのも悪くない」

「言ってくれるな。クソガキ」

「よし決まりだ」


 八人の男が外に出ていく中、アリストはひとり残る。


「……仲裁に入る者が必要でしょう」


「本来であれば、こういうのはフィーネの役目なのですが、彼女がいない以上、私がやるしかありませんね」


 独り言のようにそう言ってから、アリストはおいしいとはいえない葡萄酒をもうひとくち含んだ。


 さて、こうして始まった五対三の殴り合いだが……。


 お互いに一瞬でケリがつくと思ったそれであったが、その両方の予想が外れる。

 もちろん海賊たちはただのガキだと思った相手がこの世界に名を轟かせる勇者とその仲間だったのだから当然なのだが、一方のファーブたちも一撃で仕留められると思った相手が簡単に倒れないことに驚く。

 さらに悪いことに周辺の店には彼らの同僚たちがたむろしており、形勢不利の仲間を助けるために参戦し始める。

 結局十八対三という戦いとなり、どうにか全員を倒したものの、三人もそれなりにいいパンチを貰い顔が腫れる。


「こいつらがどの程度の海賊かは知らないが、結構強いな」

「ああ。俺がこれだけのものを貰ったのは、ファーブが俺のイモを盗み食いしたことから始まったあの喧嘩以来だ」

「おい。チョット待て。ブラン。あれはおまえが俺の肉を食ったことから始まったのだ。こういう場面で嘘はやめろ」

「そっちこそ。事実を捻じ曲げるな」


 勝利の余韻に浸りながら、尚も恥ずかしい会話を続けていたファーブとブランのふたりだったが、やがて、その表情が一変する。


 そう。

 その恥ずかしい会話に加わることがなかったもうひとりの脳筋マロを含めた三人は感じ取ったのだ。

 今までとはまったく違う殺気と禍々しさの塊が近づいてきたことを。


「……これは休戦したほうがよさそうだな」

「ああ。これは相当の大物だ」


 そして、まもなくドレスを纏った人間が姿を現わす。


「情けなわね。素人にやられるなんて」


 路上に蹲り、呻いている男たちを冷たい視線を眺め終わると、その相手である三人の若者に目をやる。


「ですが、私の部下十八人を殴り倒したのは事実。お返しはさせてもらいます」


 その禍々しいオーラの持ち主はそう言うと、腰から剣を抜く。


「ユラ様。ここでは剣はまずいです」


 遠慮気味に注意喚起する後ろに控える男の声にその人物は冷たい声で答える。


「もちろんわかっています。だから、縛り上げて海に連れ出してから殺す。これなら問題ないでしょう」


「ということで、その三人を捕まえ縛り上げなさい」


 声の主がそう命じるとファーブたち三人を沸いて出てきたような新たな海賊の大集団が取り囲んだ。


「……八大海賊。しかも、その中で最も好戦的な『麗しき大海賊』ユラ。なんて大物を引っ張り出してきたのでしょうね。ファーブたちは」


 その女性をチラリと眺め、アリストは苦笑する。

 そして、今回ばかりは国境で身分を明らかにしていたことに感謝する。


 ……ただの喧嘩なら見過ごすでしょうが、さすがにこうなったら黙っているわけにはいかないでしょう。アグリニオンの見張りたちも。

 ……ですが、少なくてもファーブたちは私の従者という立場。替えが利くと思われては面倒になります。

 ……ファーブたちが剣を抜く前に私が出ていくしかありませんね。

 ……彼らを引っ張り込むために。


 そう呟き終わると、アリストはブリターニャ金貨を一枚テーブルに置くと立ち上がる。

 そして、優雅な足取りで三人を取り囲む海賊の輪に近づく。


「あなたがたは私の従者に対して何をしているのですか?」


 目の前にいるドレス姿の女海賊に気づかぬふりをしながらそう言葉を掛けると、すぐさま女性の声が返ってくる。


「おまえがこいつらの主か?」

「そうなります」

「ほう」


 すでに剣を抜いて立つその女性ジェセリア・ユラはその男を品定めするように眺め直す。


 貴族。

 だが、この男が肩書だけが取り柄の貴族とは訳が違うのはすぐにわかる。

 この状況でわざわざやってくる胆力は相当修羅場を経験していると見た。


 そして……。

 貴族がわざわざこの場に姿を現わすとはこの三人はただの従者ではない。


 ……おもしろい。


 獲物を狙う狼のような表情から黒い笑みが零れだしたユラの口を開く。


「私はこの世界の海を支配する八人の大海賊のひとりジェセリア・ユラ」


 そう言ったところで、女海賊はもう一度目の間に立つ男を眺める。


「さて、私が名乗ったのです。そちらも名乗るべきでしょう」


「では……」


「初めてお目にかかる。『麗しき大海賊』ジェセリア・ユラ。私はブリターニャ王国の王子のひとりアリスト・ブリターニャです」


「……アリスト・ブリターニャ?」

「つまり、ブリターニャ王国の第一王子ということですか」

 

 男の言葉にユラは黒い笑みを浮かべ、心の中でそう呟く。


「随分と大きく出たものですね」


「……ですが、残念でした。海を縄張りにしている私でもアリスト・ブリターニャの噂は知っている。無知、無能で女好き。顔はいいらしいが、見栄えと肩書が良いのが唯一の救いという男」


「つまり、顔を除けばおまえとは正反対」


 ……まあ、ブリターニャの第一王子ではなくても、この男はそれを補って余りあるものがある。

 ……遊びがいがある……。


 そこまで思考を進めたところで、ユラは気づく。

 その男が丸腰であることを。


 貴族とはいえ、このような場面で帯剣をせずに出てくるのはあまりにも不自然。

 もちろんポンコツ貴族であればありえるだろうが、これだけ修羅場を潜ってきたと思われる男がそのような軽はずみな行動に出るはずがない。


 ……となれば、考えられることはひとつ。


「おまえは魔術師か?」


 一瞬でそれを言い当てられたアリストは驚く。


 心の中でそう感嘆の声を上げる。


「なぜそう思うのですか?」

「海賊たちの前に現れるのに帯剣していないのが何よりも証拠」

「なるほど。そういう考えもありますね。ですが、先ほども言ったとおり、私はブリターニャ王国の王子。しかも、今回は戦いに来たわけでないのですから、そのような無粋なものは持たなくてもおかしくはないと思いますが」

「まあ、おまえが本当にアリスト・ブリターニャであればその話にも納得できる。だが……」


「両者とも……そこまで……そこまでにしてもらいましょうか」


 ユラの言葉を遮るように割り込む声。

 大急ぎでやってきたことを示すように途切れ途切れのその声の主は女性。


「カラブリタ嬢」


 声を上げたのはユラ。

 そして、小さな声で「あれがこの国の当主か」と呟いたのはアリスト。


 そう。

 仲裁に現れたのはこの国のかじ取りをおこなう三十六人の評議員の頂点に立つ少女アドニア・カラブリタだった。


「安心しなさい。こいつらを始末するのは海の上。あなたとあなたの国には迷惑はかけない」


 ユラはアドニアとアリストを交互に眺めながらそう言った。


「それなら問題ないでしょう」

「いいえ」


「この国を運営するという立場にある者として、堂々と誘拐すると宣言されて問題ありませんとは言えませんね。残念ながら」

「ですが、この男の従者たちは私の部下を十八人も倒したのです。そのような無礼を笑って許すわけにはいきません」

「そうは言いますが、所詮酔っ払い同士の喧嘩。しかも、お互いに剣を使っていないのです。さらに言えば、挑発したのはユラ様の部下たちとのこと。喧嘩を売って負けた腹いせに主人ともども斬殺するというのは、海賊らしい立派なおこないとは言えますが、大海賊のひとりとしては少々短慮に思えます」

「言ってくれますね。ですが、私の部下が挑発したと今来たばかりのあなたがわかるのですか?」

「もちろん見ていたからです。私の部下が」

「なぜ……」


 そこまで言ったところでユラは気づく。

 喧嘩の仲裁にこの国のトップが飛んでくることはない。

 さらにいえば、一方が関係の深い大海賊の関係者にもかかわらずアドニアが相手にここまで肩入れするのはどう考えてもおかしい。


 そして、部下が見ていたという事実。


 ……ということは……。


「この男は本物のアリスト・ブリターニャなのですか?」

「そうなります」


 あっさりとやってきた肯定の言葉にユラの表情が変わる。


 もちろんこの男がアリスト・ブリターニャであることも驚きだが、そのアリスト・ブリターニャは噂とはまったく違う者であったということが彼女にとってより大きな驚きだった。


 ……以前コパンに聞いた話では、ブリターニャには魔術師は王になれないというつまらぬ定めがあったはず。

 ……そういうことであれば、第一王子であるこの者が王太子に叙せられることもなく放浪の旅に出ているのは理解できます。


 だが、アリストの評価と自らの部下を袋叩きにされたこととは別。

 拳を振り上げてしまった以上、それを下すにはそれなりの理由が必要なのだ。

 そうは言っても、公的な証人がいる中で喧嘩を売った挙句、叩きのめされた醜態の責任を相手に求めるのはさすがに難しい。


 悔しいが、ここは引くしかない。


 この辺が大物と小物の差。

 衆目のある中で自らに非があることを認めるのは簡単なことではない。

 特に力をすべての源にしているような者にとっては。

 それをあっさりとやってのけるのだから、やはり大海賊は大海賊といえるだろう。


 自身の中でケリをつけたユラはもう一度アリストの従者を眺める。


 ……それにしても、強いですね。この三人は……。


 ……王位に就けない者とはいえ、アリスト・ブリターニャは第一王子には間違いない。そのような者の護衛をわずか三人でおこなうのだからそれなりの者であるのは当たり前ではありますが……。

 ……私の部下十八人、そのうちにふたりは各船の指揮官を務める者。それを三人で倒してしまうという腕なら、十分に海賊稼業もやれる。

 ……いっそのこと、アリスト・ブリターニャも含めて……。


「アリスト王子。噂によればあなたは王位継承権を与えられる予定がないとのこと。そういうことであれば、いっそのこと、陸上での生活に見切りをつけて私たちと同じく自由の海を謳歌してはどうですか?」


 そう。

 これはいわゆるリクルート。

 まあ、一国の王子を海賊業に誘い込むなど前代未聞のことではあるのだが。

 彼女の言葉は続く。


「私の部下十八人を僅か三人で叩きのめした事実。実際の剣技は見ていませんが、それだけの腕力であればそれがどれほどのものかは想像できます。さらに、あなた自身の才も海の覇者になるだけの資質はある。さらに、その隠れた才も捨てがたい」


「もし、望むのであれば、私の船を乗員とともに一隻譲ってもよいが」


 つまり、冗談ではなく本気。


 本物のブリターニャ王国の第一王子アリスト・ブリターニャに対して、海賊になるよう勧めたジェセリア・ユラによるこの時の言葉は多くの者によって記録されている。

 そして、もし、このときアリストがこの申し出を受けていたら、その後の歴史は大きく変わっていたことだろう。

 なにしろ、アリストの従者と思われた三人はこの世界で最強の戦士とされる勇者とその仲間で、アリスト本人については硬軟取り揃えたその智謀だけでも世界に君臨できるだけのものがあるうえ、デルフィン・コルペリーア、フィーネ・デ・フィラリオとともにこの世界最強の魔術師。

 そんな者たちが船に乗り込み、真面目に海賊稼業を始めたら海上の勢力図がどうなるかは火を見るよりあきらか。

 それこそユラを含む八大海賊でさえそう時間を置かずに駆逐され、あたらしい海の王者が誕生したのは疑いようもない。


 さらに、彼らが消えた陸上でも唯一の不安材料が自主的に戦場を退去したとわかれば、グワラニーは己の目的を心置きなく進め、その結果、魔族軍はフランベーニュ、ブリターニャを瞬く間に屈服させたうえ、アストラハーニェを含むすべての国と休戦協定を結び、豊富な天然資源と農産物を武器に経済に軸足を置いたあたらしい秩序のもと、魔族の支配が始まっていたはずだ。


 そして、そうなれば、陸海それぞれを統一した王による覇権争いという、別の形での頂上決戦があったかもしれない。


 だが、実際にはそうはならなかった。


「悪くない話ですね。そこの三人も乗り気のようですし」


「ですが、もうひとりの仲間とも相談しなければなりませんから、返事は明日にさせてもらうことにしましょうか」


 アリストはそう言って返答を保留した。


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