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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十五章 重なり合う光たち
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発動する罠

「承知しました。現在のところグワラニーの軍はフランベーニュ側で戦っていますが、いずれブリターニャの前にも現れるでしょうからその時に役立つよう持っている情報をお伝えしましょう」


 もちろんそれは多くの代償と引き換えに手に入れたフランベーニュにとっての重要情報。

 そして、ここでこの情報を開示しなければ、ブリターニャがグワラニーと対峙したときにロバウとボナールが通った道を歩むのは確実。

 そうなれば、ブリターニャは多くの将兵を失い戦力は大幅に低下し、将来的にはフランベーニュの利となる。


 そのすべてを理解したうえでロバウがそれを開示しようと思った理由。

 それは……。


 あれはとても戦いと呼べるものではない。

 たとえ将来の敵国のものであっても出会ってはならないものなのだ。

 それどころか、フランベーニュに続きブリターニャも取り返しのつかない損害を受けることになれば、戦況が逆転しかねない。


 心の中でロバウはその理由を呟くと語り始める。


「我々が知っている魔術師は二名。老人と少女。そして、そのうち、より強力な魔法を使うのは少女の方」


「ただし……」


「奴はこれ以外にも多数の優秀な魔術師を抱えています」


「あの戦いでも当初我々はその少女の存在には気づきませんでした。老人と、老人よりも格下のもうひとりの魔術師によって防御魔法が展開されていましたが、それでも十分強力なものでした」


「ですが、そこにそれまで魔力を消していた第三の魔術師が現れた。そして、先ほど話した惨劇が始まったのです」

「ということは、その強力な魔法を展開し多くのフランベーニュ人を灰にしたのはその少女ということですか……」

「はい」


「と言いたいところなのですが、私自身はこれについては疑問を持っています」


 ロバウの言葉に淀みがない。

 そして、ここまでの話だけ聞けば疑問の余地などない。

 それにもかかわらず疑問を持つのか?


 何か言いたそうなアリストを眺めロバウは薄く笑う。


「きっかけはグワラニーの短い言葉だった」


「奴はクペル城明け渡し交渉中に少女が持つ巨大な力に言及した私の言葉にグワラニーはこう言ったのです」


「そう見えたのか?それならよかった」


「その直後に余計なことを言ったというような表情を見せたような気がした」


「そして、それを確かめるために、私は今回の交渉の際に有能な魔術師に頼み、調べさせました」

「その結果は?」

「老魔術師もこの世界有数の魔力の持ち主。そして、少女はそれよりも相当上にいく魔術師で間違いない。ですが、誰かはわからないもうひとり、その少女のさらに上を行く者がグワラニーの軍にいる。それが彼の見立てです。そして、ここが重要なことなのですが……」


「我々の目に届かぬところで魔法を使っていたその者が魔力を消し去った直後、グワラニーが姿を現わした」


「ということで、私の結論としては、確認はできないがグワラニー自身が魔術師である可能性は十分にある。そして、そう考えると、奴の軍についての説明はすべてつく」


「実はそのグワラニーという司令官は人間種であり、しかも、非常に若い。さらに剣を持たない。これは魔族軍の組織上ありえないことだ。さらに、奴の軍は他の魔族軍とは戦い方がまったく違う。それもこれも司令官が魔術師であれば説明がつく」


「奴の軍はその戦いのほぼすべてを魔法でおこない、剣士の出番がない。剣士としも有名だったボナール将軍を軽くあしらった後に斬り伏せたタルファという名の男をはじめとして、あれだけ有能な剣士が抱えながらそれを前面に出さない戦い方をするなどありえない。というより、兵に不満が出る。その不満を抑え込むにはそれ相応の力を示すことが必要になるのだが……」

「それがその力だと……」


 自らが示した答えに大きく頷いたロバウを眺めながらアリストは再び思考の世界に入るために目を閉じる。


 ……困ったことに彼の語ったことは私の認識と同じ。


 もちろんこれがグワラニーの壮大な罠という可能性はある。

 だが、そうなるといったい誰の対策のための罠なのかという疑問が浮かぶ。

 グワラニー軍とフランベーニュ軍。

 彼我の力を差を考えれば、これほどまでに念入りに罠を張り巡らす必要はない。

 では、それは勇者に対してのものなのか?


 ……もちろんプロエルメルでの私に対しての言動やミュランジ城で見せたという小細工だけならそれはあり得る話だ。だが……。


 ……そもそもの発端だったクペルでの出来事のとき、彼らは私の存在を知らないはず。

 ……プロエルメルでの話し合いがあることさえわからないその時期に勇者対策のために罠を用意していたというのは考えにくい。

 

 ……となれば、確定ではないが事実である可能性は十分にある。


 そう結論づけたアリストが口を開く。



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