もうひとつの邂逅 Ⅲ
ところで、その前日の御前会議でグワラニーは軍階級のひとつである騎士団長という肩書を手にしていた。
魔族の国における軍の階級はいたってシンプルである。
一級から五級までの五段階に分かれた最下位の戦士から始まり、戦士十人からなる小隊を率いる立場にあるのが戦士長。
十個の小隊が集まって構成される中隊を率いることができる騎士、騎士長という階級を経て手に入れることができるのが、千人規模となる十個の中隊が集まる大隊の隊長を務める騎士団長という地位。
そして、その騎士団長たちを束ねるのが准将軍、そして将軍がその頂点となる。
つまり、グワラニーが就く騎士団長とは上から三番目の地位にあるものなのだが、この決定は異例中の異例だった。
なぜなら、その地位に就くには戦士から始まり、参加した数多くの戦闘で生き残るだけではなく、その地位にふさわしい十分な武功を上げ続けなければならないからなのだが、現在の敗戦が続く状況ではそれを実現するのは言葉で語る以上に容易なことではなかったのだ。
それが一度の戦闘の結果だけで戦士でもなかった者がその地位を得たため、グワラニーに抜かれ、または並ばれた者の多くが、口には出さなかったものの、大いなる不満に持ったのは紛れもない事実である。
だが、それは王が決めたことであり、何者もその決定に口を挟むことはできない。
さらに、王がその根拠として口にした、六か国連合軍の領内侵攻の勢いを止めた旧領土への襲撃戦を立案し、自ら最初の攻撃を指揮してほぼ被害なしに挙げた驚くべき戦果と先日窮地に陥っていたペパス将軍を救出したという功は敗戦続きの将軍たちを黙らせるに十分なものだったと言えるだろう。
当然ながら、グワラニーの部下たちも相応の地位に上がり、実際の戦闘を指揮したウビラタンとバロチナの二人は戦士長から騎士に、以前から騎士の地位にあったコリチーバは騎士長に昇進していた。
そして、側近であるバイアも同じく特進により騎士の地位を手にしていたのだが、こちらについては副司令官という地位にある者が指揮する部下より遥か下の階級に留めるわけにはいかないという極めて政治的配慮が働いたとされる。
そういうことで、主以上の特別な事情により騎士の称号を手にしたバイアであったが、それを手に入れた日、すなわち昨日の夜にバイアは自らが得たその地位についてグワラニーにこのような言葉投げかけていた。
「それにしても、我が軍の魔術師がつくりだした火球群と雷鳴に馬が暴れ出し大混乱に陥ったアリターナ軍が大敗を喫したスニャーニの戦い以降騎馬戦はおこなわれなくなったにもかかわらず騎士とは時代錯誤も甚だしいですね」
「そう言うな。これはあくまで肩書だ」
側近の大いなる皮肉を窘めたグワラニーはさらに言葉を続ける。
「それに、現在では掌握する兵の数だって規定通りになっていないのだ。肩書の名などそれを後生大事にする輩を脅すときに使える程度に思っておけばいいだろう。だが、これで……」
「近いうちに前線に駆り出される?」
自らの言葉を遮るように即座に返ってきた側近の言葉にグワラニーは頷く。
「そうだ。北部の城塞都市クアムートが包囲されてしばらく経つが、数度の援助作戦はすべて失敗に終わっているし、マンジューク銀山の防衛戦も苦戦しているという。おそらく我々は近々そのどちらかに投入されることになるだろう。王も不平があるのを承知で私に騎士団長の地位を与えたのはそのつもりがあるからだろうし、ガスリンやコンシリアがそれほど反対しなかったのもそれを察したからだろうな」
「つまり、前線でひどい目に遭ってこいと?」
「王はともかく将軍たちはそう思っているだろう。それに、さすがに軍の地位に関しては無位無官である文官ごときが指揮官などしている部隊を援軍に出したとなれば敵味方双方に対して格好がつかないのも事実。特に援軍を待ち望んでいた味方の士気は大いに下がるのは確実だ。そういうことも王は配慮したのだろう」
「……なるほど」
「もっとも、王のつまらぬ思惑など私は知ったことではないし、まして将軍どもの望み通りになってやる義理などまったくない」
「つまり、どこに出向くことになっても勝利するということですか?」
「当然。……いや」
そこまで言ったところで、グワラニーは先ほどのお返しとばかりに人の悪そうな笑みを浮かべる。
「我々が手に入れるのはただの勝利ではなく、完璧な勝利だ」