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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十三章 ミュランジ城攻防戦
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第四次モレイアン川の戦い Ⅲ

 一瞬で決着がついた「第四次モレイアン川の戦い」であったが、戦い自体は陽が最高点に達した頃に出されたロシュフォールの撤収命令によって完全な終了となる。


 ミュランジ城攻防戦が始まってから数多く発生したいわゆるクリーンシートとなる戦死者ゼロの戦いを再び記録したフランベーニュ軍に対し、魔族軍は一万八千七百二十三人の戦死及び行方不明者を出す。

 そこにはアドリアン・ポリティラとフェリペ・セリテナーリオというふたりの将軍、さらにアラカージュ・パウナミン、ベルナルド・クナニ アフォンソ・ウアナリーという上級魔術師を含む魔術師団所属の全員である四百人の魔術師も含まれるわけだが、特に魔術師団の全滅はミュランジ城攻略部隊にとって大きな痛手だった。

 なにしろこれによって魔族軍は魔法的防御が完全に失われ、フランベーニュ軍は好きな時に魔法攻撃をおこなえる状況になったのだから。


 その夜。

 対岸から見えない丘の裏側で目印にならないよう火の使用を禁じたため、自らも毛布を被って過ごすアルタミアは月明りでぼんやりと顔が浮かぶ同僚に声をかける。


「とうとうふたりだけになったな」

「ああ」


 戻ってきたのは最低限にも満たない短いものだった。


「一応聞く。フェヘイラは明日以降どのように戦えばいいと思うか?」


 アルタミアとしてはこれ以外に今話すことがなくただの気休め程度のものだったのだが、フェヘイラの口から戻ってきたのは、その期待からはもっとも遠いものだった。


「これ以上の戦いは無理だ」


 実をいえば、アルタミア自身そうであるという自覚はあった。

 魔術師全員を失っている以上、出撃した瞬間に敵魔術師から狙い撃ちされることだってありえる。

 それどころか、川に入る前に攻撃されることだってありえるのだから、そう考えない方がおかしいといえるだろう。


 アルタミアは再び口を開く。


「たしかにフェヘイラの言うとおりだ」


「だが……」


「このまま王都に帰れば厳しい処分は免れない。おまえはそれでもいいのか」


 もちろん死にたくないという思いはある。

 だが、どうせ死ぬのなら、敗北に関するすべての責任を負わされて自刃を強要されるよりはどんな形でも戦死したほうがマシという思いの方が強い。

 それはまさにセリテナーリオと同じ発想である。


「……だからと言って兵士たちを巻き込んでいいというわけでもないと思うのだが」


 フェヘイラの言葉は再びの正論であった。


「もちろんつまらない死を迎えたくないという気持ちはわからなくないが、敵魔術師の魔法訓練の的になる気もない。それが私の偽らざる気持ちだ」


「そうできる策があるのか?」

「ある」


「後方で見物しているグワラニー将軍に助けを求める」

「いや。それだけはできない」


 フェヘイラの提案に即座にやってきたアルタミアの言葉は今までで一番に力のあるものであった。


 これまでのことを考えれば、それはたしかにアルタミアにはとても絶対できないことである。

 だが、それとともに、それが現在の状況を打開できるもっとも有力な策であることをアルタミアも十分に理解していた。

 少しだけ続いた沈黙のあとにアルタミアはもう一度口を開く。


「もう一度言う。フェヘイラの提案に私は賛成できない」


「だが、それが最良の策であるとフェヘイラがいうのであれば実行するのを私は邪魔する気はない。そういうことであれば、こうしよう」


「明日、全軍に対して最後の戦いを挑む者を募る。それを率いて私が戦いに挑む。もちろん勝つつもりで出かけるがそこで負けて場合は、後の処置はおまえに任せる。グワラニーに助力を求めるなり、王都に戻るなり好きにしていい」


 そして、翌朝アルタミアの言葉に賛同し、志願した千八百二十八人が、回廊に辿り着く前にフランベーニュ軍の魔術師団の攻撃で全滅した「第五次モレイアン川の戦い」を見届けたフェヘイラはその足でグワラニーの陣に向かった。

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