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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十三章 ミュランジ城攻防戦
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第四次モレイアン川の戦い Ⅰ 

「まあ、損害が思ったよりも出なかったのはよかった」


 疲れ切ったポリティラはそう呟いたのはその日の昼。

 目の前にいるのはわずか二日で七人から三人になった将軍たちである。


「軍の再編はあとでおこなうことにして……」


「我々はミュランジ城を落とすためにどのように進むべきか」


 もともと同格より少々上という立場。

 そして、その根拠も年齢と将軍の地位についてからの年数であり、将軍として組織を動かし功を挙げた結果で現在の地位に就いたわけではない。

 それでも、これまではボロを出すことなく立ち振る舞っていたのだが、内包していた指導力のなさは増援部隊が到着してから一気に露呈する。

 むろん、口に出して認めたわけではないが、ポリティラ自身もそれは自覚している。

 当然、三人の将軍たちも。

 ただし、彼らもポリティラの代わりに半壊している軍を立て直し目的を達成できる自信はないこともあり、これまでどおりポリティラが組織のトップにいることに異義を唱えることはない。


 それに、まもなくやってくるはずの作戦中止。

 その失敗の責任者になりたくはない。

 そう言う意味からもポリティラには頑張ってもらいたいと思っている。


 そう。

 残った三人、いや、それだけではなく、実はポリティ自身もこうミュランジ城攻略は成功しないことは気づいていた。


 ただし、言い出せない。


 その結果が、ポリティラが口にした次なる作戦の提案を所望した言葉なのである。

 だが、実際のところ、これはなかなかの難題だった。


 やれそうなことはやり尽くしている。


 アルタミアもセリテナーリオも沈黙する中、口を開いたのは増援部隊の将軍の最後のひとりとなったエンゾ・フェヘイラだった。


「……私が思うに我々とフランベーニュとでは、船を漕ぐ技術が違う」


「そして、船上の動作はさらに違う」


「奴らを破るにはそれに対抗するためのものを我が軍の兵士に身につけさせねばならぬと思う」


 フェヘイラの言葉は正しい。


 ふたりの将軍は心の中で呟く。


 だが……。


 そう。

 フェヘイラの指摘は間違っていない。

 そして、それはアルタミアもセリテナーリオが身を持って思い知ったことでもある。

 だが、彼らは手をつけなかった。

 いや。

 手をつけられなかったといったほうがいいだろう。

 その理由。

 それは……。


「フェヘイラ。おまえの言葉は正しいと思う」


「それで、奴らに対抗できるだけのものを我が兵士が身に着けるまでにどれくらい時間がかかる?」


 ポリティラの問いに答えかけたところで、フェヘイラは気づく。

 目の前のふたりがそれを進言しなかった理由を。


 問われたことに対してはまったく意味をなさない言葉をフェヘイラが呟くと、ポリティラは大きく息を吐きだした。


「……我々に残されている時間は残り少ないのだ」


 彼らの飼い主であるガスリンのライバル、コンシリア配下がおこなうグボコリューバ攻略戦がまもなく始まる。

 それまでに自分たちは結果を出さなければならず、最低でも五十日はかかる操舵や船上での武器の扱いを悠長にやっている時間はない。


 ポリティラの言いたいことはそういうことであったのだ。


「なるほど。つまり、現在の力で対岸に辿り着く方法。つまりその方策を出せということか?」


 フェヘイラは吐き出すようにその言葉を口にした。


「そうなると、問題はフランベーニュ海軍。特にあの白い制服を着た指揮官と思われる男ということになる」

「ああ」


 やってきた言葉に短い言葉で答えながら、アルタミアは思う。


 意外に饒舌だな。

 それ以上にまともだ。

 援軍で来た者たちは馬鹿揃いだと思っていたが、最後に残ったこいつは普通のようだ。


 ……ありがたいことに。


「それで、それについて何か策はあるのか?フェヘイラ」

「なくはない」


 儀礼のようなものであり、あまり期待せず軽い気持ちで自らが口にした問いに対してあっさりとやってきた肯定的なその言葉にアルタミアは驚く。


「本当にあるのか?」

「ある」


「もっとも成功するかどうかはわからない。そして、それは我々武人にとって避けるべきものでもあるのだが、一応聞いてもらおう」


 そう前置きしたあとにフェヘイラが口にしたこと。

 それは……。


「あの目障りな海軍司令官を謀殺する」


 謀殺。

 つまり、暗殺である。

 たしかにそれは剣の世界に生きている者には忌み嫌わるものである。

 だが、今の自分たちに手段を選んでいる余裕はない。

 必要があれば何でもおこなう。

 それくらいの覚悟はある。

 だが……。


「……それをおこなうにしても問題はある」


 その言葉を吐き出したのはセリテナーリオだった。

 もちろん謀殺自体を否定していないことから、彼がこの時点で自らの枷を取り去っていたのはあきらかだった。

 少しだけ以外そうな表情を浮かべたフェヘイラが口を開く。


「聞こう」

「奴に近づけるのは戦いのときのみだ」


「……もしかして、剣に毒を塗るのか?」


 毒殺。

 この世界どころか別の世界においても古今東西もっともポピュラーな暗殺方法ではある。

 だが、それとともにこの世界の剣に生きる者にとってそれは禁忌中の禁忌。

 憎しみあい、戦場では血で血を洗う戦いをおこなっていた魔族と人間であったが、そんな相手に対してもそれだけはおこなわないくらいに。

 特に魔族にはそれをおこなった者は死を賜るという軍規がある。


 あえて、それを犯すというのか?


 セリテナーリオはそう問うていたのである。


「いや」


「……さすがにそこまでは考えていない」


「それをやってしまえば、やってくるのは褒美ではなく死罪なのだから金を積まれて頼まれても遠慮したいものだ」


 フェヘイラは薄い笑いとともにそう返した。


「では、どうするのだ?」

「戦闘中に魔術師が至近距離から火球を撃ち込む」


「いくらあの男の剣技が優れていようが、さすがに火球は斬れまい」


 至近距離からの魔法攻撃。


 たしかにこれはまだ試していない手である。

 そして、目障りな男を確実に排除できる。


 セリテナーリオは思考を目まぐるしく動かす。


「悪くない」

「ああ。悪くない」


 セリテナーリオが口にした言葉に同じ結論に達したアルタミアも頷く。


「……ついでにいえば、これは奴だけではなく他の海軍兵にも有効だ」

「そのとおり」


「すばらしい。すばらしい案だ。フェヘイラ」

「だが、これには我々に関わる大きな問題がある」

「なんだ?」


「一番の難関だった海軍兵の排除を魔術師団に依頼するとなると、第一功は確実に魔術師団にいくことになる。それでも構わないか?」


 実は彼らにとってそれは非常に重要なことである。

 第一功と第二功。

 その褒美の差は非常に大きい。

 基本的に金貨で支払われる魔族軍の恩賞でいえば、第二功は第一功の半分が基本。

 さらに第三功は第二功の半分。

  

 フェヘイラの問いは、その最も重要な部分を魔術師団に渡す覚悟があるかということである。

 普通なら当然否。

 だが、彼らが置かれた状況ではそれを拒むことなどできない。

 問われた者は即座に答える。


「構わん。我々の力では奴を抜けない以上、第一功を譲っても魔術師にあの男を葬ってもらわねばならないだろう」

「そのとおり。それにそれだって戦いのうちだ。毒殺を企てるより百倍マシだ」


 フェヘイラの確認の言葉を瞬殺したふたりの視線はその場で一番高い地位にある者へと移動する。

 当然のようにその男も同意する。


「……では、魔術師団に話をつけよう」


「パウナミンも手持ち無沙汰にしていた。第一功をくれてやるといえば、協力するだろう」


 こうして、ミュランジ城攻略軍はロシュフォール謀殺というこれまでの正攻法とはまったく違う方向に舵を切り、動き出す。

 そして、四人の将軍による暗い香りがする密談が終了してから少しだけ時間をおいた魔術師団の陣地。


「……なるほど。至近距離から火球を撃ち込みあの男を始末するのか」


 ポリティラから持ち込まれた提案にパウナミンは考え込む。

 そして、同席しているふたりの魔術師に目をやる。


「クナニ。ウアナリー。おまえたちはどう思う?」


 魔術師の世界は、魔族、人間を問わずその能力と地位によってその所属にかかわらず上下関係は明確かつ歴然としている。

 そのため、同じように増援部隊としてやってきたふたりの副魔術師ベルナルド・クナニとアフォンソ・ウアナリーとパウナミンとの関係は、将軍たちのようなギクシャクしたようなものはない。


 ふたりにとって、パウナミンからの問いは師からのものと同義。

 最大限の速さで思考を巡らし、そして答える。


「できなくはないでしょう」

「私もそう思います」

「なるほど」


 ふたりからの明確な返答に満足そうに頷いたものの、ポリティラはなぜかさらに考え込む。


「魔術師長には何か問題となるものがあるのか?」


 返答を待っていたものの、その時間の長さにじれったくなったポリティラが思わず問うたその言葉に鋭い視線で応えたパウナミンがようやく口を開く。


「たしかにふたりの言うとおりできなくはない。そして、あのような逃げ場の少ない場所で至近距離から火球を撃ち込めば、例の男を仕留められることはできるだろう。だが……」


「私が見るに、奴ひとりを始末しても、結局状況は変わらない。なぜなら、たしかに奴は特別優れた剣技を持っているが、部下たちのそれもそう劣らぬ。将軍たちの部下では太刀打ちできないくらいのものを持っている。少なくても水上の上での戦闘では」


 部外者にあたる者に言われたくはないが事実。

 否定はできない。

 渋い顔で沈黙するポリティラを冷たい視線で眺めながら、パウナミンは言葉を続ける。


「ということは、海軍兵の排除は我々魔術師団がすべて担わねばならないことになる」


「だが、さすがにそれは難しい」

「なるほど」


「では、回廊内の海軍兵だけという条件ということではどうでしょう?」


 ふたりの会話に割り込み、そう提案したのはこの場に三人の将軍の代表としてやってきていたセリテナーリオだった。


「回廊さえ抜け出せばなんとかなるのか?」

「なんとかすると約束しましょう」

「わかった」


 自らの問いに対して即答するセリテナーリオの言葉に更なる問いを口にしなかったものの、パウナミンがその言葉を信用していたのかといえば、そうではなかった。

 実は彼もミュランジ城攻略は成功の目はないと見切っていた。

 そこで、その中でそれなりのものを手に入れようと考えていたのだ。


 この提案を利用しない手はない。


 大急ぎで損得を計算し、それがまとまったところでパウナミンが口を開く。


「いいだろう。それと、もうひとつ。当然フランベーニュの奴らも魔術師を抱えている。こちらが火球を使うとなると対抗魔法で防ごうとする。つまり、杖をギリギリまで振り回さずに多数の火球をつくりだし、対抗魔法が来る前に回廊内の海軍兵を始末する技術が必要となるのだが……」


「それができるのはこの場にいる三人くらいだ」


「つまり、先頭の船に乗る我らには特別な功があると思っていいな。もちろん将軍たちが海軍の排除に失敗しても」


 パウナミンの意図を理解したポリティラは心の中で罵りの言葉を呟くものの、ここで拒んではすべての可能性が消える。

 鼻白むものの、結局それを受け入れる。


「戦いの第一功は魔術師団に渡す。そして、三人にはそれとは別に特別報酬を支払うようガスリン様にお願いする」

「結果に関わらず?」

「結果に関わらず」

「よろしい。では、準備をすることにしよう」


 後に、「第四次モレイアン川の戦い」と呼ばれる魔族軍のあらたな作戦。


 正攻法によってはミュランジ城奪取どころか対岸にも辿り着けない。

 その打開のため、まず障害の主因である海軍兵の中心にいる白服を着た指揮官を抹殺する。

 そして、その手段は魔術師による近接攻撃。


 これがその骨子となる。


 ただし、これは目の前に迫りつつある終幕から逃れる悪あがきの過程に生まれた、いわば思いつきの一手。

 多くの部分について詰めの作業が必要となる。

 なにしろ、これは現在の彼らが抱える最大かつ最後の戦力となった魔術師団を投入するもの。

 つまり、その失敗はミュランジ城攻略そのものの失敗に直結するのだ。

 愚行ともいえるこの何回かのような迂闊な真似はできない。


 ポリティラを含めた将軍の地位にある者四人のほか、魔術師長であるアラカージュ・パウナミンのほか、ベルナルド・クナニ アフォンソ・ウアナリーという副魔術師長も加わった入念な会議が何度もおこなわれる。


 その席上。


「……これまでの戦いから、あの指揮官は先頭の船に乗ってくるだろう。それを踏まえて魔術師長に問う」


「奴を確実に仕留めるにはどれくらいまで近づくことが必要か?」


 ポリティラの問いはあまりにも直接的ではあったが、非常にわかりやすいといえる。

 答える方にとっては、特に。

 その問いから感じる焦りを薄い笑みで嘲ると、パウナミンが視線を動かす。


「……クナニ。ウアナリー。おまえたちがそれをおこなうならどこまで近づく?」

「そうですね」


「十ジェレトは近づきたいものです」

「そこにつけ加えて、味方を巻き込まないということであれば、術者は先頭の船に乗るべきだと思います」

「そうだな。私もふたりと同意見だ」


 ふたりの副魔術師長が答えを導き出したところでパウナミンは視線をポリティラに戻す。


「そういうことで先頭の船には我々三人と……」


「漕ぎ手を兼ねた護衛の兵を何人かお願いしたい。言っておくが、我々が川に放り出された時点でこの策は失敗となる。漕ぎ手の人選はその点を留意してくれ」


「……ところで、魔術師長」


 今回の作戦の最も重要な部分が決まったところで口を開いたのはわずか三人になった実戦部隊を率いる将軍のひとりだった。


「我々は使用する魔法を火球としたが、他の魔法でももちろん構わないのだが……」

「火球というのは攻撃魔法としては時代遅れということになっているのは私も知っている。つまり、より確実に仕留めるには別の魔法の方がいいのではないか」

「私もそれは思った」


 ポリティラとアルタミアが続いたセリテナーリオの言葉。

 実はこの指摘は表面上でいえば正しい。


 この世界における攻撃魔法のトレンドを改めて説明すれば、攻撃対象に魔法を纏わせたところで術を発動させるというもの。

 つまり、気づいたときにはその身は攻撃に晒されており、すべてが手遅れということである。

 それに対して、ポリティラの言う時代遅れとなる一世代前の攻撃魔法は手元に術を発動させて具現化したものを相手に飛ばすというもので、そのもの自体が意志を持っているわけではないので進行方向を見切ればそれを避けることは十分に可能ということになる。

 ポリティラとしては、対象を確実に仕留めるのであれば、現在多くの魔術師が使用している攻撃魔法を使用したほうがよいのではないかという思いがあり、必然的に言葉にはその願いが込められている。

だが……。


「いや。この場合に使用するのは火球が一番だろう」


「将軍たちが所望するのは現在多くの魔術師が使用する攻撃魔法なのだろうが、当然ながらあれにも防ぐ方法はある」


「そして、こちらも当然ではあるが、例の男が纏う防御魔法は特別強い。私が全力で攻撃をおこなっても魔法は奴が纏う防御魔法を完全にはすり抜けられない。いや。ほぼ防がれる。それで奴に与えられるのはおそらく掠り傷程度」


「その点、火球であれば、それに対応するのは対抗魔法。火球であれば、氷矢か水弾だろうが、相手の魔法を見極め、対抗魔法を発動させるには時間がかかる。当然、術者が遠くにいれば間に合わない」


「それが火球を選ぶ理由だ」


 そこまで話をしたところでパウナミンは相手の男たちを眺める。


「……私はそれを知っていてこの策を提案したと思っていたのだがどうやらそうではないようだな」


 ……ということは、これを思いついたのはもうひとりということか。


 パウナミンは口には出さない言葉そう呟くと、テーブルの反対側の末席に座るそのひとりを眺める。


 ……意外にできるということか。


 そう呟くと、パウナミンは再び口を開く。


「最初の一撃で指揮官の男と周辺の兵どもはそれで始末する。続いて、他の兵の排除にかかる」


「……ここまでが魔術団の仕事となるがそれでよかったのだったな」


 パウナミンからやってきたその言葉に四人の将軍は大きく頷いた。


「言っておくが、我々三人が攻撃に専念するということは、各将軍やこの本陣に対する防御魔法は相当薄くなるのはやむを得ないと思ってくれ」

「承知した」


「さて、次は我々の番だ。まず、陣立てを決めようか?」

「それについて意見がある」


 ポリティラの言葉の直後、発言を求めたのはまたしてもフェヘイラだった。

 

「聞こう」


 ポリティラからやってきた渋々の見本のような表情とその感情が芳しいほどに匂い立つ言葉に頷いたフェヘイラが口を開く。


「ここは船の扱いが上手い者から並べるべきだろう。残念ながら我が隊を含む増援部隊には先陣を務めるだけの技量はない。総司令官がどのような選択をするつもりなのかはわからないが、万が一、我々が先陣になっても足手まといになるだけだ。本来であれば、先陣を望まぬなどありえぬことではあるが、今は己の利を捨て全体の勝利だけを考えるべきときであり、我が部隊は先陣を務めることを遠慮する」


「次に、私を除くふたりのどちらが先陣を務めるべきなのかということになるわけだが、セリテナーリオ隊の方が幾分操舵の技量は上であるように思える」


 フェヘイラの、言葉とともに送られた視線に最初に反応したのはアルタミアだった。


「私も異存はない。一番操舵の技能の高い兵を要するセリテナーリオが先陣でいいだろう。どうだ?」

「わかった。承った」


 もちろん意図したのはひとりだけであり、残るふたりは引き込まれるようにしてその話に乗ったのだが、実はこの話にはポリティラが一切関与していない。

 というより、決定をおこなう場から排除されていた。


 実は、エンゾ・フェヘイラは周囲からの評価からに反して有能だった。

 さらに「馬鹿には『おまえは馬鹿だ』と親切に教えてやること」を生業にしているような素晴らしい性格をしている。

 当然同僚はもちろん上官が相手でもまったく忖度なくその策や人事を批判する。

 いわゆる上官や同僚から嫌われる見本のような男である。


 しかも、人の見る目も正確。

 その彼がポリティラをどう評価していたか。


 いうまでもない。

 つまり、それがこの結果というわけである。


「我々のなかで順番を決めてみたのだが、どうだろうか」


 話がついた直後、蚊帳の外に置かれ仏頂面になったポリティラに気づいたアルタミアからの取ってつけたような言葉。


 ふざけるなと怒鳴りつけたい抑えがたい怒りはある。

 すべてをひっくり返してやりたいとも。

 だが、声の大きさではなく根拠を持って決められたその意見を覆す材料を持ち合わせていない。


「むろん構わらん。というより、私も同じ順番を考えていた」


 それはポリティラによる精一杯の虚勢を張った言葉だった。


 そうして決まった魔族軍の陣容は次のとおりである。


 第一陣。

 フェリペ・セリテナーリオ率いる七千九人。

 その先頭の船に魔術師長アラカージュ・パウナミン、ベルナルド・クナニとアフォンソ・ウアナリーというふたりの副魔術師長が乗り込む。


 第二陣

 クレメンテ・アルタミア率いる七千三百六十二人。


 このふたつの隊については増員が図られなかったが、それは増援部隊の質の悪い兵員を追加してもプラスよりもマイナスの方が大きいという判断からである。


 第三陣

 最後尾となるその集団を率いるのはエンゾ・フェヘイラ。

 その指揮下にあるのは、指揮官を失った四隊の増援部隊の残存兵七千六百四十四人を自隊に加えた一万三千四百六十一人となり、質はともかく数だけでいえば三隊のなかで最大勢力となる。


 本陣。

 アドリアン・ポリティラの直属兵五百人と四百人の魔術師。

 その他に負傷兵二千八百十五人が隣接する救護所でいる。


 彼らに率いられているのは三万千百四十七人の兵士と四百人の魔術師。

 これが現在のミュランジ城攻略軍の総数となる。


 だが、相手は四万人ほど。

 この数でも勝てないわけではない。

 いや。

 絶対に勝てる。

 回廊を突破し、対岸に辿り着ければ。

 そのためにはあの目障りな男とその子分たちを絶対に排除する。


 その思いを胸に魔族軍は夜が明けぬ川へ繰り出していく。


 第四次モレイアン川の戦いの始まりである。

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― 新着の感想 ―
先程、184話の感想で「アナパイケとパウナミンの関係性が…」と質問しましたが本話を読んだところ自己解決しました。 ※パウナミンは魔術師長だった。 ※184話のパウナミンはアナパイケの誤字と思われます。…
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