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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十三章 ミュランジ城攻防戦

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第三次モレイアン川の戦い

 剣を交えぬどころか会敵もせぬまま六千以上の兵を失った「第二次モレイアン川夜戦」が終わってから迎えた最初の朝。

 流れついた溺死者の埋葬を終了したところで、残った将軍たちが集まる。


 一晩でふたりの同僚を失えばさすがのアバエテトゥーバも昨日の大見えを取り消し部隊編成に協力する。


 誰もそう思った。

 だが、そうならず、宣言通りアバエテトゥーバは自隊だけを率い回廊突破に向かうことになった。


 もちろんこれ以上の兵力削減は全体の作戦遂行に大きく影響するため、ポリティラは出撃停止を命じる。

 だが、そこにアルタミアとセリテナーリオが要らぬ言葉で口添えしたことで激発したアバエテトゥーが頑として譲らなかったのである。

 命令違反。

 いや、命令無視が公然とおこなわれるということでポリティラの組織運営能力の低さも露呈する。

 すでにミュランジ城攻略部隊は組織として末期症状。

 目的を達成するのは困難な状況になっていたといえるだろう。


 さて、啖呵を切って飛び出してきたアバエテトゥーバであるが、もちろん不安がないわけではない。

 アバエテトゥーバは岸に立つ将軍たちを眺め、その気持ちを含んだ言葉を呟く。


「……まさかフェヘイラが腰ぬけどもに寝返るとは思わなかった」


 そう。

 実は、出撃にあたってアバエテトゥーバは自分以外に唯一生き残っている増援部隊を率いる将軍エンゾ・フェヘイラにともに出撃するように再度誘っていたのだ。

 だが、フェヘイラは冷たい声でこう言ってそれを拒絶した。


「有効な策もないまま相手の有利な戦場で戦うなど無駄死に以外の何物でもない。他人の強情に付き合って死ぬなど御免被る」


「まあ、いい。もし、突破できれば手柄はひとり占めだ」


 アバエテトゥーバは自分自身を言い聞かせるように回廊を目指す。

 そして、目的の場所である回廊の出口を見やったところでアバエテトゥーバはニヤリと笑う。


「……昨日酷い目に遭わせてくれたあの男はいない」


「さすがに今日もあの男なら苦労すると思ったが、子分なら勝てる」


 あまりの嬉しさに心に留めておくべき言葉を漏らしてしまう。


「相手は三千。こちらは二千。勝てぬ数ではないぞ」


「回廊に突入せよ」


 一方、アバエテトゥーバに軽い相手を決めつけられたフランベーニュ海軍の准提督シリル・ディーターカンプであるが、こちらはこちらでようやく回ってきた出番に腕を鳴らしていた。


「いよいよだ」


「提督より、回廊からは出ぬようにと厳命されている」


「どんなに勝ってもそこだけは忘れるな。いくぞ」


 部下たちにハッパを掛け終わると、近接戦用投擲武器でもある小型戦斧を取り出す。


「今日の初手はこれだ」


 そうして始まった戦い。


 だが、大言壮語の見本のような自信満々の数々の言葉とは裏腹に大した準備も相手も倒す策もないアバエテトゥーバ。

 猛者揃いのディーターカンプの部隊。

 両者が正面からぶつかれば、結果はあきらか。

 始まって早々勝敗が決する。


 接敵直後、先頭の船に乗り込んでいたアバエテトゥーバの胸に飛んできた三本の小型戦斧のうちの一本が突き刺さったのだ。


 むろん致命傷。


 そこで魔族軍に混乱が起こる。

 まだ息のあるアバエテトゥーバを連れて一度岸に戻るべきという主張と、何もせず撤退などできぬという強硬論がぶつかったのだ。

 しかも、狭い水路。

 全軍の意志が統一されないかぎり前にも後ろに行くことができない。

 立往生して動けなくなる。

 この機を逃さず次々の乗り込んでくるフランベーニュ軍に揺れる船で立ち上がることもできぬアバエテトゥーバの部下たちが抵抗できるはずもない。

 いいように狩られ、悲鳴を上げる仲間を見捨て逃げるように回廊から退却を開始する。


 開始からわずか二十ドゥア。

 別の世界での約三十分。

 一時間にも満たぬ戦いだった。


 魔族軍、指揮官ダニエル・アバエテトゥーバを含む三百三十七人の戦死認定。四百一人の負傷。

 フランベーニュ軍、二十四人の負傷。

 それがその戦いの結果となる。

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