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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十三章 ミュランジ城攻防戦
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第二次モレイアン川夜戦 

 何度も言うようだが、アビリオ・アナパイケが斬殺された一件は、本来であれば、前線はもちろん、王都においても大きな話題になるべきものであった。

 それがなぜこれだけ簡単に闇に放り込むことができたのか?

 もちろん権力者がそう望んだことが一番大きな理由であるし、アナパイケ本人が部下からの人望はもちろん、同僚からの信頼もまったくなかったことも大きな理由といえる。


 だが、それでもほぼ同時刻に起こった「第二次モレイアン川夜戦」と呼ばれる事件がなければもう少しスポットライトが当たることは避けられなかったことだろう。

 ついでにいっておけば、公的な記録にはアナパイケは「第二次モレイアン川夜戦」の戦死者のひとりとして名が記されている。


 さて、「アビリオ・アナパイケ斬殺事件」の矮小化に一役買った「第二次モレイアン川夜戦」であるが、先ほど事件と表現した。

 もちろんそれは間違いというわけではない。

 というより、戦いという名がつくことの方がおかしいとさえ評される。

 そのような戦いであった。

 当然その名称には様々な意見があったわけなのだが、結局「第二次モレイアン川夜戦」に落ち着くことになる。

 歴史家ウスターシェ・ポワトヴァンは苦笑しながら命名者たちの苦労とその理由を解説した。


「それが起こったのはモレイアン川。起こったのは夜。そして、フランベーニュ、魔族両軍が出撃していること。それから、その経過と多くの戦死者が出ていること。その中身がどうであれそう呼ばざるを得ないだろう」


 では、そのいわくつきの戦い「第二次モレイアン川夜戦」はいったいどのようなものだったのか?


 アビリオ・アナパイケが蛮行をおこなうための準備が終わり、そろそろクペル城へ向かおうかとしている頃。


 昼間に痛い目を見た五将のひとりアンタイル・タイランジア率いる約四千人と戦死したベネディド・デスコベルタの代わりにポリティラより臨時に部隊を任された騎士団長の肩書を持つアラシム・パナンピ、エレシム・シオン、ブルメ・クアティアの三人に率いられた約二千五百人、合計六千五百人が夜襲をかけるため準備をしていた。 


 もちろん抜け駆けである。


 だが、この数の兵を動かすのだ。

 当然味方に気づかれる。

 というより、この時点でフランベーニュ軍にも出撃は察知されていた。

 むろん当人たちは知る由もないのだが。


 さて、夜襲に備え巡回していたためその準備を発見した多くの者の中には二度の夜間戦闘で痛い目を見たアルタミア隊に所属する兵士もいた。

 当然彼らはその無謀さを危うく思い、引き留めに入る。

 だが、タイランジアは武勲の独占、三人の騎士団長たちは上官の敵討ちで頭が一杯になっており、兵士ごときの言葉を聞くはずがない。


「……我らは総司令官より命じられた秘密任務中である。他言無用」


 そう言って、次々の川に繰り出す。

 その彼らの向かう先はもちろん昼間突破に失敗した回廊。

 ではなく、闇の向こうにある対岸。

 そう。

 彼らは直線ルートで対岸を目指したのである。

 横広がりになって。


 それはミュランジ城攻防戦の緒戦で魔族軍がおこなった戦法。

 いや。

 粗雑すぎる進め方を考えればその劣化版というべきだろう。


 当然ながら、そうなれば起こることは決まっている。

 しかも、今回はほぼ一斉に。


 自滅である。


 当然ながら、準備万端で迎撃に出てきたその日の夜番アンセルム・メグリース率いるフランベーニュ軍は出番なし。


「これはさすがに戦いとは呼べるものではないな」


 敵の悲鳴を聞きながらのものとなる、彼の言葉がこの日戦いの様子をよく表しているといえるだろう。


 出撃した魔族軍の九割以上の六千百四十六人が戦死または行方不明。


 朝になり、その損害の全容があきらかになったところで、ポリティラは怒り狂ったものの、無届けの出撃を指揮したタイランジアだけでなく、それに賛同した任命したばかりの三人の臨時指揮官も行方不明になってしまったため、処分は保留となる。


「フランベーニュ国内では、彼の爵位が上がることを阻止しようと、ティールングルに我が軍を引き込んで叩いたアルサンス・ベルナードを無駄な戦いをしたと非難をする貴族どもが山ほどいるそうだが、彼らに教えたいものだ。無駄な戦いというものは……」


「タイランジアがおこなったような愚行を言うのだと」


 この戦いが終わってからしばらく後、ワイバーン経由でフランベーニュ国内での評価を手に入れたグワラニーはそれと比較してこの戦いをこう評している。

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