驚くべき結果
相手があのアリターナであることを考えれば最低でも五日は必要。
最悪十日ということもあるだろうが、とりあえず、こちらは防御を固めることに専念し、背を撃たれるかもしれないというアリターナの疑念を解いてもらいたい。
それはグワラニーがウベラバに対して語ったアリターナ軍の撤退開始までに要する日数と、それまでの対処方だった。
そして、そのグワラニーの言葉はウベラバにも妥当なものに思えた。
だから、グワラニーからその話を聞いた翌日にアリターナ軍陣地から停戦の使者が姿を現わし、その翌日から撤退作業が始まったとき、ウベラバは大いに驚いた。
「撤退自体は本物なのだろうが……」
「そこまで急ぐ理由は彼らにあるとは思えんが……」
漏れ出したという表現がふさわしいウベラバの言葉にキリーニャとベンアララングアも頷く。
「まるで、期限を切られ、そこまで撤退が完了しなければ罰を与えられるような印象です」
「まったくだ。だが……」
キリーニャからやってきた答えになりそうなものにとりあえず肯定的に応じたものの、それでも疑念が払しょくできないウベラバはその根拠となるものを提示する。
「……言いたくはないが、押されていたのは我々だ」
「もしかしてグワラニーがアリターナに撤退期限を示していたのでしょうか?」
「そのようなことは何も言っていなかったな」
「では、なんでしょうか?」
「やはり奴ら自身の問題なのだろう」
……まあ、そういうことであれば理由になりそうなものは多くない。
部下たちとの会話によって結論を導き出したウベラバは呟く。
「奴らは渓谷内でグワラニー軍の力を見ている。そして、慌てて「赤い悪魔」を送り込んできたことから考えればクペル平原の出来事も知っている」
「……そして、思った」
「次は自分たちの番だと」
「……だが、大幅な領土割譲を覚悟した交渉のテーブルで、驚くほど自分たちに利のある条件が提示され、後先考えず署名し、停戦が妥結した。こうなれば、相手の気が変わらぬうちにすべてを終わらせ、手打ちを完了してしまおうということなのだろう」
「停戦協定は書面でおこなっているのだからまちがいなく有効だが、その一方で相手が義務を履行しなければこちらだって守る義務はない。グズグズとやっていたらそれを口実に協定破棄をされる。唯一の不安要素であるその事態が万が一にも起こらぬための見上げた努力」
「それが日頃何をするにも時間がかかるアリターナ人とは思えぬ早業の正体」
アリターナの慌てふためきぶりを嘲り笑ったところでウベラバは別の思いを呟く。
「……それにしても……」
「圧倒的力を見せ、その後言葉で脅す。しかも、相手に逃げ場を与えながら」
「戦わずに勝つ」
「……このような戦い方もあるのだな」
ウベラバは撤退するアリターナ軍を眺めながらそう呟いた。