表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十二章 Half-Landing Show
144/376

驚くべき結果

 相手があのアリターナであることを考えれば最低でも五日は必要。

 最悪十日ということもあるだろうが、とりあえず、こちらは防御を固めることに専念し、背を撃たれるかもしれないというアリターナの疑念を解いてもらいたい。


 それはグワラニーがウベラバに対して語ったアリターナ軍の撤退開始までに要する日数と、それまでの対処方だった。

 そして、そのグワラニーの言葉はウベラバにも妥当なものに思えた。

 だから、グワラニーからその話を聞いた翌日にアリターナ軍陣地から停戦の使者が姿を現わし、その翌日から撤退作業が始まったとき、ウベラバは大いに驚いた。


「撤退自体は本物なのだろうが……」


「そこまで急ぐ理由は彼らにあるとは思えんが……」


 漏れ出したという表現がふさわしいウベラバの言葉にキリーニャとベンアララングアも頷く。


「まるで、期限を切られ、そこまで撤退が完了しなければ罰を与えられるような印象です」

「まったくだ。だが……」


 キリーニャからやってきた答えになりそうなものにとりあえず肯定的に応じたものの、それでも疑念が払しょくできないウベラバはその根拠となるものを提示する。


「……言いたくはないが、押されていたのは我々だ」


「もしかしてグワラニーがアリターナに撤退期限を示していたのでしょうか?」

「そのようなことは何も言っていなかったな」

「では、なんでしょうか?」


「やはり奴ら自身の問題なのだろう」


 ……まあ、そういうことであれば理由になりそうなものは多くない。


 部下たちとの会話によって結論を導き出したウベラバは呟く。


「奴らは渓谷内でグワラニー軍の力を見ている。そして、慌てて「赤い悪魔」を送り込んできたことから考えればクペル平原の出来事も知っている」


「……そして、思った」


「次は自分たちの番だと」


「……だが、大幅な領土割譲を覚悟した交渉のテーブルで、驚くほど自分たちに利のある条件が提示され、後先考えず署名し、停戦が妥結した。こうなれば、相手の気が変わらぬうちにすべてを終わらせ、手打ちを完了してしまおうということなのだろう」


「停戦協定は書面でおこなっているのだからまちがいなく有効だが、その一方で相手が義務を履行しなければこちらだって守る義務はない。グズグズとやっていたらそれを口実に協定破棄をされる。唯一の不安要素であるその事態が万が一にも起こらぬための見上げた努力」


「それが日頃何をするにも時間がかかるアリターナ人とは思えぬ早業の正体」


 アリターナの慌てふためきぶりを嘲り笑ったところでウベラバは別の思いを呟く。


「……それにしても……」


「圧倒的力を見せ、その後言葉で脅す。しかも、相手に逃げ場を与えながら」

「戦わずに勝つ」


「……このような戦い方もあるのだな」


 ウベラバは撤退するアリターナ軍を眺めながらそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ