苦き味の祝杯
アリターナ王国の都パラティーノに戻ったチェルトーザはすぐに王宮へ赴き、交渉結果を報告する。
大臣たちともにその報告を聞いていた王は小さく頷く。
「……素晴らしい。さすがだな」
大臣のなかの何人かは東方平原で大幅な後退があったことを咎めたが、王の視線がそれを黙らせる。
実はクペル平原でおこなわれたグワラニーとボナールの戦いの詳細がフランベーニュから王の耳に流れ込んできていた。
魔族は魔法一撃で四十万人のフランベーニュ軍を葬った。
さらに、それは魔族がフランベーニュの大軍に包囲された状況下で起こり、その攻撃をおこなった魔族にはまったく影響を与えず、彼らは無傷であったことも伝わる。
その情報を聞かされていた時、王は側近たちにもその心情をこのように伝えていた。
「驚くべき戦力を有した今の魔族に停戦する理由などない」
「さすがのチェルトーザでも、今回ばかりはよい結果をもたらすのは難しいだろう」
「そして、魔族との停戦が成立した場合、その代償がどれほどのものであってもそれは交渉成功と見なす。反対意見は認めない」
そう覚悟していた王をはじめとしたフランベーニュの状況を把握している者にとって、チェルトーザがもたらした結果は言葉では表せないほどの成功といえる。
チェルトーザたち三人は個人的に、そして「赤い悪魔」は組織として多くの褒美を賜る。
もちろん結果だけを考えれば、妥当なものといえるのだから異議を唱える者はいなかった。
その授与式が終了した夜。
三人の顔には笑みがあった。
と言っても、それは誇らしさからのものではない。
どちらかといえば、まったく逆の要素が多分に含んでいるものであった。
「敗軍の将に多額の褒美を出すとは我が国は随分と景気がいいようだな」
「ですが……」
自嘲の極みというべきチェルトーザの言葉にそう反応したのはアルタムラだった。
「チェルトーザ様はグワラニーと対等に交渉されていました。私なぞチェルトーザ様の足を引っ張るばかりで……」
「それは私も同じです。それなのに、このような過分なものを頂いてしまい申しわけありません」
「まあ、それは全員の反省点だな。そして、ハッキリ言って今回は大敗だ。だが、国威発揚のためにも負けたことは口外するわけいかない。そして、陛下もおっしゃっていたとおり、我々が出かけていなければこうならなかったというのも事実。自分たちが頂点ではないことを認識し精進しようではないか」
チェルトーザが自分自身に言い聞かせるようにそう言うと、ふたりの男も頷いた。
「まあ、そういうことで、まずい酒だが、とりあえず……」
「乾杯」




