悲しき凱旋
さて、リブルヌたちの話が一段落したところで、舞台をミュランジ城から南に移動させよう。
フランベーニュ王国の都アヴィニア。
その「クペル平原会戦」とボナールの敗死した日の夜。
ミュランジ城からの急報を届ける使者が王宮にやってきた。
だが、その使者カッセル・レオナールにとってここからが難関だった。
立ち塞がったのは、「王は陽が沈んでからの面会はおこなわない」というとんでもルール。
もちろんミュランジ城からの急報であると伝え、王への面会を求めたのだが、瞬殺ともいえるくらいの速さで門前払いを食らう。
次善の相手として指名した宰相や関係大臣たちの面会取次も断られたレオナールはまさに万事休すの状況に陥る。
だが、ここで一條の光が差し込む。
困り果てたレオナールの姿を見かねた衛兵のひとりから、「第三王子なら取次できる」というありがたいお言葉を頂いたのだ。
これぞ天祐。
だが、その瞬間、レオナールの眉間に皺が寄る。
……よりによってあの馬鹿王子か。
そう。
世間一般では、その王子ダニエル・フランベーニュは、馬鹿揃いの王子のなかでも最高の馬鹿ということになっていたのだ。
だが、背に腹は代えられない。
藁にも縋る思いで面会の取次を依頼する。
どんな馬鹿でも王族は王族。
重要案件を伝えられないよりは遥かにましだという思いで。
だが、これが結果的に当たりとなる。
前日の渓谷内での敗北に続き、クペル平原でも大敗北を喫し、二日間で五十万人以上の戦死者を出し、そこに「フランベーニュの英雄」も含まれていることを知ったときは、さすがに声が出なかったダニエルだったが、他の者の数十倍の速さで立ち直ると、王を含む各所への連絡を自らの名でおこなうことを約束する。
そして、それはすぐさま実行へ移される。
そう。
王族からとものとなれば、さすがに同じ要求でも無下にはできない。
しかも、世間の評判とは裏腹に第三王子が王の信頼を誰よりも勝ち取っているのは王宮に関わる者なら皆知っている。
たとえそれが王宮内の決まりがあっても、王の覚えの良い者の要求を拒めば、その後自分のもとにどのようなものがやってくるかは火を見るよりあきらか。
驚くべきスピードで連絡がおこなわれ、結果として深夜の王宮に王をはじめとした主だった者たちが集まることになる。
そして、緊急のことであり、最低限のという表現がつく出迎えのなか、棺に入ったアポロン・ボナールが王宮へ到着する。
それは誰に取っても予想外の形での「フランベーニュの英雄」の凱旋だった。