幕後語り Ⅱ
「ところで……」
八人のフランベーニュ人と彼らを導くひとりの魔族という実に珍妙な組み合わせの一行が姿を消したところで、ロバウはグワラニーに話しかける。
「我が同胞がおこなった愚行を防いでくださったあの少女にお礼を述べたいのだが……」
ロバウのこの言葉は表面だけをなぞれば、感謝の気持ちだけで出来上がっている。
だが、その裏に何があるのかわからぬグラワニーではない。
……自軍を壊滅させた魔術師の情報を手土産にしたいというところか。
もちろん、こちらもその心の声を顔のどこにも出すことない。
何も気づかぬようなすばらしい笑顔でそれに応じる。
心の中でこのような呟きをしながら。
……まあ、あれを見ていれば、それくらいのことは誰にでも思いつく。
……いいだろう。形を変えるがそれに協力して差し上げましょう。
……ただし、あなたが持ち帰る情報は正しいものなのかはわからない。
「彼女はフランベーニュ語も、共通語も理解できないので、私が代わりに礼を受け取っておきましょう」
「それにあれは魔術師が使う攻撃魔法のなかではごくごく簡単なものです。しかも、今回はうまくいきましたが、あのような結果になるのは十回に一回程度なのですよ。なにしろ、彼女は幼く、そして、まだまだ修行中の身ですから」
「ご冗談を……」
やってきた言葉があまりにも意外なものであったため、ロバウは思わず反応してしまう。
ロバウからやってきたその言葉に心が籠らぬ謙遜の言葉を返しながら、心の中でニヤリと笑うと、グラワニーは次の一手を打つ。
「もしかして、『悪魔の光』をもたらしたのは彼女だと思っているのですか?」
そう。
これがグラワニーの一手。
つまり、情報操作。
自軍の強さは披露したが、それをおこなったのが誰を悟られぬようにという。
「まあ、そう思ってくださっているのなら、こちらとしては大喜びですし、危険な場所に彼女を連れてきた甲斐があったというものですが、さすがにそううまくはいきませんね」
「……まあ。それで、あれはどういうことなのでしょうか?」
その言葉に誘引されるようにロバウが問いの言葉を口にすると、グラワニーはまず頷き、それから口を開く。
「いや。あなたがたが我々をどこかで見張っているとは思っていましたので、見習い魔術師の彼女に命じて、演技をしてもらったのですよ。いかにも自分が大きな魔法をおこなっていますよ。というように」
「ですが、よく考えればその程度のことで本当に彼女がそれをやったと確信などできますまい」
「たとえば、彼女の派手な動きをしていた時、近くにいた別の魔術師がどのような動きをしていたかを気にしていればその程度のことはすぐにわかる」
「それどころか、本当に魔術師は三人だけだったのかとあなたがたはずっと疑っていたはず。絶対にもうひとりいるはずであり、その者が、と……」
「まあ、本来であればここまで話す気はなかったのですが、どうやらロバウ殿は聡明な方。私が剣を使えないと言った時点で、魔術師であることを察しているのでしょう。そして、私がこの軍の指揮官であることも考え合わせれば、どのような結論を導き出すからあきらか。小細工を施し隠しても無駄だと思いましたのでここまで話をさせてもらいました」
「まあ、つまり、そういうことです」
もちろんグワラニーの言葉の大部分は嘘である。
だが、それが微妙に真実に近い部分の軌道を周回しているというところが、この嘘が上級なものである証左。
しかも、そこに並べられているものは皆、これまでロバウが抱えていた疑問を解決できそうなものばかり。
知らず知らずのうちにロバウはグラワニーの術中に嵌る。
そして、そこに仕上げとなるこのひとことが加わる。
「これは、こうしてせっかく知り合いになれた方を次の戦いを無下に殺すわけにはいかないという、私なりの誠意のようなものです。今後のご参考にしてくだされば幸いです」




