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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十二章 Half-Landing Show
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幕後語り Ⅰ

「アルディーシャ・グワラニー様の配下、アーネスト・タルファが、フランベーニュ軍将軍アポロン・ボナールとの決闘に勝利したことが確定した」


 別の世界での決闘であれば、中立な立場である立会人が勝利者を宣言するところなのだが、ここではそのような者はいない。

 当然それは勝ち残った者がおこなうことになる。


 数度の呼びかけに応じないボナールに近づき首筋に手を当て、その死を確認したタルファのこの宣言によってこの勝負は決着する。


 タルファは死せるボナールに一礼すると、彼を連れ帰るようにフランベーニュ側に要請するように手が合図を送る。

 それに応じて、ロバウが副官であるモンガスコンに目配せし、大きく頷いたモンガスコン、それに続いて配下の部下と全伝令兵が立ちあがる。


 だが、ここから状況が一変する。


「あの裏切り者を殺せ」


 目を血走らせたモンガスコが上げた怒鳴り声を全員は一斉に剣を抜き、タルファのもとに向かった。


 と言いたいところなのが、それではこの時の状況を正確に表す表現にはなっていないと言わざるを得ない。


 実はモンガスコンの言葉に即座に反応したのは護衛兵たちだけであり、伝令兵たちはその命令の意味が分からず戸惑いの表情を見せていたのだ。

 彼らが動き出きだしたのは、モンガスコンからやってきた更なる言葉の後。

 ただし、一度火が付けば同じ。


「馬鹿者。亡きボナール殿に恥を掻かせる気か。早く戻れ」


 ロバウが大声で引き留めるものの、その声は狂戦士と化した彼らには届くことはなかった。


「これだけの人数が囲めば、裏切り者がいくら強くても確実に殺せる」

「人間でありながら魔族に命を売ったこの世界最大の裏切り者を生きて帰すな」

「絶対殺せ。ボナール様の仇を取る」

「裏切り者の次は、そこにいる魔族ども全員だ」


 口々に喚きながらさらに加速し、タルファに迫る。

 いや。

 加速しかかったところで、さらなる激変が起こる。


 十四人のフランベーニュ人全員の上半身と下半身が突如鋭い刃で切り裂かれたかのように分離したのだ。

 しかも、声を上げるまもなく一瞬にして。

 当然彼らは自分の身に何が起こったのかわからなかっただろう。


「……なに?」


 始まりから終わりまで一瞬のことであったため、混乱状態のままであったロバウであったが、魔族たちがいる場所へ視線を送ったとき、少なくても十四人を処断した相手が誰かということだけは理解できた。


 立ち上がり、杖をフランベーニュ人に向けている少女。


 ……間違いない。


 心の中で呟く。

 それから、転がっている死体をもう一度見る。

 この世で最も汚らわしいものを見るかのような目で。


「……自分たちが自ら起こした災いだ。甘受せよ。そして、向こうでボナール殿に自分たちの愚行を詫びろ」


 自業自得とほぼ同様の意味となるこの世界の言葉を吐き出し、殺された者たちには一瞥をくれただけのロバウだったが、同行者がこれだけのことをやらかした以上、連帯責任は免れない。

 自らの身にこれからやってくるものは、彼らと同類のものであると覚悟した。


 剣を手に近づいてくるタルファにまず詫びの一礼をすると、口を開く。


「愚か者たちがつまらぬことをした。本来であれば私が奴らを成敗しなければならないところを代わりに始末してくれたことを感謝する。だが、私自身はそのようなことをまったく考えていなかったものの、同席したフランベーニュ人が愚かな行為をおこなったことに対しては相応の責任があることは理解している。私を存分に処分してくれて構わない。ただし、奴らの愚行にはアポロン・ボナールは無関係である。彼の遺骸が本国へ戻れることだけは認めてもらいたい」


「ロバウ殿の言葉はグラワニー様に伝える」


 当然、その言葉はまもなくプライーヤたちとともにやってきたグラワニーに伝えられるが、もちろんグラワニーはロバウを処断する気などない。


「神聖な決闘を汚したのはそこに転がっている者たちだけであるし、その者たちにはすでに罰は下った。それ以上のものは必要ない。それよりもクペル城と周辺の引き渡しを将軍の責任でおこなってもらいたい」


 自身の言葉をロバウが承知するのを確認するとグラワニーが続いて口にしたのは決闘で破れた者に関するものだった。


「テーブルを分解して即興でつくるものなので簡易的ではあるが、棺を用意する。そこにボナール殿の遺体を収めて引き渡す。むろん魔法によって防腐措置も施す。だが、それでもそう長くは持たない。だから……」


「すぐにミュランジ城近くまで送り届けることにしてはどうだろう。もちろんそちらに転移魔法を使える者がいないことは知っている。それはこちらが手配する」


「ロバウ殿が信用できる数人を供として出してくだされば……」

「お願いする」


 こうして、ボナールの遺体をミュランジへ移送する話はあっさりと決まる。

 そして、この決定からまもなくそれは実行される。


 その役を引き受けると最初に申し出たのは魔術師長アンガス・コルペリーアであったのだが、結局その役は弟子のセンティネラがおこなうことになる。

 そして、彼とともにボナールの遺体に付き添う八人のフランベーニュ人のひとりは、ボナール軍唯一の生き残りとなった伝令兵の少年だった。


 そう。

 ボナールのあのひとことによってその少年アル・フォアは騒動に巻き込まれることなく助かったのである。

 ただし、その少年がそれを喜んだかどうかは微妙といえる。

 なにしろフォアはあの場で仲間たちと共に死ねなかったことを悔いていたのだから。


 そして、これは完全な後日談になるのだが、クペル城からの撤収と一連の敗戦処理後、フォアはロバウの指揮下に入ることになるのだが、彼はその際に伝令兵から戦闘部隊へ転属した。

 フォアが何を求めてそうしたのかはあきらかであったため、ロバウはそれを許し、自らの従兵とし、身の回り世話をさせながら一から教育していくことになる。

 あらたな「フランベーニュの英雄」を生み出すために。

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