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アグリニオン戦記  作者: 田丸 彬禰
第十章 クペル平原会戦
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姿を現わしたもの Ⅲ

「……敵がエサに食いついていない段階で転移だと……」


 いつもどおりボナール留守中の全軍のまとめ役を果たしていた将軍フレデリック・ロカルヌはその伝言を聞いて少しだけ顔を顰める。


「ボナール様は具体的にどのように言っていたのだ」

「それは……」


 そのオーラに気圧されながら、本隊への伝令としてクペル城からやってきた、アヌシー・モンガスコンはボナールからの命令を寸分違わず伝えたわけなのだが、その概要はこうである。


 魔族の策は我々を集めたところで一気に葬るというもの。

 つまり、援軍はいくら来てもいい。

 それどころか、できるだけきてもらいたい。

 転移避けの魔法を展開させていないのはそのためである。


 さて、その魔族軍であるが、この軍にはふたりの魔術師が同行している。

 このうちのひとりの能力は我が軍の魔術師長ルルディーオより上である。

 そして、その魔術師は渾身の力で結界を張っている。

 当然我が軍の攻撃のどのような攻撃も受けつけない。

 これが現状である。


 しかし、それだけでは何も起きず、魔族がここまでやってきた意味はない。

 つまり、十万人を圧倒する策があるはずだ。

 そうかと言って、たかだか二万人程度では十万人の部隊に圧勝などできるはずがない。

 では、魔族はどのような策をもって姿を現わしたのか?

 言うまでもない。

 どこかの時点で驚くべき才を持った魔術師の魔法を使って攻勢に出るのだ。


 だが、それをおこなうために、その強力な結界を解かねばならない。

 我々はその一瞬を捉えて攻撃をおこなう。

 つまり、敵の策に乗ったフリをして、逆に相手の策を利用する。

 そういうことで本隊は魔族がエサに食らいついたあとに現れる手はずであったが、予定を変更する。


 魔族の攻勢を早期に引き出すこと。

 それから、一瞬の隙を逃さず全面攻勢に出ること。

 さらに万が一、敵が転移避けを展開した場合、本隊が戦いに加われないという事態が起こりかねない。

 転移できるうちにおこなうべき。


 この三点の理由から本隊もあらかじめ現地に置くことにする。

 だが、こちらが策を読み切ったと気づかれるわけにはいかない。

 そこで若干の小細工をおこなう。


 これから、貴族軍に攻勢を掛けさせる。

 当然結界で阻まれ失敗する。

 そこで援軍として現れたかのように本隊を転移させる。

 そう時間をおかずに転移の命令を出すので、命令があり次第すぐに転移できるように準備をして待っているように。


「……なるほど」


 すべてを聞き終えたロカルヌはその言葉で応える。


「しかし、これではやや余裕がないように思えるのだが……」


 漏れ出した言葉が途切れたのにはもちろん理由がある。

 まず、どれだけ疑念を持っても命令は命令である。

 周りにいる部下の手前それを拒否するわけにはいかない。

 それに命令に意見したくても、目の前にいるのはボナール本人ではない。


 ……やむを得ないか。


 いつものボナールとは何か違うと思いながら、それを受け入れる。

 いや。

 受け入れざるを得ない。


 伝令兵を呼ぶと、その言葉を伝える。


「ギリエに至急連絡。ただちに戦場に向かうようボナール様より連絡があった。すみやかに転移の準備をされたし。なお、策は当初のものから若干の変更がある。詳細は……」


 続いて、ロカルヌは旗下の将軍たちを集め、作戦変更を伝える。

 当然その指示を聞かされた将軍たちのなかにはロカルヌと同じ思いを持った者はいたものの、結論のみで詳細を聞かされていない兵たちは出陣命令に対して大いに沸く。


 今度も勝利間違いなし。

 そして、このまま渓谷を抜け、マンジュークを落とす。


 口々にそのような言葉を口にして。


 ……やると決まったからには兵たちの士気を削ぐようなことをするわけにかない。

 ……それに……。


「ギリギリではあるが、その一瞬を逃さなければこちらが勝つということなのだろう。ボナール様も我々の力量を信じてこの策を準備したのだ。我々もそれに応えなければならない」


 自らが直接指揮を執る将兵に転移準備をさせながら、ロカルヌはそう呟いた。


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