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#93 狂気3

その日の夕方、victory order本社にナホカト国から、護衛騎士を引き連れたロレーヌがやって来た。

遠方の国の王女である彼女には、今回のミッションは伏せていたのに、だ。

この至極のイベントは、victory order社の女性幹部の為の、女性幹部だけが楽しむイベントなのだ。


しかし、彼女は来てしまっている。

内通者の存在にイラッとしつつも、私がするべき事は不届者を炙り出す事ではない。

そう、到着した王女様を笑顔で出迎える事だ。


”彼” に助けられた彼女と私達は、固い絆で結ばれた…… 言わば戦友のようなもの。

と言えば聞こえはいいが、遺恨を残せば ”厄介事の芽が生える” から。これが本音だ。


「今日、victory order本社でラインハート様へのサプライズイベントを行うと、テオ様から聞きまして。

わたしくしも手土産を持参した次第です」

「………… 。ロレーヌ様、テオの情報は少し間違ってますわ。本日は、ラインハートが ”目玉” の女性幹部を労うイベントが行われております。ですが、弊社の幹部以外ですと…… 他言しないと神に誓える乙女だけが参加することを許されるイベントなのですが……

誓えますか?」

「も、もちろんですわっ!!」


内通者は呆気なく判明した。

このイベントが終わってから、生涯、私の邪魔が出来なくなる程度に再教育をしてやろう。

テオは知る事になるだろう。外傷を癒す事が出来る戦闘特化型治癒職の恐ろしさを。


「ッッッッ!!!??」


来てしまったものは仕方無い。

本人も他言しないと誓ったので、小さくなった ”彼” とご対面だ。


対面したロレーヌは絶句した。

理解可能な言葉を発しはしないが、大きく膨らみ、ピンと上を向いた尻尾から、彼女が何を思っているかは凡そ想像がついた。


硬直したまま動かないロレーヌを別室に連れて行き、簡単なルールを説明すると、彼女は口元を押さえながら瞳を潤ませ大きく頷いた。

せめて呼吸ぐらいしろと言いそうになったが、その気持ちも解らなくはない。


「知っているのは、今のところ女性幹部とミア様だけよ。それとロレーヌね。シャーロットは忙しいから、落ち着いたら見に来るのよね?」

「他の皆様には?」

「他の幹部には報せるけど、社員達には社長の親戚って事にしようと思っているわ。本人は出張って事にしてね」


問題はGSU加盟国の君主達だが、私はその日の朝に連絡済みだ。


”社長が体調を崩し寝込んでしまった。

とても…… とても衰弱している。

数日で峠は越すだろうが、しばらくは療養が必要だろう。感染の危険があって、見舞いに来られても面会させる事は出来ない”


「就任早々大変だな。あんたは会社の事に集中してくれ。

帝国関係者の訪問やら、会合やら色々あるが、適当にあしらっとくからよ」


頼もしい君主達だ。

私が連絡を入れた時、弊社の社長は朝食を摂っている真っ最中だったなど、口が裂けても言えまい。

疚しい事をしている罪悪感と、絶対にバレてはならないという緊張感。

とてもエキサイティングな状況に興奮し、不謹慎にも震えていると、テオや支社長達がやって来たので、エスカーも呼んでお披露目だ。


「やっっばっっ!!

お前、クッソ可愛いな!! 私が養ったる!!」

「えっウソ!! 社長なの!? も〜やだ〜! 食べちゃいたいわ!!」

「エヴドニア、スナックのママみたいな事言わないで」


出掛けていたエヴドニアもご対面だ。


「ライを若返らせるって、一体何の話かさっぱりだったけど、そのまんまの意味だったって訳か。

おい坊主、俺達イケメンズはお前の従兄弟だぜ。よろしくな」

「うん!お兄ちゃん達よろしくね」

「認めるしかねぇな。

あいつにも可愛らしい時期があったのは分かったが…… 一体どんな人生送ったら、このガキがあんなヤベぇ奴に成長するんだ?」

「そんな事よりさ、イケメンズって誰よ?」

「なぁなぁ、添い寝のローテーションってどうなってるん? ロレーヌも泊まってくやろ?」


みんなで食事をとり、その日は解散した。

シャーロットは添い寝する日を確認すると、ベルを連れてシェフシャ支社に戻った。

かなり忙しいという噂は本当だったようだが、敵が減るのも、会社の売上が上がるのも良い事だと思う。

敵性勢力が1人減ったが、それでもお風呂の時間はかなりの乱戦になることが予想された。

だが、その予想は外れてしまう。

魔王ミアがしゃしゃり出たのだ。

気に食わないが、”勇者殺し” という札を付けた魔王の、その圧倒的な魔力と凶悪な威圧に脅えてしまった私達は、指をくわえて別室で待機せざるを得なかった。

まるで、狼の食事が終わるのを、尻尾でケツの穴を隠して ”おこぼれ” を待っている雑魚な野犬の様だ。


まぁ屈辱的な時間だったが、初日は私とミア様が小さくなった彼と最初の一夜を共にする予定だ。

お風呂の件はチャラでいいだろう。

しかも、本人のベッドで小さくなった本人とだ。


大好きな人の、心地好い香り……

若返り、小さくなっても変わらない心地好い香り。

その日、私には睡魔は訪れなかった。


………………………………………………………………………………


翌日、いつものように朝食を用意し、まだ寝ているであろう彼を起こしに部屋へ向かう。

部屋に入ると、すでに着替えを済ませベッドに腰掛ける彼の姿があった。早起きする良い子だ。


もし彼と結婚して、子供が出来たら……

こんな光景が日常になるのかな……


なんて邪念が頭を過ぎるが、それを振り払い、食堂へ案内する。


「美味しいー! ルミナお姉さん! これスゴく美味しいよ! 明日も作って!」


目眩と鼻血で死にそうだった。

これが日常になる日が来ればいいのに…… きっと、かけがえのない日々になるだろう。

そんな甘い妄想をしていると、来客の報せが入った。


「うちの娘が行方不明なんです!

探偵にも依頼したんですが、全然ダメで……」


捜索依頼だった。

依頼人は、帝国から移住してきた中年女性。

夫は帝国軍の飯炊き部隊に所属していたが、ある日突然、前線の戦闘部隊に配属され、その数ヶ月後に消息を絶った。

捜索は行われたそうだが遺体は発見出来ず、消息を絶った日には激しい戦闘も発生していないことから、逃亡したと判断され保証金は不支給。

結果、生活に窮困。

昨年、社会保障の充実しているGSUに母子共に移住してきたそうだ。


「娘さんの素行に問題は?」

「問題なんてありません! 持病の悪化で働けなくなった私に代わって、朝早くから夜遅くまで働く良い子なんです」

「こちらの用紙に記入をお願いします。

癖や失踪当日の服装や失踪前後の様子、外見的な特徴は可能な限り細かく記入してください」


恐らく、この ”単なる人探しの依頼人” を私に対応させるという事は、受けるべきか否かの判断が出来かねるという事だろう。

まさか、こんなタイミングで厄介事が舞い込むなんて、ホントについてない。

捜索期間と料金を説明し、諸々の注意事項を説明する。その中年女性は、それを承諾し費用を支払った。


「副社長殿。私とエスカー様は…… 依頼人の夫と顔見知りであります。その夫は気の良い奴で、恐らくエスカー様も覚えているかと」

「それで私に対応させたのね。

場所的に厄介なのも承知で受けたわよ? エスカーを呼んでくれるかしら?」


部屋に来たエスカーに内容を伝え、今回の指揮を任せた。


「捜索範囲には帝国も含まれるから、帝国に少数の…… そうね、2班規模の兵士を滞在させる許可を申請するわ。

もちろん許可が下りない可能性もあるし、そうなれば捜索範囲はかなり限定される。

それも承知で、依頼人は金を払ったわ」

「俺は、野郎の娘にも会った事があるんだが、母親の言う通り素行不良で厄介事に巻き込まれるような娘じゃねぇ」

「なら人攫い?」

「その線は探偵が探りを入れてるんじゃねえか?」

「それもそうね。とにかく、まずはストラス国内から探ってみて」


エスカーに諸々を任せたが、慣れない事をしているせいか、やけに疲れる1日だ。



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