#86 ボクっ娘勇者と魔王様3
それは、あまりにも不愉快な報告だった。
「…… あんた魔王だろ?」
”? あぁそうだが?”
「…… ねぇよ。マジで」
そして、私には理解出来なかった。
殺し合う運命にあるはずの2人が、血みどろの殺し合いではなく淡く甘酸っぱい関係になってしまう方程式が理解出来なかったのだ。
おかげで、混乱を極めた私の口調は荒れに荒れた。
「てか、あんた自分の立場と年齢分かってんのか?
勇者を撃滅する為に派遣された魔王様が、まさか1000も年下の女勇者に手を出すロリコン野郎だったなんてよ。そりゃ大魔王様でも予測不可能だ。
俺みたいな小僧に予測なんて出来るはずもねぇ。だがな、予測は出来なくても、あんたのしてる事は間違いだってのは分かるぜ?」
”何が間違いなのだ?”
「教えてやるよ。あんたは悪しき前例を作っちまったって事さ。
知ってると思うが、勇者が生きてる限り新たな勇者は派遣されねぇ。勇者が寝返ったと分かれば、帝国は勇者の命を狙うだろう。
あんたは勇者を守るために共に姿を消し、それに気が付いた大魔王は、新たな司令官を送り込む。
結果、事実上勇者不在の大陸は魔王軍に呆気なく支配される。
そうなりゃ、神様は勇者以外を送り込んで阻止しようとする可能性が出てくるってもんだろうが! 違うか!?」
”貴様は少し頭が固いぞ?
貴様が魔王軍の兵士で、ミアが勇者だったらどうするのだ?
お互い、立場的に止むを得ず敵対関係になっているだけだ。そうであろう?
それは用意された関係だ。望んだものでは無い”
「その話じゃねぇよ! システムの話をしてんだよド阿呆がっ!!」
”大魔王様は、退役後の兵士の生活など面倒は見てくれぬぞ。それに、貴様の目指している場所は何処なのだ? 永久に睨み合う世界を維持したくば、私をあの場に引きずり出す必要などなかろうよ。違うか?”
「…っ!!」
”勇者以外を送り込んで来る可能性も、それは貴様が勝手に思い描いている仮説に過ぎん”
「バレなきゃ良いって言いたいのかよ?」
”仮に魔王軍が覇権を手にした時、勇者以外が送り込まれる設定だったとしてだ。そうであったとしても、当事者にバレず程良い距離感を保っていれば良いのだ。
勇者が健在で、魔王軍と大陸の民にバレなければ、神が新たな刺客を送り込みたがっても送り込めまい。
大陸の平衡は保たれ、どちらかが支配するでもない現状が維持される限りな”
「しかし……」
”お前も神の意図を知らぬのだろう?
私も知らぬ。
勇者が死ねば勇者が送り込まれる。だが、その理由までは不明。
そうであろう?
神が、我々を永久に争わせたいと思っているなど、一体何処の誰が言ったのだ?
この世に和平という言葉は存在せぬのか?
私と勇者の交際は、全大陸に存在する歪んだ認識に一石を投じるものだ。その先の物語には、貴様の力が必要になるだろう”
「…… 何を勝手な事を!」
”これは予感というものだ。今日の事は、本来であれば貴様にも伏せておくべき出来事だ。
貴様が、イキッているだけのバカな軍事会社の取締役であれば、今、私は貴様と話はしていない。
今、こうやって私が話をしているのはな、今は魔族以外の種族に溶け込んではいるものの、貴様の過去には魔王軍の兵士として生きていた瞬間が確かに在ったという動かすことの出来ない事実があってこそだ”
「…………」
”出生不明、親となった魔族も人族も不明。
だが、貴様には確かに魔族の血と人族の血が流れている。
魔族として生きた貴様は、人族の支配する大陸でも生きていけることを証明した。
図らずも、貴様は我々が共存出来る可能性を示唆したのだ”
「…………」
”報告は以上だ。
私は、貴様は私が思っている以上に口が堅い奴だと確信している”
「…………」
言える訳がない。
勇者と魔王が交際しているという事実が知れ渡れば……
血圧は下がり、私は大きな溜め息を吐いた。
「ライ? 私が勇者だったら、BO1だった頃の貴方はどう接していたかしらね?」
「即座に逃亡するでしょう。ミア様と対峙しても、私には貴女を傷付けるなんて事は出来ませんし、限りなくアリ寄りの無しですが、貴女に殺されたくはありませ…… ん…… し…… !?」
馬鹿な報告に集中し過ぎて、私は執務室に魔王ミアが入って来ていた事に気が付かなかったらしい。
「ごめんなさい。勝手に入ってしまって……」
今判った事は、私の結界が魔王ミアの前では無力だった事と、例の話を早速第三者に聞かれてしまったという事だ。
「ふぅ…… 何時から此方へ?」
「貴方が、ビエラソにロリコン野郎と言っていた辺りからよ? 安心して、その認識は間違いでは無いと思うわ…… でも……」
「で、でも?」
「恋は自由だと思うの、だから年の差は些細な事だとも思うのよ。それより安心して、私は他言したりしないわ」
相変わらずいい女だ。
ロリコン野郎と罵った私と違い、魔王ミアは、数万メートルの深海よりも深い心の持ち主だった。
「ライの浮いた話は聞かないわね。そんな話を聞く日は来るのかしら……」
「そんな話を聞く日は来ないでしょう」
「それは残念だわ。私、実はとても心配なのよね…… ライが一生独り身なんじゃないかしらって」
「なっ!!!?」
まるで、息子の将来を案じる母親のようなセリフを、魔王ミアはポロッと口にした。
私は、魔王ミアから男として見られていないという事実にショックを受け、何処かのロリコン野郎の事など忘れてしまったのだ。
少し寝込んでしまった私は、新たな経験をした。
恐らく、これが ”恋煩い” というものだろう。




