#81 飛び立つ獣人族
「ローガンさん、おめでとうございます。
今、表では採用となった者に書類の配布が行われていますが、貴方には私が直接渡しましょう」
「ありがとうございます!」
「ひとつ聞きたい事があるのですが、貴方の頭の中に響いた声は…… 何と言っていましたか?」
ベル様にも聞かれたが、何の事かさっぱり分からねぇ。少なくとも、念話の類じゃないだろうし……
だとすれば、クラスを確認した時に聞こえた声のようなものだろうか。
「ベル様にも聞かれましたが、覚えがありません」
「…… そうですか、何か聞こえたら教えてください。
直近の予定なのですが、明日の午前中は制服の採寸や……」
社長が不機嫌になったり不思議そうな顔をする事はなかったが、すぐに別件について話し始めた。
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「社長殿、提示された能力要求書に基づく訓練プログラムの草案をお持ちしました」
「ご苦労様です」
私の管理が行き届く victory order本社では、試験的に3個中隊規模の緊急即応部隊の育成が進んでいる。
エスカーや各支社長直轄の特殊作戦群、つまり最精鋭部隊の支援まで担当可能な兵士達だ。
有事の際には、6時間以内にGSU領内の何処にでも展開できる機動力を重視しており、それ故に配属される兵士は軽武装が好ましい。
敵地で1週間程度の継戦能力があれば上出来だ。
ローテーションで、1個中隊に常時出撃体制を維持させる。
そんな部隊にローガンを配属して、行く行くは小隊長を任せたいのだ。
「ローガンさん、貴方の頭の中に響いた声は何と言っていましたか?」
「それが…… ベル様にも聞かれたのですが、何の事かよく分からないです」
「クラスを確認した時と同じようなものですが、近々聞こえる可能性はありますので、その時は教えてくださいね。
明日は、午前中に制服の採寸を行いますが、午後からはフリーです。明後日には入社式が行われ、その夜は歓迎会もありますので楽しみにしておいてください」
「はい。あ……社長、話は変わるのですが、正社員として訓練が始まれば、魔法の訓練も受講出来ますか?」
それは確かに気に掛るだろう。
ローガン以外は、少なくとも何かしらの魔法を使用して有利に立ち回っていたのだから仕方無い。
「その件ですが、教官達は私が貴方に魔法の使用を禁じていると思い込み、訓練を行わなかっただけなのです」
「えっ!?」
この際だ。伝えていなかった ”本来ならば最初に伝えておくべき事” を伝えよう。
「一緒に体力作りをした社員達…… シェフシャ支社で一緒に戦闘訓練を受けたりした者達ですが、強かったでしょう?」
「は…… はい。全員が化け物じみてました」
「彼等が受講していたのは、分隊副隊長選抜プログラムです。つまり、素人で仮採用の貴方に、何も知らせずに選抜プログラムを一部受講してもらいました」
「えっっ!!?」
「それと今回の採用試験なのですが、前衛戦闘職に限定したもので、貴方以外の全員が実戦経験者です」
「えっっ!!!?」
”スキル反逆者の構築が完了しました。状況に応じた各種能力の最適化をフルオートで実行中。上昇する戦闘力を心行くまでお楽しみください。
詳細はステータス画面まで”
「えっっっっ!! 今っ!!???」
「ローガンさん!? まさか声が!!??」
どこかしまらない彼だが、無事に ”反逆者” となったようで何よりだ。
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「物資の積み込み完了!
ローガン、今回はイヴエの森に近いから少々ハードになるだろう。
頼りにしてるぜ?」
「おう!」
今回の任務は、希少な薬草採取の護衛と、道中立ち寄る村の外れに出来た魔物の巣の殲滅だ。
2週間の遠征になる。
社長曰く、俺の配属先は緊急即応部隊になるって言ってた。
だから、要人警護や市街地戦闘は勿論、山岳戦や森林戦も可能な限り経験しまくれって。
だから、色んな任務をこなして経験値を稼いでる。
「お前の配属先が即応部隊じゃなかったら、今頃大変な事になってただろうよ」
「何でなんだ?」
「一緒に訓練プログラム受講してた奴等の半分は、予定通り分隊副隊長になってる。
プログラムが終了する前から、是非ともお前を部下にしてぇって皆んな言ってたんだ」
あの時、教官に詰め寄ってたのは、俺の愚痴をぶちまけてたんじゃなかった。
そんな話を聞いて、俺の次の目標が出来たんだ。
配属される即応部隊は3個中隊で、その中隊は4個小隊で編成される。
分隊副隊長になった人達に、あの時、俺を部下に欲しいって言った事は間違いじゃなかったって思って欲しい。
俺は小隊長になる為に、その日も全力で駆け抜けた。




