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#80 反逆した獣人族

試験最終日。

結局、昨日残ってた奴ら250名程は更に減って、200名ぐらいが最終日まで残った。

極度の疲労を溜め込みながらも、勝利への執念で負荷を限界まで薄めさせる。

そんな状態で、俺達はその場に立ってた。


「各自、受験番号を伝え武器を受け取れ!!

お前達の自前の武器をコピーし、形状や重さはそのままに殺傷力を抑えた代替品を用意してある!!」


昨日の夕食後の事だ。

エヴドニアさんが、手甲を見せろと部屋に来た。

シェフシャ支社での戦闘訓練の時には装備したが、それ以降は手甲を装備して訓練をする機会が無かった。


「…… ? ちょっと着けてみてくれる?」


言われるがままに手甲を装備しようとしたが、明らかにサイズが合わなくて着けられなくなってた。


「そりゃそうよね…… ちょっと待ってなさい。

社長に相談して来るわ」


エヴドニアさんは、そう言うと社長室に行ってしまった。

サイズが合わなくなってたみたいだが、少しは逞しくなったって事だろうか。


「社長は本当にコレがいいの? 私はもう少し攻撃的な方が好みだわ」

「それも悪くはないのですが、鋭利なものを防げれば充分だと思います。最終的には彼に選ばせますがね」


部屋の外から、社長とエヴドニアさんの話し声が聞こえて来た。

すっげぇ気になるんだが、性格的に盗み聞きしてましたってモロバレするのは嫌だから、ノックされるまで大人しく横になって待ったんだ。


「ローガンさん、ちょっと良いですか?」

「はいっ!!」


ドアを開けると、カートに山盛り載せられた手甲と共に社長とエヴドニアさんが立ってた。


「申し訳ないのですが、部屋に入っても良いですか?」


少し困った顔で、社長は言うんだ。

それもそのはず、ここは社宅で、そんな所に社長が居るもんだから、何事かと社員達が集まって来ちまってた。


「ローガンさん、体作りは順調のようで何よりです。明日使用する手甲を選んでもらおうと思いまして、何種類か持って来ました。丁度いい機会ですので、好みのものを選んでください」

「私は、この大きな爪が付いたのとか、拳の部分に刃物が付いているのが良いと思うわ。最高に効きそうでしょ?」

「エヴドニアさん。それを選ばざるを得ない空気になりますので、好みを口走らないでくださいね」


仮採用になってから、死ぬ前兆なんじゃねぇのかって思うような信じられねぇ出来事が起こってる。

まぁ、実際に何度も死にかけちゃいるが……

今みたいに、社長がわざわざ装備選びに立ち会ってくれてんだ。


社長は何かを期待してるのか?


だとしたら、一体何を期待しているんだ。

俺なんて、社長からすりゃ蛆虫以下の気に掛ける価値もねぇ奴なのによ。


「これにします。

シンプルで防御力が高そうな所が気に入りました。一番手に馴染みましたし」


用意された手甲の中から、一番シンプルで飾り気の無いのを選んだ。

鈍く黒光りする仕上げも気に入ったし。


それを伝えると、社長とエヴドニアさんは一瞬黙り込んだ。


「…… では、これはローガンさんにプレゼントしましょう」

「微調整の必要も無さそうね。

模擬戦は、これのコピー品で戦うことになるけど、本物を装備して任務に就けるように精一杯頑張りなさいよ?」

「あ…… ありがとうございます……

頑張ります! ……?」


社長はいつも通り笑顔だが、エヴドニアさんは微笑みながらも額に血管が浮いていた。

不味い選択をしたのかも知れないが、学のねぇ俺にはよく分からねぇ。


…………………………………………………………………………………


「社長、プレゼントしちゃうなんて気前が良いわね。アレは確か世界初の金属なのよね?」

「仮の入社祝いですよ。

何となくとはいえ、あれを選んだのです。サイズも丁度良かったですし、選んでくれたのならプレゼントしたくなりますよ、製作者としてはね。選んだ彼の目も、作った私の鍛治の腕前も捨てたものじゃないでしょう?」


最近、魔鉱石に含まれる希少金属を発見し、その精錬に成功した。

それを混ぜ込んで作った合金は、魔力を通しやすく、異次元の粘りを持ちながらも瞬間的かつ爆発的な衝撃に滅法強い。

そんな金属に成り上がったのだ。


「ですが、飽くまで ”仮” です。

今の彼の立場と同じようにね。

明日、彼は辞退しない限り正社員として採用される事が確定していますが、アレの本物を再度手に出来るかは分かりません」

「………… まだ試すの?」

「エヴドニアさんも気付いているでしょう? 我が社の採用試験に ”招かれざる客” が紛れ込んでいます」

「…………」

「お客さんは、当然ですが顔の売れていない若手で、運良く採用されれば、新入社員が知る事の出来る程度の情報ですが、一定期間勤め上げて自主退職し持ち帰る。

どうせ持って帰るなら、違うものを持って帰って、主に報告を上げて欲しいと思っているんですよ。

数ヶ月しか訓練を受けていない仮採用者の、その戦闘力に関する報告書とかね」


…………………………………………………………………………………


「何なんだよ…… あの動きはっ!」

「お前もか? 俺もこっ酷くやられちまったが……

正直まだ理解出来てねぇ」


最終日、俺は勝ち進んでた。

何故かは分からねぇが、俺は勝ち進んだんだ。


「あのローガンって野郎は、身体強化どころか魔力探知さえも使ってねぇんだ。

おつむの出来が悪過ぎて使えねぇ可能性もあるが、とにかく魔法の ”ま” の字も使っちゃいねぇよ。

魔法を使わねぇなんて、まったく馬鹿な野郎もいたもんだと思ったがよ。

終わってみりゃ、小便漏らすまでボコられて退場させられてんのは俺達の方だった」


最終日まで気が付かなかったが、受験者の中に魔導師は1人も居ねぇ。

揃いも揃って前衛職ばかりだ。


だから、ルールは単純だった。


お互いが定位置についたら、合図も無く試合開始。

目を狙った攻撃は禁止。

物理防御結界は初級まで。

敗北宣言か、起き上がって来なくなりゃ終了。


それ以外は何でも有りだ。


強度を実感出来るのは中級からで、初級の物理防御結界は、程度に差は有るが緩衝材みたいなもんだ。


「当たらねぇんだよな…… 大きく体勢が崩れるように誘っても、そもそも崩れてくれねぇし」


喉元を狙った鋭い刺撃が視界に入る。

その切先が、俺の喉元に届く前に身体は動く。

別に、そいつの攻撃が遅過ぎるなんてことは無くて、正直、冷や汗かくぐらい速いのは確かなんだが。


「ぐはぁっ!!」


そいつの刺撃を躱し、躱すと同時に叩き込まれる鼻先へのカウンタージャブ。

鼻血と涙で、視界も呼吸もおシャカになった相手の顬に、問答無用で叩き込まれる必殺のストレート。

他人事みたいに言ってるが、それをやってんのは俺だ。

だが、他人事のように言いたくもなる。

何故なら、誰かにアシストしてもらってるみてぇに、俺の身体は無意識に動いているからだ。


……………………………………………………………………………………


「社長殿、ローガンに個別指導を?」

「いいえ、私は何も。

アントニオ、貴方が言いたい事は分かります。

ローガンは準々決勝まで上がって来ましたが、初戦と比べると明らかにキレが増している。

相手が疲弊しているからでしょうか? いいえ、相手が疲弊しているのなら、彼も疲れているでしょう。

それに、勝ち進んで来る者達は、やはりそれ相当の力を持っている。

今、彼と試合をしている者は…… 我が社の基準でD+、ギルド基準ではC+で、こなした討伐依頼の数も内容もまずまずです」

「…………」

「そう、経歴を見る限り…… 明らかに格上の相手です。普通に考えれば、まず彼が勝つことは不可能。せめて何かしらの策と魔法か、あるいは高性能なスキルがなければ、ます勝てません。

アントニオ、貴方は反逆者というクラスの者が授かるスキルをご存知ですか?」

「いいえ、クラス反逆者のスキルは聞いた事がありません」

「はるか昔の記録では、”俊足” と”リスクセンサー” 、そして稀に ”反逆者” というスキルを授かるらしいですよ。

スリや追い剥ぎが、素早く獲物に近付き、そしてその場から可能な限り素早く退散する為の ”俊足”

邪魔が入る予感や、返り討ちにあう危険を敏感に察知する ”リスクセンサー”

そして、稀にではありますが、不屈の心を条件に、格上の相手を凌駕する戦闘力その他を付与する ”反逆者”

盗みであろうが、殺しであろうが、下克上であろうが…… 精一杯努力している者には、この3つのスキルのうち、どれかが与えられる可能性が今のところ高い。

その中でも高性能な、この反逆者というスキルですが、際限なく格上を超える戦闘力を与えるものではなく、実際には常軌を逸したバフを付与するパッシブスキルでしょうね」

「では、ローガンのスキルは」

「まだ覚醒はしていないようです。避ける程度なら、リスクセンサーが与える恩恵の一つである可能性も捨てきれない」


…………………………………………………………………………………


「ローガン、お前の頭の中に何か声は聞こえたか?」

「え…… っと、半日行軍の時の念話ですか?」

「…… そうではない。決勝戦の前に余計な事を聞いてすまなかったな」


突然ベル様が話し掛けてきたかと思えば、俺の答えを聞くやいなや、不思議そうな顔をしてどっか行っちまった。

もしかしたら、これも試験の一環なのかも知れねぇ。

だとしたら、多分減点食らっちまった俺は、模擬戦で優勝しなきゃ社長にも愛想尽かされちまうだろう。


「テメェが上がって来るって思ってたぜ。だが臭ぇ犬野郎には勿体無い舞台だ」

「…………」

「ブルっちまって声も出ねぇか?

そんなテメェに選ばせてやるよ。棄権するか、地べたに頭擦り付けて手加減してくださいって懇願しろや」


決勝戦の相手はハンスって奴だが、獲物の切先をこっちに向けながら舐めた事を言ってくる馬鹿野郎だった。

よく良く見れば、二の腕や首には大きな傷があって、修羅場は何度も経験してんだろう。

デケェ態度は伊達じゃないってこった。


「場外どころじゃ済まねぇぞ」

「あ? 何言ってんだテメェは」

「最後に、テメェのケツを敷地の外までブッ飛ばして優勝すんのは! この俺だってことよッ!!」

「テメェ死んだぜッ!!」


魔法で強化してんだろうが、そこそこ大振りな剣を片手で振り回す膂力は目を見張るもんがある。

俺は、ハンスの斬撃を相変わらず最小限の動きで回避してた。その時は、コイツのファイトスタイルは片手剣術で、それ以上でも以下でもないと思い込んでたんだ。


「馬鹿が、ちょかまか避けやがって」


横薙ぎの一閃をバックステップで躱す俺に、ヤツは刃に載せて攻撃術式をぶっ放しやがった。

決勝戦まで、コイツ以外は武器を媒体に魔法を発動させるなんて器用な事をやってのける相手は居なかった。


「くっ!」


流石に面食らっちまったよ。

斬撃と同時に魔法が飛んでくるなんて初めてだから、当然、避けきれずに鎧は裂けて、胸には大きな裂傷が刻まれちまった。

後で聞いたが、接近戦闘の最中に魔法を行使するってのは簡単な事じゃないらしい。


「クソ犬野郎、どうだ? ぼちぼち敗北宣言が喉の当たりまで上がって来てんじゃねぇのか?」


敗北宣言の ”は” の字もねぇが、かなり不味い状況だ。

後ろに飛べば魔法の餌食、だからと言って懐に入れてくれるほどの優男でもねぇ。

そんな事を考えてる間に、斬撃と魔法の合わせ技が飛んできやがった。まったく、堪え性の無い野郎だ。

味をしめたハンスは、徹底的に ”例の斬撃” を飛ばしてきやがるんだ。

おかけで、俺は全身隈無く切り傷だらけにされてた。


俺がどんだけ弱っていようが、ハンスには関係ねぇ。それは分かってるし、今更、床に頭擦り付けて手加減してくださいって頼んでも手加減なんてしてくれねぇだろう。

そんな事を考えながら、またしても斬撃をバックステップで躱すのが精一杯だった俺は、追いかけてくる魔法を力いっぱいブン殴る事しか出来なかった。


「なっ!?」


だが、奇跡が起きた。

思いっ切りブン殴ったら、魔法が砕けて消えたんだよ。


会場は大いにざわめいた。


これも後で聞いた話だが、斬撃に載せて ”放つ” のも難しいらしいが、それより、纏って ”武器化” する方が難易度は更に高いらしい。

魔法の基礎さえも学んでねぇ俺には分からなかったが、ギャラリーは確かに見たって言ってたんだ。

俺の拳が魔力を帯びた瞬間を。


勝機を見出した俺は、惚けてるハンスに迫った。

剣を握る親指を狙った打撃は、指の骨と手首を砕き。

手から離れた剣は場外に蹴り飛ばした。


掴み掛かるハンスの左右の鎖骨の間、つまり首の付け根ぐらいの部分にある…… 鍛えようの無い急所に貫手をぶち込んで引き剥がす。

仰け反るハンスの鳩尾に、遠心力をこれでもかと効かした渾身の後ろ蹴りを叩き込んだ。


「そこまでッ!! ローガン! お前の勝ちだ!!」


敷地外は無理だったが、闘技場から弾き飛ばされたハンスは会場の壁にブッ刺さってた。


「やりやがったっっ!!

公開殺人になっちまうだろうって思ってたが、ローガンの野郎は運命を捻じ曲げやがったのさ!!

”最っ高にクールな反逆者” だぜっ!! クソッタレめッ!!」


その瞬間、予定されてた選考フローは全て終わり、気が付きゃ全ての課題で、俺はトップだった。


「ローガン、良くやった。

今日で仮採用は終わりだろう。だが、”今は” まだ仮採用者だ。 お前への最後の命令だ」

「……?」


”誇れ”


訓練中、険しい表情を崩さなかったアントニオ教官の、その一言を言った時の緩んだ顔は今でも忘れねぇ。


「ウスッッ!!」


俺は


生まれて初めて死ぬほど取り組んで


生まれて初めて1番を獲り


生まれて初めて勝ち名乗りを挙げ


生まれて初めて大勢の祝福を得た


そして、それは誇りとして心に刻み込まれたんだ。


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