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#79 獣人族の採用試験2

2日目の試験が終わり、引き摺られながら医務室に着いた。

そこには、伝言通りシャーロット様が待っててくれて治療が始まったんだ。


「ローガン、お前ぶっちぎりで1等賞だったらしいな! やるやん!

だから、オマケで体力も回復させてやりたいけど、それやると失格になるからゴメンやで」


個々の回復力も査定に入るんだろう。

凄まじい疲労感は有るが、足の具合は絶好調だ。他の連中は、本社の回復職が治療して回ってた。

体力測定最終日は、朝9時からって事になってて、結構時間的にゆっくり出来る。だが、俺はメシをかき込んで、さっさと部屋に戻った。

しっかり回復してぇし、とにかく眠たいんだ。


……………………………………………………………………………………


翌朝、早めに寝たからか、それとも緊張感からか、5時頃に目が覚めた。

試験は9時からだが、二度寝してる暇はねぇ。

体力測定も最終日だし、昨日よりもハードな試験になると思った俺は、軽食を食べて一息ついたらストレッチに精を出した。

治療してもらった足の具合は信じられないぐらい絶好調で、あんだけ走ったのに筋肉痛さえも無い。

シャーロット様の治癒力もとんでもないが、そんな人財を国家以外で抱えてる victory order社は改めてとんでもない存在なんだと感じたもんだ。


8時半に試験会場に入ったが、やっぱり昨日の疲れは半端じゃないって事だろう。

まだ10人も居なかった。


最初はそう思ってたんだが、開始時刻が迫るにつれ、それは勘違いだった事に気が付いたんだ。


結局、開始時刻の5分前に会場入りしたのは250人程だったんだよ。 来なかった連中は、辞退か失格だった。


「これより試験を開始する!

10名~12名の班になり、用意された丸太を20km先の目的地まで担いで行け!!

5分の小休憩を挟み、なるべく早くスタート地点まで戻ってこいっ!!」


俺もだが、見渡す限り疲労困憊ってツラしてる。

用意された丸太は、少なく見積もっても1tはあるだろう。

往復で40km、休憩有り。目の前の丸太さえ無けりゃ、受験生全員が昨日に比べりゃ楽勝だって思えるんだろうけどな。


周りにいた連中と班を組んで、いよいよスタートだ。

今回は順位も気にしなきゃならねぇし、ヘバッてもらっちゃ敵わねぇ。


「俺はローガンだ。折角3日目まで生き残ったんだ、意地でも突破してやろうぜ」

「お前、昨日ぶっちぎりでトップだった奴だよな? 要らねぇ心配してんじゃねぇよ。てめぇに言われるまでもなく、こっちはそのつもりだからよ」


どうやら、やる気満々らしい。

コイツの言う通り、要らない心配なら良いんだが。


試験が始まり、俺達の班は必死コイてトップを維持したまま目的地まで到着した。

丸太を置いた瞬間から、5分間の小休憩だが、キッチリ5分間休まされる。


「残り10秒切ったぞ!! 戻りの準備をしろ!!」


その言葉に、俺達は息を合わせて丸太を担いだ。

しかし、その時何故か…… とんでもない違和感を感じたんだ。


「おい、丸太を担ぐ必要はねぇ! いや、多分置いていかねぇとダメだ!!」


俺は、一緒に丸太を担いでる連中に言ったんだ。


「ローガン、てめぇマジで言ってんのか?

お前、スタートの時に言ったよな? 折角3日目まで生き残ったんだからってよ? 今てめぇが言ったことを真に受けて、丸太を置いて手ブラで戻ったとしてだ。ゴール地点で、テメェらは何で丸太を持ってねぇんだ? って言われりゃ、めでたく俺達全員が不合格になるんだぜ?」

「あぁ、その通りだ」

「俺達には、てめぇの頭が冴えてんのか、それとも昨日の疲れが残り過ぎててシャンとしてねぇのか、その判断が出来ねぇ。

いいか? 俺もテメェも受験生だ。だから、責任は俺が取るとか言うつもりはねぇだろ?俺達が欲しいのは説明だ。 臭ぇセリフよりも納得いく説明をしろよ。な?」


休憩が終わった班が次から次にスタートして行っている中、俺達はスタートせず、まだ不穏な空気の中に居た。

そんな不穏な空気の中、俺の頭は冴えてた。


「思い出せ、試験官の指示だ。

初日も丸太を担いで走ったが、指示の内容は丸太を担いで目的地に行って、丸太担いで戻って来いって言ってた。

だが、今回ゴール地点まで丸太担いで戻って来いとは言われてねぇ。そうだろ?

俺達は、昨日のマラソンで相当疲れてる。

はっきり言って判断力が鈍ってるどころじゃないだろう。

だかな、これが試験じゃなく戦場だったらどうだ?

指示を違えれば俺達が死ぬか、味方の誰かが死ぬんだ。多分、その極限状態の判断力を試されてる。そう思うんだ」

「…… ローガン、もしこの班全員が不合格になったら、ケツにロングソードの鞘突っ込んでマッパで広場に放置してやるぜ? 半殺しの後でだ」

「…… あぁ、構わねぇ」


俺達は、丸太を置いてゴールを目指した。

何も持ってねぇから、出遅れたもののダントツで俺達はゴールしたんだ。

俺達以外にも、何組かは丸太を置いてきた班があった。俺達だけじゃなかったのは、本当に救いだったよ。

全員が戻るまでゴール地点で待機して、試験官から質問を受けた。


「丸太を置いてきた班が何組かあるようだが、その理由を説明せよ!!

ローガン! お前達の班は、何故丸太を置いて帰ってきた?」


メンチ切ってるベテラン社員の圧は半端じゃない。

一緒の班の奴らは勿論、丸太を置いてきた他の班の連中も、盛大に死相を浮かべてたよ。


「丸太を担いで目的地に行けとは言われましたが!! 丸太を担いで戻って来いとは言われておりません!!」


もう、俺には祈る事しか出来なかったよ。

もし、この判断が間違いだったら全員不合格で、俺に限っちゃボコられた挙句、全裸でケツに鞘挿して、街の広場で身体的にも社会的にも死ぬ。

メンチ切りながら、試験官は一瞬黙った。

その一瞬の間、後悔したり、自分で自分を励ましたり色々出来た。そのぐらい長く感じた一瞬だった。


「その通りだ! お前達に丸太を担いで帰ってこいとは一言も言っていない!!

戦場では! 正しい判断が出来ない者は長生きできん!! 指示を正しく理解し、丸太を置いてきた班は合格だ!!

担いで帰った班はペナルティとして、丸太を担がずもう一往復して来い!!

不服に思う者は、荷物をまとめて帰宅せよ!!」


……………………………………………………………………………………


解散した後、俺は社宅には戻らず、一番小さい演習場に向かった。

体力測定は今日で終わり。明日は模擬戦だし、少しでも打ち込んで頭と身体のズレを修正しておきたかった……

ってのもあるけど、本音は不安を紛らわせたかったんだと思う。


「おやおや、程々にしておかないと明日の試験に響きますよ?」


何の気配もなく、突然背後から声を掛けて来たのは社長だった。

試験の後、疲労回復を何よりも優先させなくてはならないはずなのに、特殊な金属でできた柱を殴り続ける俺の心中を見透かしているのだろうか。

社長は話し始めた。


「明日の試験は、単純に戦闘力の高さを競い合います。ですが、初戦で敗退しても不合格にはなりません」

「?」

「今日の試験をクリアした者は、漏れなく合格です。

これは不公平ではありませんよ? 上位ランカーには優遇があります。

当然、幹部社員や古参の社員は気に掛けますし…… 同期の者達からは一目置かれます」

「!?」

「そう、分隊だろうが小隊規模だろうが、集団にはリーダーが必要なのですよ。特に我々は軍事会社ですので、軍事的に価値のある集団を創り上げねばならず、それには良いリーダーの存在が不可欠なのです。貴方は、今日の試験で正しい判断をしたと聞いています。

ですが、それだけでは少し物足りない」

「…………」

「明日は分かりやすく示してくださいね」


社長は、そう言うと静かに訓練場を後にした。


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