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#71 獣人族の反逆者

運命というものは、ある日突然、劇的に変化する。そう言い切れるのは、俺にも強烈に変化を感じる瞬間が有ったからだ。


俺の名前はローガン、つい1年前までヨレた服を着て、夜の街で酔っ払いの送迎をしてた。

来る日も来る日も、横暴な態度のくっせぇ酔っ払い親父を馬車に乗せて、金を稼いでたんだ。


15歳は成人と看做される歳で、俺は誕生日の日に、セレウキア王国の孤児院を追い出された。

洗濯もロクにしてないボロ服のまま、俺は全てを自分で何とかしなきゃならない世界に、ある日突然放り出されたんだ。


露店で盗んだ果物を齧りながら、街ゆく人をしばらく眺めてた。商売人や騎士、夜になれば娼婦や仕事を終えた冒険者で賑わった。


眺めながら思ったよ、こんな形じゃ騎士団には入れない。頭も悪いから商売も出来ない。


じゃあ、冒険者は?

俺も男だし、屈強な冒険者に憧れた時期もあったさ。一般人が遭遇すりゃ震え上がって小便漏らすような、そんな魔物を楽々斬り伏せて、肩で風切って街を歩く。俺も頑張って強え冒険者に成ってやるってな。

でもある日解ったんだ。

昔、孤児院で一番ガタイと態度のでけぇ糞ガキと殴り合いの大喧嘩をした時だ。

案の定、楽にボコボコにされた俺は、ボロ雑巾にされて床に這いつくばった。顔には唾吐かれて、それを見て周りは大爆笑だったよ。


その時思ったんだ。

俺は、多分戦いとか向いてねぇし、そんな奴が不相応な事を望んだ結果が、この笑いの渦の中心にいる惨めな自分なんだって。


その時はそう思った。

でもまともな仕事に就けそうにねぇ俺は、このまま何もしなかったら飢えて死ぬ。弱ぇ俺は冒険者になっても直ぐに死ぬ。結局は死ぬんだ。


だったら、奴隷のようにコキ使われて、泥まみれになって食いつなぐより、ブタ箱で残飯食らうより、自分で仕事を選べる冒険者になろうと思ったわけだ。

で、冒険者ギルドに行ったら、先ずはクラスを確認して来いって言われた。

ギルドの隅っこの部屋にある水晶に手をかざすと、頭の中に声が聞こえるんだ。


”貴方のクラスは、反逆者(インスレクト)です”


そう言われて、俺は受付にありのままを伝えた。そしたら、受付のババアは大きな声で ”反逆者ですって!? もう、嫌だわ〜!!” って言いやがった。

途端に背後がざわめきはじめて、俺は居ても立ってもいられなくなってギルドを飛び出した。

孤児院で、クッソうぜぇガキ大将にボコボコにされた時に分かったはずだった。なのに懲りずに分不相応な事を考えたからだって、惨めな自分に言い聞かせながら逃げるようにセレウキア王国を後にしたんだ。

後で知ったんだが、俺のクラス ”反逆者” ってのは、盗賊とかゴロツキに多い、どうしようもねぇ底辺のクラスらしい。


ギルドから逃げ出して、その後向かったのはストラス王国だ。

隣国だし、社会保障が充実してるって冒険者連中が話してたの聞いてて、俺でも何とかやって行けるかもって思ったからだ。

ストラス王国に着いて、騎士に事情を話すと、騎士は商工会に案内してくれた。


”得意な…… もしくは、就いてみたい職業は?”


俺は、 ”戦闘職以外でお願いします” って、無意識に口走ってた。


だが…… ある日、俺は ”最強” を見てしまった。


……………………………………………………………………………


「おい待てっ!! てめぇの財布と馬車の中身を改めさせてもらうぜ!!」

「ちょっ! 勘弁してくれよ!!

俺は仕事中だ! 酔っ払いの相手なんかしてる暇はねぇんだよ!!」


馬車の行く手を阻んだ5人組の男達は、御者の一言にキレた。

そして、その手に刃物を握ったのだ。


「おやおや、悪い事は立て続くものですね。お次は何ですか?」

「お客さん! こんな所で降ろしちまって申し訳ねぇんだけど、申し訳ねぇついでにもう一つ! 俺が死ぬ前に騎士団呼んで来てくれ!!」

「騎士団が到着する前に、貴方は確実に死にますよ? 今日のところは、私に任せておけばいい」


頭数で圧倒しているつもりなのか、それとも、馬車から降りて来た私が丸腰だったからだろうか。

それとも、私の背後で様子を伺うルミナを気に入ったのだろうか。

その男達は、何とも悪い顔で言うのだ。


「いい身なりじゃねぇか。たんまり金持ってそうだな、事の次第じゃ今日は見逃してやってもいい」

「見逃してくれるなら、是非そうしてください。要求は?」

「その女だ。女を置いていけ。そうすりゃ、てめぇと馬車はフリーパスだ」


まぁ、期待を裏切らない馬鹿の集まりだった訳だ。みすぼらしい格好に、魔法を使う気配も無く、朽ちかけのミドルソードやら建設現場から盗んで来たのだろう大きなハンマーで武装しているところをみると、帝国の工作員でもなければ、冒険者の逆恨みでもなさそうだ。


「皆さんは、冒険者崩れか何かですか?」

「そうだよ。今は金持ちくせぇガキをシメてメシ食ってる」

「あぁ、親の性欲だけで生まれてきた可哀想なガキの成れの果てですか。それなりにいい歳のようですが、躾が必要ですね」


私は、指先で男達の顎を弾いて回った。

かなり手加減したつもりだったが、男達の意識は何処か遥か彼方までブッ飛んだらしい。

すっかり大人しくなったと思えば、全員地べたに正座したまま気絶していた。

この手の連中は揃いも揃って臆病者で、人間の皮を被っているだけの ”何か” だ。騎士の巡回時間をマメに調べ、大勢で武器まで持ち出して個人を襲う。

魔物との違いは、仕事をし易い場所と時間を心得ているか否か。


「まったく…… 反吐が出ますよ。

私はね、大切な人を差し出してまで生き延びたいとは思わない」

「ライ、大切な人って…… 私?」

「えぇ、ルミナは私にとってかけがえのない…… とても大切な人です。

御者さん、類は友を呼びます。新手の馬鹿が現れる前に、さっさと出発しましょう」


カツアゲに成功するのも、私に伸されるのも、全てに於いて因果は巡っている。

そう、全ては自分でした事の結果で、全ては自己責任という事だ。

ならば、相手を見るべきで、少なくとも victory order社の者には手を出さない方がいい。

私も社員も、仲間を売ったりしないし、屑の要求には拳で応える。そういう会社で、そういう従業員達の集まりだ。

見て分からない程度の嗅覚なら、カタギになって真っ当に働くべきなのだ。


「?…… 何をしているのですか? 障害物の撤去は終了しましたよ?」

「お客さん…… あんた何者なんだよ!?」

「私ですか? 民間軍事会社を営む者です」

「あんた…… 貴方がvictory orderの!!?」


まぁ、私は表に出て喋る機会は少ないし、御者の彼が受信用魔道具を持っていなければ尚更なのだが…… 彼は私を知らなかった。厳密には、victory order社の社長兼GSUの高官の存在は知っていたが、顔は見たことが無いといった所だろう。


「驚いているところ申し訳ないのですが、そろそろ出発しませんか? また絡まれますよ?」

「俺を雇ってください!! 何でもやりますから!!」


来月に求人をしようと思っていたので丁度いい話だが、彼の素性と動機を知りたい所だ。


「貴方のクラスは?」

「…… 反逆者(インスレクト)です」

「いいでしょう。明日の10時に本社に来てください。受付で、仮採用になった者だと伝えれば、私の執務室に案内してくれます」

「は、はいっ!!」


知りたい所だが、今日はもう遅い。

ルミナは顔は赤いし熱っぽい、早く本社に戻って休ませるべきだろう。

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