#64 準備2
「アグスティナ様、よろしいのですか?」
「…… 構わんよ。魔王軍に貸しを作っておけば、この戦区の司令官が ”あの御方” なだけに和平交渉の可能性が出てくる。
この戦いが早期に終結すれば、魔王軍も悪戯に兵を損耗させる必要がなくなるのだ。悪い話ではないだろう?
それにな、私は奴に大きな借りがある…… 一体、どうやって返せばいいのか解らない程のな」
アグスティナの部下は、それ以上は何も言わなかった。
彼等にとって、アグスティナは畏怖すべき存在というだけではなく、最早、親のような存在であり、次期魔王だ。例え違和感を感じる瞬間が有ったとしても、例え命の危険を感じようとも、結局は、彼等は彼等の意思で命令に従うのだ。
「偵察と警戒を継続せよ。私は暫く空ける、定時報告は3時間おきに」
「了解」
……………………………………………………………………………
「しかし…… アレかな? 彼等は運が無かったって事かい?」
「さぁ、それは分かりません。彼等が普通で、彼等を発見した私の運が良かっただけかも知れませんね」
「で? この後は?」
「本社に戻って、今後の対応について会議を行います。爆発寸前なんですよ…… 我が社の幹部は、揃いも揃って生粋の戦闘民族なので少し落ち着かせなければならない」
「怖いよ。属国が一つ滅ぼされたっていうのに、君らにちょっかい出し続ける帝国が」
「現在進行形で…… それでも帝国はゴンドワナ大陸一の超大国ですから。では」
魔王軍の脅威が無ければ、この大陸の全ての国家はゲヴァルテ帝国の支配下に置かれていた事だろう。
現状をどう思うかは人それぞれだろうが、私は、魔王軍部隊が侵攻している事も、帝国がのさばる事も良しとは思わない。
自分が影響力を存分に発揮出来る新勢力を台頭させ、何処かの超大国も表立って仕掛けられない状況を作り出した。自分の意のままに動く戦闘集団も作り上げた。
食う為に、生きる為に、それ以上堕ちない為に。
最初は、それが叶えば十分だと思っていた。その程度の感覚だったが、今はどうだ?
身に降り掛かる火の粉を払い、行く手を遮る存在を撃滅していく日々の中で、仲間達と穏やかに過ごせたら十分なはずの小さな微環境は、何時しか大きく膨れ上がった組織の歯車の一つと化してしまってしまっている。
だがそれだけなら、それもまた良しだろう。
何故なら、巨大な組織に組み込まれていようがいまいが、どの様な状況でも我々はアクティブに戦い、我々の正義を貫くだけだからだ。
尊きを護り、討つべき者に対しては、どれほど強大な相手であろうとも気高く対峙するのみ。そのスタンスは変わらない。
ただ……
私の求めている理想というべきか、目標というべきか…… いや、進むべき道というべきだろうか。
それとは明らかに違っている気がする。
……………………………………………………………………………
「初めてか? 支社長全員が本社に集まるのは」
「何だかんだで初めてです。安全保障本部で集まった事はあり…… ませんしね」
「みんな! お久やな!!」
彼等を、必要無い場には呼んでいない。
勘違いしないでもらいたいのは、その場に彼等が必要無いのではなく、彼等の貴重な時間を無駄にしたくないが為に敢えて呼んでいないという事だ。
念話で済むなら、念話で済ませばいい。その為に開発した新魔道具でもある。
「早速、本題に入りましょう。
我々を狙った襲撃事件についてですが、状況は極めて難しいと言っていいでしょう。
警戒対象は、難民、商人、冒険者、観光客までと幅広く、場所は人気の無い路地裏から大通りまで、市街地全域が警戒区域となっています。
一転、街の外での襲撃は起きていない」
「ラインハートよ、はっきり言うがな。この件は、俺達幹部クラスにすりゃ天気の挨拶みたいなもんだ。だが新兵からすりゃ、この状況は難しいを超えてる。基礎訓練を修了してるとはいえ、ランクの低い非戦闘員の連中は、丸腰でイヴエの森を散歩してる気分なんだとよ。
目的の森やら山で襲われるのは常だ。だが、連中は安全なはずの街中で襲われてる。どこで気を抜けばいい?」
「困りましたね。薬草採取や狩りは欠かせませんが、それを担う彼等に心を病んでまで従事させるのは不本意です。
なので、彼等に護衛を付けようじゃありませんか。victory order社基準でB+~A-ランク相当の護衛を数名」
「魔物の討伐依頼はどうすんだ?」
「通常通りです。2週間ほどですが、各国の騎士も組み込みます。依頼の受付は続けなくてはなりませんが、何分人手不足ですので」
「その2週間で、俺達は隠れてるゴキブリ共を徹底的に掃除するって事か? ライ、結局何の解決策にもなってねぇぜ? 連中は腕っコキの魔導師で、1発ぶっ放したら転移魔法で即トンズラだ。対応しきれねぇよ」
私の社員達を狙う帝国の連中への対策として、私は魔王ミアに魔導具を用意してもらってある。
現在までに白兵戦は起こっておらず、距離感は様々だが攻撃術式による奇襲が全てだ。
その魔導具は、魔力を込めれば貧弱な簡易結界を展開し、それを破壊した術式を取り込んで魔力パターンをコピーする。
折角送り込んだ工作員全員を、その都度引き揚げているとは思えない。恐らく、セレウキア王国国境付近に出来上がりつつあるサファヴィータウンに転移していると思うのだ。
2週間掛けて集めた魔力パターンに合致する者を探し出し、徹底的に静かに狩って回るという寸法だ。
「全く同じ魔力パターンを持つ者は存在しません。一卵性双生児は例外ですが、この世には連帯責任という都合のいい言葉がある。
社内の厳格な規律や秩序を維持する事と同じく、我々幹部は部下を守る為に最大限の努力をしなくてはならない。
方法はお任せします。一匹残らず狩り尽くしてください」




