#62 悩み事の種
ある日、私は魔族以外の種族にのみ与えられる ”クラス” について考え込んでいた。
クラスとは別に ”固有能力” というものがあるが、スキルとは神から授けられる特殊な能力で、種族に関係無く与えられる。
では、クラスとは?
テオは ”剣聖” 、シドは ”怪盗” 、ヴィットマンは ”狂戦士” で、エスカーは ”暗殺者” ……
彼等のクラスは何れも上位であり、魔王軍内に於いて、それらのクラスの者は相当危険な存在として認識されている。
では、クラスは全ての種族に与えられているかと言えば、答えはNOだ。
クラスは魔族以外の種族の者に、生まれながらにして与えられている ”何か” だ。
「…… !!」
「…… ?」
「ライってば!」
少し、考え事が捗り過ぎたようだ。
ルミナの声も聞こえなくなる程に、私は自分自身のクラスについて考え込んでいたのだ。
「…… ライ、何か考え事?」
「えぇ、すみません。大した事ではないのですが」
因みに、魔族以外の種族は、特殊な水晶から自分のクラスを確認するのだが、確認するまではステータスには表示されない仕組みだ。
問題は、魔族はクラスを与えられていないという事。
何故そう言い切れるのかというと、魔王軍に入隊する際、ステータスの開示を強制されるからだ。
もし、魔族にもクラスが与えられていたとすれば、有能なクラスの者が居れば話題にもなるだろうし、重要な任務にあてがわれたりするだろう。
しかし、魔王軍内にクラスがどうといった話題はなく、単に基本スペックとスキルを確認する為だけのものなのだ。
では、魔族もその他の種族に擬態し、水晶で確認してみればいいと思うかも知れないが、そんな事は遥か昔に試されていて、確認しに行った魔族全員が ”魔族にクラスは存在しません” という結果に終わったという文献を目にした事がある。
純粋な魔族ではない私にはクラスが与えられていて、しかも、そのクラスは ”闇の支配者” という ”全く聞き覚えのないクラス” だ。それは人族と魔族の混血だから与えられたと考えるしかない。
私が思うに、魔族以外に与えられる ”クラス” とは、単なる適性検査の結果とは違う気がするのだ。
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「ラインハート、サファヴィー公国から流れて来た難民の一部が、セレウキア王国との国境近くのクソ田舎で妙な活動をしているらしい」
「…… えぇ、確認済です。難民のツラをした事実上の反GSU団体、ゲヴァルテ帝国の工作員達です。勿論、トリア王国で活動している連中は本隊ではない」
「ラインハート、どの程度の確度なんだい?」
最近、帝国はvictory order社と取引をしていた豪商や地主の粛清を水面下で行っている。そして、 空いたポストに収まったのは、領地を治める貴族が推薦した ”超早期退役” した元帝国軍の将校らしい。
そんな彼等なら、輸出する荷物に兵士を混ぜるなんて朝飯前だ。
近いうちに取引出来なくなるだけでなく、この世とおさらばする日も近いと手紙をくれた商人や、放ってある密偵からの情報なので確度は高い。
「我が社の社員に対する襲撃事件が増加傾向で、最近は負傷者も出ている。
警戒している社員のケツを蹴り上げ、見事に逃げ果せる素人はいないでしょう」
「帝国と競合する勢力が現れたのは、この大陸じゃ魔王軍以外で初めてだ。魔王軍がメンチ切ってる状況で、まともにGSUの相手をするのは分が悪い」
「なので、GSUの正規軍である騎士団は狙わず、victory order社の社員を襲い不安を煽っている。そういう事かい?」
「それだけじゃない。トリアで活動している連中は、表向きは開発されていない不便な土地に率先して住み、畑を耕して家畜を育てて生活しているそうじゃないか。なぁアルザス?」
「あぁ、定期的に巡回しているが治安は良好。何の問題も起こしちゃいねぇ。 ”表向き” はな」
「GSUが厄介事の芽を摘み取れば、帝国やセレウキア王国は人権問題だのジェノサイドだのと騒ぎ出すでしょう。これはGSUの関心事ですが、図体のでかいGSUでは効果的に対処出来ない」
「確かに、我々には体面がある。真っ当な理由も無く帝国の胸ぐらは掴めないね。大所帯になると何処も大変だから、しばらくはvictory order社の仕事って事だね?」
「そういう事です。私は ”準備” があるので、しばらく空けますよ。では」
私が部屋から出た後、君主達は得も言えぬ胸騒ぎを感じていた。帝国の常套手段ともいえる ”力による現状変更” はなく、目に見えない、とても静かな殺意を感じたからだろうか。
「アルザス、アリシオン、我々は経験した事の無い脅威に晒されつつある。私は正直とても不安だ。船出したばかりの我々はか弱く、とても脆い」
「victory order社も我々GSUも、ただ演じるだけですよ。彼の足を引っ張らないように、与えられた役を一挙手一投足違えず演じきるだけさ」
「そうだな。身辺警護を充実させて成り行きを見守ろうぜ」
ストラス城を出た私の目的地は、シェフシャ王国だ。だが、そこに向かう前に寄り道をしようと思う。
「おやおや、珍しい事もあったものだ。
貴様が自ら訪れるとはな、なぁラインハートとやら」
私が寄り道したのは、victory order本社の敷地内に駐留している魔王軍部隊の元だ。
洞窟を改装し、快適な空間を確保したアジトの前で、アグスティナが腕組みをして出迎えてくれた。
周囲は虫ほどの小さな魔力反応が点在しているが、その偽装を台無しにする強烈な殺気で満ち溢れている。
初めて私の元を訪れた時に連れていた雑魚ではなく、正真正銘、アグスティナ直属の精鋭部隊だ。
「貴様は…… 最近重要なポストに就いたそうだな?
良いのか? 護衛も付けずに我々の領域に踏み込んで」
「構いませんよ。損害は少ない方がいい」
「クククッ…… 良い覚悟だ。ラインハートとやら」




