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#60 面倒事

「傑作だな。お前を狙うなんて正気の沙汰じゃねぇ」

「そう、護衛も付けずに外出するということは ”護衛なんて要らないぐらいの猛者” だと冷静に考えるべきだったね」

「いえいえ、私が紳士に見えたからでしょう」


無駄話をしているだけのようだが、今日はセレウキア王国からのGSU加盟交渉と、ベルが滅ぼしたサファヴィー公国の後始末について4カ国の君主と話し合いが行われた。


サファヴィー公国が滅びたのは、シェフシャ王国第二王妃であるクロエの馬車に、マルファが魔道砲を撃ち込んだのがそもそもの原因だ。

本来なら、王妃を狙われたシェフシャ王国が報復行動を取るのだが、砲撃から僅か10時間程で、私の娘が単騎で撃滅してしまったので出る幕はない。


「シェフシャ王国からは遠すぎて管理出来ないよ。アルザスが編入したらいいじゃないか」

「天罰で滅んだ国なんぞ要らねぇよ。縁起でもねぇ」


アリシオンは、そんな飛び地領土は要らないと言い出し、元々隣近所だったアルザスは縁起が悪いからと断った。

そんな中、レオノールが一つの提案をしたのだ。


「ストラス王国の国王は、一応はザーヒルって事になっているんだ。

いつまでも裏で操ってないで、ラインハートが治めたらどうかな?」


レオノールは、私が安全保障の責任者という立場で燻っているのは勿体無いと言うのだが、果たしてそうだろうか?

アリシオンとアルザスも、レオノールの意見に反対はしていないが、この3名は何れも君主であり、その土地の最高支配者だ。

私がサファヴィー公国だった土地の支配者に成るという事に関して、彼等のその立場からは見えない問題点がある。


「国民は、私を恐れて言う事を聞くかも知れませんし、無気力になり何をするにも支障をきたすかも知れません」

「…… ?」


私は、仮に旧サファヴィー公国の支配者になるのなら、武力による統治、即ち ”覇道” ではなく、仁による統治 ”王道” で行きたい訳だ。

国民感情的にも、現状それは無理だろう。

なんだかんだ言いつつ、マルファ公爵はしっかりとした政策で卒なく運営していて、おつむの具合がおかしくなったのは最近だ。

恐らく、その可もなく不可もなくな国を滅ぼした会社の代表である私は、とてもじゃないが受け入れてもらえない。


「今は、帝国一強の時代を終わらせる新勢力、そして新たな経済圏であるGSUの基盤を強固にする大切な時期です。余計な事を考えている暇はありませんよ」

「相変わらず欲の無ぇ野郎だな。だが無法地帯は出来ねぇ。旧サファヴィー公国の住人は何処に住んでいようが構わねぇが、違う国で国籍を取得させて税金を納めさせよう。管理については、GSUが持ち回りで治安維持部隊を派遣するってのはどうだ?」

「いいと思うよ。集団安全保障の盟約もあるし、いざとなればvictory order社の戦闘部隊も引き込める。常時5000人規模の騎士を駐留させておくぐらいなら問題無いだろう」

「じゃあ、アルザスの提案で話しを進めるが文句は無いかね?

あ〜ラインハート君、気が変わったら何時でも名乗りを上げてくれて結構だぞ?」


アルザスの提案に反対する者はなく、サファヴィー公国の支配していた土地はGSUの管理下に置かれるが、事実上放置されることとなった。

旧サファヴィー公国の壊れた城や、貴族が住んでいた屋敷、騎士団関連の施設などの復旧はGSUは行わない。

だが、農地や商店などの経営は続ける事が出来て、治安も維持されるという謎のエリアとなったのだ。

編入すればいいとも思うのだが、そこを支配する者を決めるのが難儀だった。とりあえず最低限の管理はしておいて棚上げだ。

友好的な者が名乗りを上げれば、GSUは支援を惜しまないだろう。


「セレウキア王国の件はどうする?」

「どうするも何も、お断り一択だろ?」


セレウキア王国は、皇帝の親戚が王様をやっているので加盟は不可能だ。

ちなみにGSUの政策を決定する際に、誰か一人でも反対する者がいれば議論は振り出しに戻る。もし、セレウキア王国が加盟したとしたら、何をするにしても足を引っ張るだろう。


「そう簡単に入り込めるもんじゃねぇってのを分からせねぇとな」

「えぇ、そうしましょう」


その日の定例会見で、テオはセレウキア王国のGSU加盟交渉について、ほんの少しだけ発言した。


「セレウキア王国のGSU加盟に対して、我々は前向きに議論を続けている。

我々は自由を得る戦いの最中であり、もし実現すれば、それはとても喜ばしい出来事となるだろう」



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