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#59 反GSU

今朝はすこぶる気分がいい。

何故なら、今日は公務どころか社長業さえも休みだからだ。


前々から、何処かで一日だけ完璧にフリーの日が欲しいと、慎重に悟られないように根回しを続けてきた成果が実を結んだ日なのだ。

何故か、セレウキア王国からGSU加盟への協議を持ちかけられたが、日程を調整すると言いつつサラッと流して放置した。

静まり返っている帝国の警戒監視も強化し万全を期しているが、万が一の可能性はあるだろう。それを見越して、順調に製造が進んでいる ”例の魔道具” を既にvictory orderの幹部とGSU加盟国の君主には配付しているし、勿論、私も装備済みだ。


「社長〜。今日はゆっくりなのね」

「…… えぇ、たまには悪くないですね。朝、ゆっくり支度をするのも」


ルミナの用意してくれた朝食を食べ、新聞を読みながらお茶を飲んでいると、エヴドニアが近寄ってきた。

私は新聞を執務室で読んでいる事が多く、一般社員も利用するダイニングルームで読むことは少ない。

私が居れば一般社員は少なからず気を遣うだろうと思い、配慮しているのだ。

だが、今日の私は、執務室に入れば折角の休みが台無しになってしまいそうな予感を感じ、可能な限り近寄らないようにしていたのだ。


「社長。今日の予定は?」

「…… この後、私用で街に行くつもりです。

帰りは夜になるでしょう」

「街? ストラス王国の?」

「…… えぇ、ストラス王国の城下町です」

「ふ〜ん。女?」


今日のエヴドニアはかなり執拗い。

座っている私を見下ろしながら、彼女は探りを入れてくる。


「先日、行方不明になったのはスイーツを探して回っていたと言ったじゃないですか。

私は熱中しやすいんですよ」

「私用で、しかも女じゃないなら、私と ”あの子達” も街に連れて行って欲しいわ〜」

「護衛なら、自主訓練を予定している社員が何名か……」

「あの子達が、万が一帝国の手に落ちてしまったら……」


私は、あの一件以来、自分の選択というものに対して臆病になってしまった。

エヴドニアの言う、文字通り万分の一の確率さえも気にするようになったのだ。

今日、私がエヴドニアの頼みを断るという選択をし、その結果、ローラとイザベルが帝国に誘拐されてしまえば確かに大事で、非常に後悔する事になるだろう。


「…… 分かりました。ここだけの話、私は久しぶりの休みなのです。なので、なるべく早く、少しでも長く自由時間をください」

「オーケーよ。じゃあ準備して来るわね!」


私の休日は始まったばかりだが、既に終わったようなものだ。


……………………………………………………………………………


「社長殿、ナホカト国で人気の劇団がな、ストラス王国で公演を行っているらしいのだ。

今日が最終日だ」

「ラインハートさん、劇が終わったら甘味処に寄りたいです! あ、みんなのお土産を買いにスイーツショップにも寄りましょう!」

「社長、甘味処の前にランチにしない? お洒落なお店を見つけたの」

「…… 行きましょうか。実に楽しみですよ」


午前中は近所の湖で読書をして、昼食は出店で買った適当なものを公園の木陰で食べ、午後からは2時間ほど森林浴を楽しみ、日が暮れればルミナに教えてもらった夜景スポットで無音音を楽しみ、夕食は安い居酒屋で1杯やりながら……


まぁ…… もういい。

夕食ぐらいは、おひとり様で静かに楽しめるだろう。それで十分だ。

公演を観終わり、昼食を4人で食べ、エヴドニアと2人は予定には無かったショッピングだ。

オマケに下着を買うから付いて来なくていいと言われ、私は路地裏を散策する時間を得た。


「あんたGSUのラインハートだな? ちょっとツラ貸せ」

「…………」


人気の無い路地裏を歩いていた時、数名の男に声を掛けられた。彼等は反GSU団体の構成員だというのだ。そんな団体が存在しているなんて初耳だった。


「お前らは国の利益を無視してる。帝国とは良い関係を維持するべきだ」

「…… 国の利益を無視している? その言葉を、そっくりそのままお返しする日は来るでしょう。

GSUは帝国の圧力を遮断しているだけで、経済は閉ざしていません。GSU内の住民は、真面目に働く者なら誰でも、どんな場合でも見苦しくないしっかりとした生活が送れるよう、各種社会保障制度を拡充しています。

その為の一歩として不当な関税を撤廃させましたが、それのどこに不利益が?」

「社会保障が充実してても、帝国と事を構えれば大勢が死ぬ事になる。1人を生かす為に、100人を殺すわけにはいかねぇ」

「話が見えませんね。何が言いたいのですか?」

「てめぇだけ死んどけって事だよ!!」


男の手にしていたナイフは勢いよく私に迫って来るが、前面に展開した万能防御結界に阻まれ届かない。

連れの男達も、何やら中級の攻撃術式を撃ち込んで来るのだが、それも結界に弾かれ届かない。


「複数名、凶器と魔法の使用、正当防衛の成立ですよ?」


私はナイフを持った男の髪を掴むと、すぐ横の壁に無理矢理キスさせたやった。

鼻の骨や頬骨は粉砕骨折したようだが死んではいない。魔法を放って来た男も、その腕を掴み取り背後で拘束すると、同じように顔面を壁に叩き付けた。


「ヒィィッ!!」

「私は、100人を生かすために1人で最前線に立つタイプです。お忘れなきよう」

「て、てめぇなんざ単なる暴力野郎じゃねぇか!! 綺麗事抜かすんじゃねぇよ!!」

「それはお互い様でしょう。

おたくの政治信条はさておいても、舐められっぱなしでは仕事がやりにくくなるんですよ。安全保障のトップとしての仕事も、軍事会社の仕事もね」


折角の休みに闇討ちされそうになるなんて、そうそう経験できる事ではない。これもGSU高官故の税引きだろうか?

私が襲われたのが、護衛も付けずに出歩いた事が原因ならば良いのだが。


「おたくら革命家気取りの ”ど阿呆” は特に勘違いしがちだ。兵士でも盗賊でもない自分達は、少しばかり粗相をしても小便刑で済むと思っている」

「し、死刑にでもするつもりかよ!!?」


死刑になんてしない。

騎士団に突き出して調べ上げた後、法の裁きを受けさせるという、至って普通の段取りだ。

ただ、高性能な水晶(嘘発見器)の精度を上げる為に情緒不安定にしたい。それだけだ。

最後の一人を壁とイチャつかせて無力化した後、ストラス王国騎士団に引き渡した。


「社長殿、何があったかは分からぬがお手柄であったな」

「社長、壁の補修費用の請求先は?」

「…… ストラス王国で」


騎士団による取調べの結果、襲撃犯はサファヴィー公国出身で、トリア王国に難民申請していたらしい。

単に熱狂的な愛国者で、国を滅ぼした軍事会社を目の敵にしているだけなら良いのだが、帝国の属国だったサファヴィー公国の住人だけに、釈放後の動向は気にしておくべきだろう。


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