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#57 宇宙の不思議2

「君は、この星にどの様な種族が住んでいて、どの様な大陸が存在しているのかを知っている。それだけじゃなく、空に輝く月や太陽の様に丸い事までは知っていた。そんな聡明な君に、特別に、もう少し知識をあげよう」


神様が最初に教えてくれたのは、外の世界の話だった。確かに、丸い形の世界の全貌は気になるところだ。

何にくっ付いていて、その接続部分はどうなっているのかは興味がある。

私のイメージでは、この世界は果実の様に何かにぶら下がっているのだ。


「さぁ、聞くよりも見た方が理解し易いだろう」


部屋の壁が透き通り、外の景色が目の前に広がった。

そこには、暗闇に浮かぶ美しい球体が在った。


「これが、君達の住む世界だ。ご覧の通り、何かにぶら下がっているわけでもないし、地面に落ちた石コロの様に大地に接しているわけでもない」

「…… こんな巨大なものが浮いているなんて。

それに…… なんと美しいのでしょう」


神様は微笑むと、また ”創った甲斐がある” と言うのだ。


「さぁ、本題に入ろう。

君が目撃した ”黒い箱” は、分かりやすく言えば馬車のようなもので、私の移動手段の一つだ。

お察しの通り、それに君は乗っていて、その ”黒い箱” は今、君の住んでいた世界の外に来ている」

「外!? とは?」

「宇宙とでも言っておこうか。私は小さな世界を見て回る時に ”この箱” を使っている。君なら分かるだろ? 馬車の旅は時間が掛かるが良いものだ。

そして目的地に着けば、更に細かく観察する為に、箱に搭載しているダークドラゴンを飛ばしている」

「…… あれは、ダークドラゴンは生物なのでは? どうやって観測に使うのですか?」

「あれは生きてはいないよ、作り物さ。

不思議だと思わないか? ダークドラゴンの動きを見て」

「…… 確かに、全ての物理法則を無視したような動きですが」

「あの動きに耐える生命体は居ないのだよ。つまりアレは作り物。

私は、見て回る世界で違和感の無い ”物” を ”目” の代わりに使っている。

君の住んでいる世界ならダークドラゴン。

それ以外で言えば、”鉄の円盤” とか ”小さな島” とか…… まぁ色々だ。

さっき君が見たダークドラゴンは、全て作り物さ」

「…………」


私達の暮らす世界から、黒い箱は更に遠ざかり、軈て様々な星々が雲の様に密集した様子が見える所に来た。


「この場所まで一瞬で到着したが、此処は君の住んでいる星からかなり離れている。

あの輝く雲の中の一つに、君の住む世界があるのだ。

そして、この雲の様な集まりが、宇宙には数えきれないほど存在している」

「スケールが大き過ぎて、全貌が見えません……」


またしても神様は微笑むと、全貌を簡単に説明してやると言った。

そして、その部屋の床に大きな透明の壺の様なものを出現させたのだ。


「君の住む世界は勿論、数えきれないほど存在する星の集まりも、この壺の中にある」


神様は、壺の中に粘度の高めな液体を注ぎ始めた。注がれた液体の中には数えきれないほどの気泡が混ざり、その気泡は注ぎ込まれた所から、壺の底の方へ移動するのだが、やがて当たり前のように上へと浮上する。


「この気泡は、星の集まった雲を含んでいる。様々な物質と共にね。

この気泡が底面に落ちて行く過程で、この泡の中で発生した大概の文明は ”外の世界” を少しだけ観測出来るようになる。そして、宇宙が膨張していると錯覚するのだよ。本当は注ぎ口から遠ざかっているだけなのだが」

「…………」

「底面に向かっていった泡が浮上を始める為に停止した瞬間には、宇宙の膨張が止まったと錯覚し、上昇し始めれば、宇宙が収縮し始めたと錯覚する」

「見てきた様な言葉ですね」

「見てきたのだよ、何度もね。

発達を続けた文明は、やがて外の世界を冒険しに出掛けようともする」

「…… 外の世界を」

「そう、私のセットした資源を使い果たして外の世界へ新天地を探しに行く連中も居たし、それこそ君のように謎に挑む者達も居た。どちらにしても、この粘度の高い液体の中を移動しなくてはならないが、その移動速度の限界が光の速度だと気が付く。そして、その速度で移動する方法を見付けた者達に、私は特典を用意している」

「…… 特典?」

「その速度を手に入れた者達の時間を、移動中だけだが限りなく減速させてやるという特典さ。

まぁ、遠くに暮らす知り合いが年寄りになってたり、死んでたりするので多用しないみたいだが。例外は、一族総出で移住先を探している者達ぐらいだろう。

この話を信じるも信じないも君次第だがね」

「光の速度で移動? 出来るのですか?」

「移動出来るが、楽しいものではないよ。

遠くの景色は真っ暗で、たまに偶然交差する光が瞬間的に見えるだけさ」

「真っ暗?」

「仮に君が光の速度で動けば、周りの光は君に追い付けないだろ? だから真っ暗なのさ」


まったく、これは一体何の冗談なのか。

光の速度だの、外の世界だの、創っただの…… 信じられないが、否定も出来ない。

そんな私に、神様は言うのだ。


「最後に、一つだけ君に気にしておいてもらいたい事を伝えよう。

この壺は ”一つでは無い” 。同じ設定の壺がかなりの数存在している」

「…… ? 何の為ですか?」

「私の研究の為だ。その壺の数は、君の選択によって数が減っていく」

「?」

「君が日々行う選択で、滅びる世界もあるし、存続し続ける世界もあるという事だ。

間違った選択をすれば、それに付随する数多の未来の可能性もまとめて消滅してしまう。量子の振る舞いと同じさ、君が何かを選択した瞬間、全く逆の選択をしている壺が何処かに存在するんだ。だから壺の数は減っていき、最後は一つしか残らない。

最後に残った壺を検査して、合否を決定する。合格なら、私は満足いく結果を得た事になり、その研究は終わりを告げるだろう。その時は、その壺を君に贈ろう」

「満足いく結果とは?」

「君が、今暮らしているチンケな世界を ”私の理想とする方法で” 支配するという結果さ」

「…………」


相変わらず何が何だか分からない私に、神様は続けた。


「大量の壺の中に必要な物質と命を入れ終わったら、その後、私がする事は2つだけだ」

「…… それは?」

「 ”最後まで見守る” か ”途中で消し去る” かだ。

今まで、何度となく繰り返してきた実験で、良い結果を残した魂を幾つか混ぜた。その1つは君だから、今回は ”前回よりも良い結果” を期待しているんだ」

「…… 前回?」

「少しお喋りが過ぎたね。体感では2時間程だが、実際には丸1日半が経過している。

そろそろ帰らないと仲間達が心配するだろう?」


その後、私はストラス王国近くの険しい山脈で降ろされた。

謎の直方体…… いや、神様の乗り物はダークドラゴンを回収し、忽然と姿を消したのだ。


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