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#5 人間だけの街

イヴエを出発して2日。

我々は、城壁都市チェスターに到着した。

人間の、人間による、人間のための街だ。


「厳重ですね。

強固な城壁に、幾重にも結果が張り巡らされています。

この辺りは魔物が多いのですか?」

「まぁ、少なくはねぇな。

だが、こんだけ立派な壁で囲んでるのは、終末戦争で生き残る為なんだとよ」

「終末戦争?」

「そ。来たる審判の日を生き残り、新たな世界を創り上げるのは、神でも悪魔でもなく人間様なんだとよ。

その悲願を達成する為の特大シェルターだ」

「ライ? 街に滞在してる間、あんたは私達に飼われてる奴隷を演じるのよ? 分かった?」

「奴隷? ……なるほど。大人しくしていたら良いのですね?」


街の入口には、身分証の確認を待つ長蛇の列。

見ていると、門前払いされている者もチラホラ目に付く。

その多くは、亜人だ。


城壁の上には狙撃兵(スナイパー)と防空部隊。

身分証を確認する兵士以外にも、4人1組(フォーマンセル)の班が4つも配置されている。

イヴエに比べると、かなり厳重だ。


「次の者!

…… 誰かと思えば、イヴエの万年Bランク共か。

今日は1人多いが、そいつは何だ? 新入りか?」

「違うわ。

森で捕まえた奴隷よ」

「トカゲの討伐は順調のようだな。

奴隷を飼うなんて景気の良い野郎共だぜ」

「はぁ…… もういいかしら? 通るわよ?」

「おっと、待ちな。

お前達は奴隷を連れて入るのは初めてだろ?

この街で奴隷を連れて歩くには、この首輪を奴隷に着けないといけねぇんだよ」


兵士が渡して来た首輪には、特に拘束力は無いようだ。

単に、奴隷だという目印の様なものなのだろか。


「奴隷を連れた旅人や商人が滞在出来る期間は3日間だ。

それを過ぎて滞在すりゃ、飼い主は奴隷と仲良く豚小屋行きになるから気を付けな。

3日以上の滞在は認めてねぇから、面倒臭かったら路地裏で(バラ)しゃいい。

その代わり、掃除は忘れんなよ?」


まぁ、なんと物騒な遣り取りだろうか。

この街では、人間以外の定住は禁止。

そして労働力や娯楽など、どんな目的だろうが奴隷の売買や所有は禁止されているそうだ。

レイシストの集まりの様な街だが、住民に奴隷の使役を認めていないは好感が持てる。


仕方無い事だが、私を奴隷だと言ったばかりにダラダラと衛兵の蘊蓄を聞く羽目になった訳だが、その蘊蓄は話半ばで終わってしまう。

突然、背後で何者かを制止する声が響いたのだ。


「お、おい! 止まれ!!

貴様らを街に入れる事は出来ん!!」

「なんでだよ! 俺達は宿に泊まりたいだけだぜ? ちゃんと金も持ってるし、道具はアンタらに預けるし!」

「…… この街にも入れんか。エスカー、諦めて次の街を目指そう」

「そりゃないぜ…… 次の街まで2日だろ?

連続野宿記録は更新したくねぇ!! 温けぇ風呂入って柔けぇベッドで寝たいんだよっ!!」


見ると、2人の男が衛兵と揉めている。

ただそれだけなら、気にも止めなかっただろう。

2人の男の1人は、ノリも軽く胡散臭い盗賊風の優男だが、もう1人は違った。

門前払いされた哀れなコソ泥だと、そう思うには余りにも大き過ぎたのだ。


人間という種族は、鍛錬次第でこうも巨大な筋肉を搭載出来るものなのだろうか?


広い肩幅に分厚い胸板。


頭部を支える極太の首。


例に漏れず、極太で高密度に圧縮された筋肉を纏う四肢は、圧倒的な破壊力と運動性能を感じさせ、見る者を射竦める。


「シド? あの2人は何者ですか?」

「さぁ? お尋ね者じゃねぇか?

俺達は賞金首とか犯罪者には疎いからよ。

しっかし、すげぇガタイだな」


ガタイが良いという次元ではない。

完全に規格外だ。


「わーったよ! 野宿記録を更新してやらぁ!!

行こうぜ! ヴィットマン!」


「ヴィットマン……」


その規格外の男の名前には聞き覚えがあった。


クラス 狂戦士(ベルセルク)


”壊れ知らずの狂戦士” と恐れられた男の名は ”ヴィットマン”


何故、強大な軍事力を持つ魔王軍が多方面作戦を展開しなかったのか。

兵站を断たれれば、勇者と言えど飢えて死ぬ。

勇者を支援する国を事如く急襲し、壊滅させ孤立させる。そして寝る間も与えず追い立てれば、回復も儘ならないだろう。

広い大陸の中で、勇者に対してピンポイントで戦力を投下する必要など無いのだ。


何故そうしなかったのか。


否、出来なかったのだ。


魔王軍の侵攻を妨げていたのは、転生者である勇者だけではない。


純粋な現地人にして、生粋の猛者。


英雄と呼ばれる者達の存在だ。

各大陸に複数名存在が確認されている英雄の一人に、その名が有ったのを思い出した。

そのヴィットマンが居る大陸は、ゴンドワナ大陸だ。

大陸の北西部には魔王軍が駐留している。


任務で何度が訪れたが、何れも北部から中央まで。

恐らく南部であろうこの場所に、全く覚えが無いのはその為か。


街へ入る時、一瞬、2人と目が合った気がした。


今の私は魔王軍の兵士ではない。

ただの旅人であり、この街では奴隷という身分だ。

彼等の事など知らないし、何故、英雄である彼が厄介者扱いされているかなど、勿論知ったことではない。


「この街は何かと癇に障る場所だけど、各種ポーションが安いのよ?

それに魔道具の種類も豊富なの」


魔物除けに虫除け、衣類を洗浄する効果を持った魔道具。

旅人や商人向けの有ったら便利という程度の魔道具が目に付く。

どうやら、攻撃的な魔道具は販売されていない様だ。


「攻撃的なのは、騎士団や冒険者御用達よ?

私達が、それを買おうと思ったらギルドで買うしかないわ。

でも買わないわよ?

魔道具として売られている様な、簡易術式なんて必要無いし!」


冒険者登録証が無いと買えないのは、何かしらの犯罪行為があった場合に追跡する為の保険だろうか。

しかし、ルナの話から察するに大した効果は無いのだろう。

貴族が、護身用として子供に持たせるとか、所詮はその程度の代物という事だ。


到着したのが正午頃だったこともあり、少し街中を観光させてもらったが、奴隷の目印である首輪の効果は絶大だった。

冷ややかな視線が絶えず注がれ、目立って仕方無い。

しかも、よく見ると滞在可能時間が表示され、位置情報を送信している。

時間切れは勿論、無理矢理外そうとすれば、レイシストの騎士団が押し寄せる素晴らしい首輪だ。


宿を取り、買い物を済ませると夕食の時間だ。


「明日の朝には出発よ?

今夜は早目に解散しましょ!」

「たまにはバケーションを楽しみたいが止むを得んな。

気が休まらん」


ルナの言葉に、テオは笑いながらそう言った。


「ライ? 疲れてない?」

「大丈夫ですよ。フードを深く被って視線を遮ってますし」

「なら良いわ。

でも、無理しちゃダメよ?」


ルミナは、事ある毎に気を使ってくれる。

そんな時、あのセリフを思い出すのだ。


”お姉さんが守ってあげる!”


吐いた言葉への責任感なのか、将また生粋のお節介焼きなのか。


この短期間で、様々な人間が居る事を知った。

レイシスト然り、視野の狭い近視眼的な者も然り。

そんな中で、彼女を分類するとすれば ”生真面目な人間” となるのだろうか?。

少なくとも、それは悪い気分にさせる者ではない。


翌朝、まだ人気も少ない時間帯に街を出る。


「お前ら、あんまり遠出するんじゃねぇぞ?

次の討伐依頼に間に合わなかったら、冒険者登録証は剥奪されるかも知れねぇんだ。

肝に銘じとけ」


悪いのか親切なのか分からない衛兵に見送られ街を出たのだが 、私達が進む街道沿いに大きな魔力反応が2つ。


「街道のド真ん中に魔力反応が2つだ。

こりゃ野営してますって感じじゃねぇな」


早速シドが探知したようだ。


敵対勢力は巡り会う運命なのだろうか。

まったく、因果なものだ。

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