#47 強制外交2
「最近、帝国からの派兵要求が以前にも増して執拗くなってる。それに、一瞬何の冗談だって思うぐらい戦費と物資の負担も要求してきやがる。断ってるがな」
「アルザス、これは帝国的には魔王軍特需だ。大義は向こうにある」
「制裁関税かましといて、さらに要求して来るとは思わなかったぜ。完全にイカレてやがる、ますます関わりたくねぇ」
アルザスとアリシオンが、帝国の愚痴で盛り上がっていた。
”関わりたくねぇ” とかアルザスは言っているが、実は堪忍袋の緒がキレかかっていたのだ。
トリア王国は、農産品の輸出が盛んなのだが、その行き先は帝国や、魔物の森が邪魔で農業に不向きなセレウキア王国が高い。
平時には、それ等の国から大量の買付けがあるが、今は途絶えている。
余った農作物を国が備蓄用に買取ったり、公金で損害分を補填したりしていたが、ついに廃業する者が出始めたのだ。
仕掛けた本人達も多少は困っているだろうが、根比べになれば我々の方が遥かに分が悪い。
「干上がっちまうぜ。そろそろ、潮時じゃねぇか?」
「そうですね。彼を呼びましょう」
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「状況は非常に悪いですが、条件は整いつつあります」
「まだ何かあんのか?」
「殿はストラス王国が務めますので、皆さんは、ただ眺めていてくれればいい」
その日の定例記者会見で、テオは言った。
「ストラス王国は小国だが、謂れなき圧力に対して、泣き寝入りする事は無い。
この大陸に存在する多くの欠陥のおかげで、国民は苦しめられている。国家がその欠陥を認めるならば、貧弱な国力故に打つ手が無いなどと、もっともらしい言い訳をする訳にはいかないだろう。
午前0時より、ストラス王国は領内に入る貨物に対して通過税を賦課する。
納税証明書の無い物品及び金品は、ストラス王国への密輸品として没収し、違反者は厳罰に処す。今後、状況が改善されるまで徹底した臨検を行う。以上だ」
その政策を知った各国は、一斉にストラス王国を非難した。大陸の南北を隔てる山脈の切れ目にあるストラス王国は、交易の要衝だ。
「おい、ラインハート。俺達も払わないといけねぇのか?」
「皆さんの城に、納税証明書に代わる通行許可証を送付しました。自国の商人に配布してください。検問所で見せればフリーパスです」
税金を払いたくなければ、北は北で、南は南で全て完結させなければならない。
そんな事など出来る筈もなく、帝国産の農産物等、南部のサファヴィー公国やセレウキア王国へ向かう便は激減したのだ。
セレウキア王国やサファヴィー公国では、食料品の価格が高騰し、国民からは、ストラス王国に対する不満の声が上がった。だが、ストラス王国を含む特定の国が、帝国や帝国に近い国からの圧力に晒されていると、テオの会見を見て知っているのだろう。匿名の陳情書も、毎日山のように届いたそうだ。
「ラインハート、あの意味分かんねぇ税金は連中にも深刻なダメージが有るだろう。だが、帝国が指くわえて見てるとは思えねぇ」
「帝国が仕掛けて来るとでも?」
ストラス王国が通過税を導入してから数ヶ月が経ったある日。
私は打ち合わせの為に、各国の君主達と事務所で待ち合わせをしていた。
一足先に私の元を訪れたアルザスは、ストラス王国の心配をしてくれていたのだ。
今回の通過税を発動したのはストラス王国のみ。その他の国は、非難声明は出しているものの、報復関税は発動してはいないのだ。吹けば飛ぶような弱小国家であるストラス王国が、唯一、表立って帝国に反抗している構図になっているので無理もない。
だが、要らぬ心配だろう。
そうこうしている内に、レオノールとアリシオンも到着し、いよいよ本題に入った。
「ラインハート君。そろそろ始めるのかい?」
「えぇ、帝国が部隊を展開した瞬間、ストラス王国の報道官が、サラッと ”例の” 重大発表の上っ面を撫でます。その日からピッタリ1ヶ月後に、全員で新築されたトリア城に行き、合同記者会見です」
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「ラインハート君、帝国から演習通知が届いたよ。期間は……」
打ち合わせの日から数日。
アリシオンとレオノールの元に、帝国から軍事演習に伴う立入禁止区域の設定について通達があった。
場所は、シェフシャ王国との国境から150kmの地点で、魔導兵器も投入する大規模なものだ。
「早速、2個魔導師団が投入されて、急ピッチで模擬市街地戦用のエリアを土魔法で拵えてる。
噂じゃ、その街並みはストラスの城下町を模してるらしいよ」
アリシオンは、楽しそうに話しているが、良い根性だと思う。自国のすぐ横に最新の魔道砲を配備されれば、普通は酒を浴びるようにかっ喰らって頭を抱える案件だ。
私は、テオに報道陣と帝国へのサプライズを指示した。
「テオ報道官、ゲヴァルテ帝国がシェフシャ王国との国境付近で軍事演習を行うそうですが」
「今後、毎年実施する演習の第一弾だと聞いている」
「市街地エリアの街並みが、ストラス王国の城下町にそっくりだとの情報があります。
これは、帝国からのメッセージではないのでしょうか」
「その件については承知していない。
仮にそうだったとしたら、非常に遺憾だ。
確かに、ストラス王国とゲヴァルテ帝国は懸案を抱えており、関係は非常にデリケートだ。我々は、この関係がエスカレートしないよう、数カ国と新体制構築に向けた協議している最中だ」
「新体制? とは?」
「”その数カ国は” 来月、重大な発表を予定している。私は、私が報道官の職に就いてから、親しくしてくれている報道陣の皆さんを是非その場に招待したいと思っている。以上だ」
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重大発表が行われる日が来る前に、帝国の軍事演習はスタートした。
だが、ストラス王国からの反応は無く、帝国の高官は苛立っていた。
「てめぇも知ってると思うが、俺達が魔道砲をぶっ放そうが、森を焼け野原にしようが全く反応がねぇ!!
ストラス王国が余裕こいてられるのは、周りの田舎者国家とグルになって何か企んでて、もしかしたら、それなりの策を用意してるかもって慎重論が出てる!
だが皇帝はな! あの ”クソみてぇなチンケな国” の事をえらく気にかけててっ! 俺達に逆らった ”あのアホ” が、世界中の笑いもんになるのは何時なんだって毎日聞いて来るんだよ!!」
帝国の高官は、サファヴィー公国でマルファ公爵の胸ぐらを掴み怒鳴りつけた。
「ちょっと締め上げ過ぎたんじゃないか?
こっちは凄まじいインフレになって、割を食ってる。それどころじゃないんだ。
そっちで何とかしてくれ」
「よく聞けブタ野郎! お前の国に魔道砲を配備したのは何の為なのか思い出せ!!
連中のケツにぶち込む為だろうがっ!!!」
マルファ公爵に暴行を加えた高官は、近々行われる会見を ”ぶち壊せ” と言い残し、帝国へ戻った。




