表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/98

#46 強制外交

帝国を後にした私は、ストラス王国に帰る前に、ナホカト国に寄り道した。

帝国の圧力でレオノールが動揺しないように先手を打ちに来たのだが、彼が動揺するもう一つの原因、城で軟禁状態に置かれている王女ロレーヌの様子も見ておきたかったのだ。

同じく娘を持つ者として、彼の気持ちは痛いほどよく分かるつもりだ。


「ロレーヌ様、お加減はいかがですか?」

「あの直後は、暫く混乱していて記憶が曖昧でしたが、今は落ち着いています」

「それは良かった。まだ暫くは不安に駆られる瞬間が有るかと思いますが、何卒ご安心ください。私はレオノール陛下とお話がありますので、これにて失礼致します」

「ラインハート様」

「……?」

「私は、もう何ヶ月も城の中だけで生活しています。庭にも出れないのは、やはり辛いのです。…… 貴方が仰っていた通り、帝国に行くこともなく、以前の生活に戻れる日が、本当に私に訪れるのでしょうか?」

「えぇ、もう少しの辛抱です。

これは気休めの方便ではありませんよ?

貴女の日常は、何不自由ない生活から、予期せず不自由極まりない生活へと変貌してしまった。ですが、これは一過性の試練にすぎない」

「試練? ですか?」

「そうです。何事にも終わりがある、この試練にもです。

貴女は、羞月閉花…… とても美しく、王族としての気品に溢れる魅力的な女性です。

そんな貴女は、この試練を乗り越え、強い心を手に入れるのです。

強い心とは ”余裕” です。余裕があれば、困難が訪れた時でも、深く思考する事ができる。

すぐにパニックに陥る事もなく、自分の事だけでなく民の事も想えるでしょう。それは、より素晴らしいプリンセスだと思うのです」

「ラインハート様、貴方は女性を喜ばせるのがお上手なのですね……」

「…… ?」


いつの間にか、ロレーヌは頬を赤く染めていた。私は、前向きに今を過ごせるように言ったのであって、喜ばせる意図はない。

だが、結果オーライと言うことにしておこう。本人は現状を耐え抜くと決意したようだし、顔色も良くなって何よりだからだ。


……………………………………………………………………………


帝国への出張からひと月が経った頃。

ストラス城の薄暗い地下室に、victory order社とパートナー契約を締結している国の主が一堂に会していた。

アルザス、レオノール、アリシオン、そして私だ。

集会場所の主が居ないが、最早、その事に疑問を呈す者は居ない。


「アリシオン、お前の所は何か掴んでんじゃねぇのか?」

「勿論。何時もなら、ナホカト国を経由してシェフシャに入る隊商(キャラバン)が、何故か帝国から直接シェフシャを訪れ、商売せずにストラス王国へ抜けていったよ」

「大方予想通りの動きか」

「えぇ、予想通りです。帝国は、サファヴィー公国とセレウキア王国に、最新の魔導兵器を搬入しているのでしょう」

「我がナホカト国やシェフシャ王国は、元々射程圏内だった訳だが、トリアもストラスも魔道砲の脅威に晒される事になったな」

「まぁ、トリア領内で臨検しても良かったんだが、知らん振りでいいんだとよ。そうだな? ラインハート」


着実に強制外交の準備が進んでいるが、これは予想通りだ。

それとは別に、議会の方では、直近の懸案として帝国やサファヴィー公国、セレウキア王国への輸出品に対する割増関税が話題だ。

あの日から1ヶ月程だが、早くも影響の出ている業界があるようなのだ。


……………………………………………………………………………


「国王! このままでは輸出が滞りますぞ! これは帝国が何か企んでるに決まっている!!」

「おう! そうだな! てめぇら、なかなか鋭いじゃねぇか!!」

「我々の魔石も、需要の高まりで価格が高騰するのは必然!! あんな捨て値で帝国に流す必要はありません!! 対抗しなくては!!」

「おうっ! 帝国向けの物量を制限するのは今後も続けろ! だが、値段は釣り上げ過ぎるな!適正価格でいけ! この件はガツンと言っといてやるから、魔石産業以外は ”あの3カ国以外” で販路を開拓して、少しの間耐えてくれ!!」


最近、ザーヒルが頼もしくなったと評判だ。彼は遠隔操作だが、まずまずの働きをしてくれているので、これが案外助かっている。

対外的には、テオがいい仕事をしてくれる。

たまに暴走しかけるが、その時に少し手を加えるだけでいいので実に快適なのだ。


「ストラス王国やトリア王国もそうですが、最近、ナホカト国産の輸入品が、帝国などで高騰しているようです。これについて何かコメントをお願いします」

「ストラス王国の輸出品は、帝国及びサファヴィー公国、そしてセレウキア王国から不当な関税を掛けられている。

我々は、それ等の国家に対して、税率の引き下げを強く求めている」

「原因は何なのでしょうか?」

「帝国向けの魔石の輸出量が激減した事が原因だろう。国内消費量が急増したことによる一時的な在庫不足だが、状況は改善されつつある」

「トリア王国とナホカト国は別のトラブルが?」

「…… 私は、他国の事にコメントをする立場にない。直接聞いたらいい事だ」


テオは、最後に少々苛立ちを感じさせ会見を終わらせた。この小芝居が良いのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ