#42 第三者の有難味
「すぐそこの山ん中をキャンプ場と勘違いした魔王軍が、地主のお前に律儀に挨拶に来た? で? 手土産を貰って喜んだお前は、すんなりキャンプ場の利用許可をくれてやったって事か? まったく気のいい奴だぜ」
「喜んではいませんけどね」
「あたりめぇだよ! 魔王軍が敷地内に駐留してんだ!! 速攻で解散させねぇと気が済まねぇ!!」
事もあろうに、victory order社の敷地内に魔王軍部隊が駐留している事を、エスカーは知ってしまった。
英雄と呼ばれていた彼が、魔王軍に対して良い印象を持っていないのは分かる。
分かるが、少し落ち着いて欲しい。
何故なら、私も同じ気持ちだからだ。もし魔王軍が敷地内にいると知れれば、victory order社は、やはり魔王軍の下請企業だったと根も葉もないデマを流され、私の計画は頓挫する。
最早、最終手段を使うしかないと思っていると、ルナが、頭に血が上ったエスカーに語りかけてくれた。
「エスカー? ちょっと落ち着きなさいよ。
これを聞いても熱が冷めないなら、ケツに氷魔法をぶち込んであげるわ。
いいかしら? 山の中で魔王軍がキャンプを始める前から、この屋敷には ”魔王ミアという名の天使” が寝泊まりしてんの。オーケー?」
「あ……」
「あんたも私も ”その天使” と一緒にごはんを食べてるし、私は一緒にお風呂も入ってる。迷惑かも知れないけど、たまに一緒に寝たりもするわ。
”魔王軍の幹部” は、結構前から此処に居るのよ」
ルナの指摘に、エスカーは口を噤んだ。
そう、魔王軍の幹部は、何の違和感も無くvictory order社の事務所兼屋敷に住み着いているのだ。
「ミア様の部屋の前は、血の臭いとか、ドブの臭いがする?」
「いや、すんげぇ良い匂いがして、空気が澄みきってる……」
「そうよね。生臭かったり、ドブ臭かったりするのは、あんたの部屋の前を通った時よ。
ライの部屋の前を通れば、何か爽やかな香りがするし、ローラの部屋の前を通れば、何か美味しそうな匂いがするわ。
つまりね、魔族にも色んな者がいるんじゃないの? って事。…… その他の種族の様にね」
「じゃあ何か? あの武装したキャンパー共とも分かり合える可能性が有るって言いたいのかよ」
「そうよ。魔族=全員が悪じゃないと思ってるわ」
結局、エスカーの意見は捩じ伏せられ、しばらく様子を見守ると言う事で落ち着いた。
その状況に、私はホッとしていた。
何故なら、アグスティナは次期魔王筆頭の実力者で、特殊な魔法を操る厄介極まりないやつだからだ。
その魔法は、元素魔法。
本人は ”土魔法の一種” と言っていて、私も一度教えてもらった事があるが、全く理解できなかった。
白狐のリーダーを始末したのも ”元素魔法” で、恐らく、体内の炭素を操作して内側から破裂させたのだろう。
魔法防御結界を張っていれば防げるが、炎や光の類が飛んで来るタイプの魔法ではないので、初対戦の者が初見で防ぐ事は不可能だ。
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「アリシオン、君はvictory order社の社長と親交は?」
「何度か警備の依頼をした程度ですよ。
私より、妻が仲良くしているみたいでね。なんでも、結婚前にvictory order社でお世話になってた事があって、在籍している聖女とは親友なのだとか」
「victory order社には聖女が居るのかね!?」
「えぇ、しかし…… 一体何の用事ですか? いい加減、本題に入ってもらわないと私も忙しい身なのでね」
「すまない、実はな……」
レオノールは、シェフシャ王国の国王 アリシオンに ”victory orderの社長から、何かとんでもない話を持ち掛けられなかったか” と、そんな感じの事を尋ねたそうだ。
聞いた話の内容をそのまま伝える事はしなかったようだが、察しの良いアリシオンは興味を示した。
「面白いじゃないですか。彼はストラス王国を牛耳っていますが、私欲に塗れている訳ではない。私は、彼と仲良くしたいと思うんですよね。私情ではなく、国益という観点でね」
奇しくも、その日の夕方、私とアリシオンの非公式な会談が行われたのだ。
ぼんやりと内容を聞かされていたアリシオンは、はっきりと輪郭のある話を聞いて、私の近未来予想図に ”乗る” 事にした。
「タイミングですが、帝国が ”よーいドン” と合図をしてくれるでしょう」
「そうか、では我々は ”君と仲良くして” ”帝国には少し不機嫌な態度をとって” 待っていればいいと言うことだね?」
「えぇ。合図の前に動くのは、私だけです」
その数日後。
シェフシャ王国は、victory order社とのパートナー契約締結を発表した。
「我がシェフシャ王国は、ストラス王国の民間軍事会社victory order社とパートナー契約を結んだ。彼等には、トリア王国と同様に領地の一部を提供し、持続的な投資を行うことになる」
そう発表したのだ。
その発表を知ったナホカト国は、乗り遅れまいとvictory order社とのパートナー契約締結を発表した。
勿論、帝国が黙って見ている訳もなく、私は後々呼び出しをくらってしまうのだが想定内だ。




