#41 真犯人
「オヴェェェッ!! victory orderの連中は容赦ねぇとは聞いてたが、まさかここまで酷いとは思わなかったぜ!! クソッタレッ!!」
現場検証に訪れたナホカト国騎士団は、その凄惨な景色に嘔吐した。
私は、保護した王女を城に送り届け、ありのままを説明したのだが、どうやら分かってもらえそうにない。
「調査に行った者は動揺していたが、気にする事はない。あまりの怒りに、少し力を入れすぎてしまったのだろう?
神聖騎士団の被害は痛恨の極みだが、私はロレーヌが無事保護された事を嬉しく思っているのだ」
「ですから、私が現場に着いた時には…… いえ、もういいです」
ふざけた話だ。
王女が無事だったら良いという話ではないだろうに、全員が私が始末したと勘違いしている。
騎士団内には、現場の状況に尾びれ背びれが付いた話が蔓延してしまい、私を恐れて、目が合えばビクつく始末だ。
この腑抜けた騎士団が気にしないといけない事は、私の一挙一動ではないはずだ。
盗賊を転移した地点で待っていたのか、それとも転移した盗賊の行き先を把握していて追跡したのかは知らないが、英雄を楽に始末できる ”何者” かが国内に潜伏している、その可能性の方だろう。
まぁ、私がやった事になっているので仕方無いのかも知れないが。
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信じてもらえないなら、それはそれで構わない。
開き直っている訳ではないが、我々の仕事は終わっているし、所詮は他国の事だ。
それに、実は私にとっては良い状況だったりもするのだ。
私は挨拶をする為だけにナホカト国まで来た訳ではない。この国に来たのは、目標達成の為に ”レオノールに踏み絵を踏ませる” 為なのだから。
「レオノール陛下、日を改めて王女を送り出すのですか?」
「…… そうするしかあるまい。今回の襲撃で死亡したなどと言ってしまえば、ロレーヌは一生不自由な暮らしをせねばならんのだ」
「確かに、死亡した事にするのは具合が悪い。ですが、盗賊に連れ去られてしまい行方不明という事にすれば、不自由な期間は長くは続かないのでは?」
「何故かね?
一生城から出れないか、しばらく城から出れないか。ただそれだけの違いでしかないと思うが。
まさかと思うが、ロレーヌが盗賊に純潔を奪われたと公表し、恥を晒して生きよと言いたいのかね?」
「まさか。我々 victory order社も警備に当たっていたのです。それは、我が社にとっても ”最低な結末” でしょう。
そうではなく、帝国が手を出せない状況になったとしたら? というお話です」
私は、要所はオブラートに包みつつも ”近未来予想図” を話た。
それは、レオノールにとって非常に衝撃的な内容で、気さくな彼は口を噤んだ。
「少し考えさせてくれ…… 私が守るべきは家族だけではない。土地も国民も守らねばならんのだ」
「慎重に、よく考えて下さいね。この話は、2つの選択肢しかありません。
”乗るか” ”すっぱり忘れてトイレに流すか” です」
「…………」
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そのうち返事が来るだろうと、私は帰路に就いた。レオノールがどの様な判断をするか見物だ。
今回の作戦で、ナホカト国は神聖騎士団の3分の1と一般の騎士30名を失い、負傷者は100名を超えている。一方、我が社の損害は負傷者20名程度で、命に関わる様な重傷者や、後遺症を心配する者は居ない。
新調した装備に、魔王ミアが小細工をしていたのはここだけの話だが、それにしても順調に戦力は増強されているようで何よりだ。
今後の様々な展開を考えていると、気が付けば、もうストラス王国に到着していた。
魔王ミアも言っていたが、馬車や船の旅は良いものだ。考え事が捗って仕方無い。
「みんなおかえり。ライ、長旅で疲れてるところ悪いんだけど、お客さんが来てるの」
事務所に着いた我々を、ルミナが出迎えてくれたのだが、心做しか表情が固い。
「俺とシドはお疲れだからよ。先に帰って1杯やっとくぜ」
「私もミア様に報告行かなきゃ!! ライ、接客よろしく!」
「…………。」
何と薄情なとも思ったが、応接室に入った時、寧ろ彼等の薄情さを神に感謝した。
「久しいな。ラインハートとやら」
嘗て、中隊を引連れてvictory order社を訪れた魔王軍の兵士、アグスティナが待っていたのだ。
「お久しぶりですね。今日はどういったご要件で?」
「あぁ、この会社は何かしらの依頼を請けて、その対価として金を貰うのだったな。残念だが依頼ではない」
「では、今回も行方不明の魔王様を探しに来られたのですか?」
「それもあるが、今日は引越しの挨拶に来たのだ」
「……?」
「我が部隊は、情報収集の為、あの窓から見える山岳地帯に駐留する事にした」
窓の外を指差しながら、アグスティナはそんな事を言うのだ。
私は、彼女が何を言っているのか解らず困惑した。駐留する事にしたと言う事は、情報収集目的にも関わらず活動を停止するという事で、その言い回しから、命令されたのではなく自発的に…… と言うか勝手に留まる事を決めたと言わんばかりだったからだ。
「ん? 手ぶらで来たのが解せないか?」
「いえ、そうではなく……」
「手ぶらではないぞ? 置き土産だったが、渡したであろう? 盗賊のミンチを」
「…… あれは貴女の仕業でしたか」
「 ”我々が” 相手にしていたのは、英雄ではなく神が遣わせし者 勇者 だったではないか。
あんな雑魚を仕留め損なうとは、らしくないぞ? ラインハートとやら」
魔眼を紫に妖しく光らせ、アグスティナは優しく微笑んだ。そして、さらに続けるのだ。
「一見、堅物で完璧主義者のような、そんな貴様が ”ごく稀に見せる” 下らない失態が、私はとても好きだ」
「貴女は何を言っているんですか?」
「貴様は、私を ”狂わす” つもりなのか? と言っているのだ。
まぁいい、私の要件は以上だ。ご近所同士、仲良くやろうではないか。なぁ、ラインハートとやら」
「…………」
何の目的でアグスティナは接近してきたのか知らないが、私の近未来予想図は大きく修正が必要になりそうだ。




